すし㐂邑(きむら)/二子玉川

熟成鮨のパイオニア「すし㐂邑(きむら)」。食べログ4.55(2020年10月)でゴールドメダル獲得・ミシュラン2ツ星であり、当然に予約困難店だったのですが、何年も先まで予約を取るという営業スタイルを止め、1週間かそこらの未来までしか予約を取らなくなりました。
店内はカウンターのみの10席。大将とマダムのツーマンセルで1回転という形態であり好感が持てます。木村康司シェフは東京の鮨屋の三代目として生まれ、身内の店で腕を磨いたのち「天ぷら美かさ」でも経験を積みました。
飲み物メニューはあるのですがワインを除いて値段は記載されていないのですが、最終支払金額から逆算するに、ビールや日本酒はいずれも1杯千円かそこらでしょう。ウーロン茶が大ぶりのバルーン型のグラスで提供され高級感があります。
まずはシジミのエキスで肝臓を補強します。
最初のツマミはホッキ貝のオイル漬け。藁で燻してあるのかスモーキーな香りが酒を呼ぶ。
穴子をクタクタに煮てミンチ(?)にしたものにガリや山椒が練り込まれています。ありそうでないツマミ。バケットとかに塗っても面白そう。
あん肝はクリーム状にしてからアマダイの身に絡めます。問答無用に酒が進む。ネギや白菜をクタクタに煮たトッピングの青い風味も魅力的。
クジラのサエズリ。舌の部分だそうですが、これは面白い料理ですねえ。脂身っぽいタッチなのですが非常にクリーンな味覚であり、手つかずの鉱脈を発見した気分でした。
タラの白子のスリ流し。クリーミーという表現がピッタリの味わいであり、先のアナゴも含め不思議とフランス料理っぽいニュアンスを感じる鮨屋です。
うにそば。当店はトロ・イクラ・ウニ・クルマエビといった鮨屋のスター選手たちをにぎりで起用せず、風変りな手法で提供されます。旨い。提案型の鮨屋である。
メヒカリ。こんがりと焼かれていますが中身にはジュワっとした脂をたっぷりと蓄えており、ホクホクとした身も美味しい。
ワタリガニのブランデー漬け。中華の酔っ払いガニや韓国のケジャン的な逸品であり、大人の味わいです。ブランデーのビターな風味にトロンとした甘いカニの身が堪りません。
ここからにぎりに入ります。まずは海苔とシャリのみで自己紹介。このシャリはだいぶ変わってますねえ。粒が大きくパラパラとほどけるような食感であり、上質な大麦のようなタッチです。バリっと聞いた酢も旨く、好みが分かれそうですが私とても好きあるね。
アマダイ。当店は熟成鮨の先駆けであり、どんなグッチャグッチャなタネが出て来るのかと震えあがっていたのですが、なかなかどうして良い意味で普通のにぎりからスタートでした。うまいやん。
ガリはぶつ切りで食べ応えあり。ギュっと酢がきいており攻撃的な味覚です。
ボタンエビ。甘さよりも旨味が目立ちます。
シマアジも意外(?)にもしっかりと歯ごたえがあり〼。
カツオは旨味がギュっと凝縮し、加えて藁で燻された風味も相まって乙な味。
カワハギ。内側にはキモがたっぷりと挟み込まれており、クワっ!美味しい!日本酒をおかわりだ!
スジコは塩分過多で死んでしまいそうなビジュアルですが、塩がスッパリ抜かれており適度な塩加減。イクラとはまた違った魅力があり、磯山さやかや熊田曜子を彷彿とさせるボリューム感です。
ブリ。徐々に熟成度合いが強くなってきました。ブラインドでは何を食べているかわからないかもしれませんが、ジュワっとした余韻の長さはクセになる。
コハダは特大サイズでナカズミに近いもの。ガシっと酢で〆られており、物怖じしない味覚です。
マカジキは2か月近い熟成。なのですがここまで来ると複雑な上に曖昧なニュアンスが強くなり、美味しいのですが記憶には残り辛く感じました。
アナゴは煮汁(?)をたっぷりと吸っており、パラりとしたシャリによく合う。口の中で穴子リゾットへと化し至福のひと時。
ギョクはクレープのような薄切りでにぎりとして提供されます。カステラタイプのシャリ抜きが主流の昨今、斬新に感じる仕様です。
デザートはどぶろくのジェラート。日本酒というかお粥というか酵母というか、素朴ながら深みのある味わいであり、当店の芸風に相応しいフィナーレです。

お会計はひとりあたり4万円弱。一食としてはすげえ高い金額ですが、都内でこのクオリティの鮨を食べるのであれば妥当な範囲でしょう。銀座や六本木あたりよりも客層が良く、きちんとした鮨好きが集まっている雰囲気もグッド。感じのよいアニキといった風情の大将や、女将さんの卒のないサービスも魅力的。高価でやや難解な面もある鮨屋なので、鮨仲間とニコニコしながら訪れましょう。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。