レストラン アロム(Restaurant AROMES )/大崎

神楽坂で名を馳せたフランス料理店「レストラン アロム」が大崎に移転。ワインのインポーターである「ヴィノラム」の経営です。なのですが、レストランの外観はデカいビルの1階のテナントであり風情がありません。
入店してからもヘンに明るく、ファミレスとまでは言わないまでもカフェバーというか何というか、とにかくカジュアルな雰囲気で拍子抜け。照明を落としてクロスを張るだけでグっと大人っぽくなると思うのだけれど。BGMが90年代のR&Bというのも謎。永瀬友晴シェフは2019RED U-35でブロンズエッグを受賞した次世代センターです。
ワインは全てソムリエにお任せ。全体的に奇をてらわず料理に寄り添うベーシックなペアリングで私好み。冒頭の泡(シャンパーニュではない)こそ並々注いでもらえましたが、1皿1皿に合わせる量はそれほど多くなく若干の物足りなさを感じました。

「〇〇って本、知ってる?」彼女は身を乗り出して私に尋ねる。うーん、知らないなあ。ビジネス書とか自己啓発本には疎くって。「Amazonのナントカランキングで1位になったらしいんだけど、その経緯が酷いの」
アミューズはフォアグラの風味が練り込まれたフィナンシェ(?)にフォアグラのクリーム。トップを飾るのはマッシュルームです。決していやらしくなくサラっとしたフォアグラ使いであり、完成度の高いアミューズです。
続いて八つ橋。中身にはチーズやナッツが含まれており面白い味わいのアイデア賞。

「出版社とグルになって、大物作家が本を出さない週だか月だかを狙って一気に売り出すの。そう、まさに一気呵成に」そんなの当たり前じゃないの?普通の商売人であれば普通に考えることだ。
冷前菜はホタテ。清澄な帆立に爽やかなソース、トマトの酸味を重ねます。重層的ではありますが統率も取れた清々しい味覚です。
パンは普通。まあ、全体的にソース濃いめな料理なので、まあ、こんなもんでしょう。

「そこからが勝負の3週間なのよ。そのエアポケットみたいな期間でとにかく瞬間最大風速を大きくするの。自作自演で買いまくるのなんて当たり前。更には知り合いを幅広く頼るのね。で、あたしの出番」
ヤリイカは中にそのミンチやワイルドライスが詰め込まれており、磯の香り漂う濃密なソースと共に肥沃な味わい。漆黒のソースを飛び散らせる確信犯的風貌と共にシェフのセンスを感じる1皿でした。
ポタージュはジャガイモ。しばらく熟成させた名のあるジャガイモを用いているそうで、なるほど心の奥深くに染み渡る味わいです。

「『〇〇ちゃんは顔広いから、周りのみんな声かけてくれない?金は払うから』ってお願いされるわけ。したら本当にその人からAmazonのギフト券が送られてくるのよ。そのまま貰っちゃうのも気持ち悪いから、買わざるを得ないじゃない?」
お魚はヒラメ。焼津のサスエから取っているそうですが、仕入れ先はどうあれ身が厚く量も2枚重ねであり美味しさも倍増。ソースもコッテリとした王道の味わいです。
メインは鴨。オーソドックスな調理であり、これまたオーソドックスなソース。こねくり回さず実直に料理する姿勢に好感が持てました。

「めでたく何かの瞬間の1位?ベストセラー?にはなれたらしいんだけど、そんなインチキやって何が嬉しいのかしら」まあ、その瞬間のベストセラーという事実を手に入れることができたから、ひとつの戦略としてはアリなんじゃないの?個人的にはそうやって完全にバレちゃって、というかバラされちゃっているのに平気でいられる鋼のハートが何より凄いと思う。
デザートはパフェ。季節のフルーツにクリームがたっぷり。並のカフェだと千円近く取られても不思議ではありません。

「1位になったお祝いに、自宅で寿司職人呼んでパーティーするから遊びに来てよって呼ばれたわけよ。自慢のタワマンに。したら部屋がまあまあ狭くってさ。いや、もちろんあたしの家なんかに比べると全然広いんだけど、『自宅で寿司職人呼んでパーティーする』にはかなりキツい。ぎりぎりアウト。わかる?このまあまあ狭い感。ゲスト以外に寿司職人とかもいて、ずっと立ちっぱだから余計に圧迫感あってさ」
お茶菓子もお手製でほんのり温かい。ここのシェフは料理の全てが基本に忠実であり、フランス料理に対する真摯な姿勢がとてもとても良い。真っ当なフランス料理ここにあり。

で、結局その本の内容はどうなの?面白かった?「ん?ああ、読んでない」
食後のお茶で〆てごちそうさまでした。以上をひと通り食べ、全ての皿にグラスを合わせてもらってお会計はひとりあたり1.2万円。料理とワインの質ならびに量を考えればリーズナブルと言えるでしょう。ただ、やはり立地や外観、内装や照明の明るさ、家具などなど本質でない部分ですごく損をしている気もします。もっと厳かな雰囲気で提供されれば印象はまるで異なる気がした夜でした。

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