私の知る限り沖縄で、いや日本で最も隠れ家な飲食店は「そば処 あさぎ華麗(はなれ)」。ビルの隙間というか駐車場の境界線というか、これは道なのかという所を通り抜けて向かう必要があります。那覇のデカ盛りグルメのパイオニア「くりすたる」の裏手と言えばわかりやすいでしょうか(わかりにくい)。
ビルの狭間に佇む古民家。建築基準法や消防法、各種の条例をクリアできているのかと不安になる立地です。大型の家具や家電を買った場合はどうやって搬入するんだろう。とは言え国際通りからのアクセスは悪くなく、ゆいレールの美栄橋駅や県庁前駅から歩いても5-6分です。
他方、店内は上手にリノベされておりイマドキの和カフェのようなインテリア。コの字型のカウンターに10席ほどが配置されています。きちんとした身なりの女将さんの存在が、割烹料理店のような高級な雰囲気を感じさせます。
私は限定の「てびちそば」を注文。ジューシーに小鉢もついて1,600円。那覇のど真ん中でこれだけしっかりとした食事を摂ってこの支払金額は悪くないディールです。
主題のてびち。このてびちは凄いですねえ、まるでジュゴンや潜水艦のような風貌であり、この日、世界で最もてびちを食べた人類は私ではないかと思わせるほどのボリューム感です。箸を当てた瞬間に骨からスルリと外れるほど柔らかく炊き上げられており、豚足特有の雑味は全く感じられません。プルプルのコラーゲン感が堪らなくエモい。まさに飲む美容液とも言える気品ある味わいです。
ところで店内中央にシャンデリアのように生ハムが吊ってあるのですが、なんとその出汁がスープに用いられているそう。ベースは豚骨と鰹節でありつつ、生ハム由来の熟成された塩味と芳醇な香りが、従来の沖縄そばにはない洋風の奥行きと華やかさを与えています。澄んでいながらも驚くほど旨味が強いスープです。
セットで提供されるこのジューシーはパラリと解けるような完璧な炊き加減。豚の脂の旨味が米一粒一粒をコーティングしており、薄味ながらも深みがあり、先のスープと合わせて食べるに最適の米料理と言えるでしょう。この日の小鉢は人参しりしりに大根の細切りを煮たもの。そば屋のオマケの枠を逸脱したクオリティであり、おばんざいを主体とした飲み屋も併せてオープンしてもらいたいくらいです。お口直しに胡瓜とトマトの甘酢漬けが添えられるのも洒落てるなあ。
連れは「骨ソーキそば」を注文。そばと骨ソーキが別皿で提供されます。ちなみに麺は中太の縮れ生麺。一度冷水で締めているのか、ツルツルとした滑らかな喉越しと押し返すような力強いコシが感じられます。一般的な沖縄そばの麺にありがちなボソボソ感は無く、洗練されたうどんや冷麺のような心地よい舌触りを楽しむことができます。
別皿で提供される「骨ソーキ」は程よく焦げが付いており、バーベキューで感じるような火力の美点を楽しみます。沖縄そばのトッピングというよりはそれ単体で成立する肉料理。ビールが欲しくなる力強さです。
立地の怪しさに怯まず進んだ先には、丁寧な仕事と静かな空間が待っていました。伝統的な沖縄そばの枠組みを守りつつ、生ハム出汁や生麺の食感で現代的なエッセンスを加えるバランス感覚は、まさに隠れ家と呼ぶに相応しい。那覇で少し趣向を変えた沖縄そばを楽しみたい場合は是非どうぞ。
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