悪いニュースと良いニュースがございまして、まずは悪いニュースから。貴店についての記事は書かせて頂きます。

週末の午後、二日酔いの鈍い頭を抱えながらスマホに届いたメッセージを見遣る。
「(前略)あのお店は常連さん多かったり働く人が限られてて有名になると大変って言ってたので、もし可能であれば記事にしないでください✨プライベートでのご贔屓にお願い致します✨(*^ω^*)」
謎のメッセージである。送り主は私の女友達であり、便宜上Aさんとしましょう。ゆうべ私がお邪魔したお店は偶然に彼女の友人のお店だったとのこと。ただ、ゆうべAさんがその場にいたわけではない。改めて謎のメッセージである。

さらに続けて、ゆうべご一緒した友人(以下Bさん)からも連絡が。
「なんか、特に○○さん(私の名)のことは話してないのですが、お店の人から、できればブログに書かないで欲しいとのお願いがあったのですが、大丈夫でしょうか、、?なんかすいません、、。」
ハハーンなるほど、ゆうべは店に身バレしていたのですね。冒頭のメッセージはそういうことだったのかと得心。しかしそれを直接本人に言わず、人を介して伝達するのはちょっと違うんじゃないかなあ。お店と私との間で板ばさみとなる彼らの胸中を推し量り、早期解決が必要と、こちらから直接お店に連絡することにしました。
「お世話になります、ゆうべお邪魔させて頂いた者です。美味しいお料理、ごちそうさまでした。○○と○○と、○○が特に美味しかったです。
さて、『記事にしないで欲しいとの旨、Aさん・Bさんよりご伝達頂きましたが、そのようなお話は無関係な方を介しての伝言ではなく、 直接私に言って頂けないでしょうか?彼らもC様(オーナーシェフの名)と私との間の板ばさみとなり、困惑していることでしょう」
すると同日夜に、Cさんより2,000字を超える返信が届きました。恐らく人生で受け取ったメールの中で、最も長いお便りのひとつです。要約すると、
  • 連絡手段が不明なためAさんBさんを頼ってしまった。
  • タケマシュランのように影響力のあるブログで紹介され有名になってしまうと、今現在のお客様の受け入れが難しくなる。今のゲストを大切にしたい。
  • 来店時はたまたま通常よりも多く予約を取ってしまっており、不本意な営業の姿を晒してしまった。
  • Bさんがお味はどうですか?のような質問をし、○○さん(私の名)が無言で流しているのを見てしまい、○○さんのお口に合わなかったのだと認識してしまった。
  • Bさんから当店を試すような言動が多々あった。
  • 良くも悪くもお店の経営に影響が出ることは避けたかったので、掲載をやめて欲しいと申し出た。
とのことでした。しかしながらタケマシュランの熱心な読者でもあるCさんは、過去記事をじっくりと読み返し、一晩よくよく考え、下記のような心境の変化が生まれたとのこと。
そこまで誠実に思案し心境を吐露してくれるのであれば、こちらとしても真摯に向き合う必要がある。私がお返しした文章は下記の通り。
悪いニュースと良いニュースがございまして、まずは悪いニュースから。

貴店についての記事は書かせて頂きます。「知人を介してゴネれば悪く書かれないで済む」という風評が立つと私も色々と困るので。

例外的に記事にしないこともありますが、それは「会員制でお店から事前に明確にNGと言われている」「プレオープンに無料招待され助言を求められている」「身バレして過剰なサービスを受けたため読者をミスリードしてしまう恐れがある」などの場合に限られます。貴店のようにSNSページを持ち、食べログに公式情報を載せ、東京カレンダーの取材を受け、外に看板を掲げて営業しているのにも関わらず『今現在のお客様の受け入れが難しくなる事を懸念して』『今のゲストを大切にしたい』というのは説得力がありません。

私の記事にそんなに影響力があるとは考えておりませんが、仮にそうだとしても、良くも悪くもそういう時代だから仕方ないのではないか、というのが私の素直な気持ちです。 『今現在のお客様の受け入れが難しくなる事を懸念して』『今のゲストを大切にしたい』のであれば、「完全会員制」「常連枠を残しておく」「常連は一見よりも先に予約を受け付ける」などの自衛策はいくらでもありますし、それを実践して成功を収めている事例は枚挙にいとまがありません。

次に良いニュースです。貴店の記事はポジティブなものとなるでしょう。貴店は○○レストランとしてはトップクラスに美味しく…(店名が特定できないよう中略)

『不本意ながら、昨日のような営業の姿を晒してしまう結果となった』と、随分と気を揉んでらっしゃいますが、私たちは全く気にしていませんでしたよ。繰り返しになりますが、○○と○○と、○○は絶品でした。

オペレーションについても、そもそものんびり過ごすつもりでお邪魔しているので、出すペースが遅いとは全く感じておりませんでした。

Bさんも、そんなに試すような言動をしていたでしょうか? 私が酔っ払っていたのでしょうか、全く心当たりがありません。

今回最も迷惑を被ったのはAさんとBさんです。私からもお詫びしておきますので、改めてCさんのほうからも礼を尽くしておいて頂ければと存じます。

貴店の料理は間違いなく美味しいし、連日予約で満席です。もっと自信を持って下さい。
その後の細かなやり取りについてはご想像にお任せしますが、結果として極めて友好的に、互いに納得して当トラブルが終結するに至りました。やはり軋轢からは逃げるべきではない。碇シンジもそう言っている。問題にはまず議論から始めることが肝要だと、改めて身に沁みた一件でした。

有為転変は世の習い。SNSが発達し一億総ジャーナリスト時代に突入しました。『自称レストラン評論家』という厄介な時代の産物を相手にする上では、腹を割って正直に話す姿勢が、最も効果的かつ効率的なのかもしれません。
最後に上記の本より。「レストラン評論家をどう思うか?」という質問に対し、NYレストラン界の大物であり、歴代の大統領や大富豪、世界的な名優、名歌手、名選手を相手にしてきたシリオ・マッチオーニ氏は、こう答えました。
「やつらはまあ、レストランというショウの登場人物だ。だったらせいぜい、ショウを盛り上げてくれたらよろしい」


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。