那覇市上之屋から久米に移転した「ラトリエ(L'atelier)」。島袋司シェフは「亜熱帯ガストロノミー」を標榜し、沖縄県産の食材をふんだんに使用したフレンチ料理を提供します。その独創的なアプローチは広く認められ、「情熱大陸」に特集され、また、「ゴ・エ・ミヨ」にも掲載されています。
以前の店舗は国道58号沿いの雑居ビル2階のテナントでしたが、現店舗は路面店でグっとシックになりました。席数も増え、カウンター席にテーブル席、個室の用意もあり、また、ブライダルなどバンケットでの利用にも対応しているようです。
ワインはフランス産と日本産のものが中心で、東京のフランス料理店と変わらない価格設定です。ドンペリニョンなど分かり易いものの値付けが妙に高かった気がする。お口取りにセビーチェ。セビーチェの爽やかな酸味と、パッションフルーツのトロピカルな甘酸っぱさが融合し、マンゴーの甘みがまろやかさを加えます。
赤ピーマンのムースとコンソメのジュレ。ムースは滑らかで軽やかで、ピーマンの濃厚な旨味が心地よい。コチラにも魚介類がたっぷりと詰まっており、コンソメジュレの透き通った塩気と深みが全体の風味を引き締めます。
バロティーヌ。しっとり柔らかな鶏肉に、沖縄食材を象徴するゴーヤのほろ苦さが絶妙なアクセントを加えます。
パンは素朴な仕様。全体を通してソースがコッテリ目だったので、これぐらいでちょうど良かったのかもしれません。グルクンのエスカベッシュ。こちらも沖縄を代表する食材であり、グルクンの淡白な旨みが、マリネの爽やかな酸味を吸い込み、一体感のある奥深い味わいに。
リゾットも出ます。具材には沖縄の白イカを用いており、アルデンテの米に白イカの甘みと弾力が溶け合います。純白のリゾットを彩るのは、黒と白、二色のソースのコントラスト。イカ墨がもたらす磯の香りと深い旨み。そして沖縄の珍味「豆腐よう」の、まるで熟成チーズのように濃厚で芳醇なコク。酒が進むリゾットです。
ラヴィオリにはヨモギを練り込んでおり、ほのかな苦みと清涼感ある風味が特長的。中の海老はプリッとした食感と甘みが際立ち、甲殻類の旨みを凝縮した濃厚なビスクソースが、ヨモギの持つ爽やかなほろ苦さと、海老の上品な甘さを優しく包み込みます。
ジャガイモのブクブクしたスープ。ジャガイモの優しい甘みを最大限に引き出した、ビロードのように滑らかなポタージュ。その中に潜んでいるのは、同じくジャガイモで作られた、もちもちと弾む食感の自家製ニョッキ。「スープ」と「具材」という、ジャガイモの異なる表情が口の中で楽しい二重奏を奏でます。
沖縄の希少な地魚「ゲンナー」をヴァプール(しっとりと蒸し上げる調理法)で仕上げました。ふっくらと柔らかい白身からは、上品で繊細な甘みが溢れ出します。ソースはブールブランで、バターの豊かなコクと爽やかな酸味が調和します。
メインは和牛のヒレ肉。こちらは素材ド直球の調理であり、肉そのものの味わいを楽しみます。フォークがスッと入るほど繊維が繊細で、舌の上でとろけるような滑らかな食感が心地よい。脂のしつこさはなく、後味は驚くほどあっさり。
デザートは沖縄の伝統菓子チンビンをフレンチ風にアレンジ。は黒糖の濃厚な甘みと香ばしさが特徴のしっとりしたクレープ生地で、もちっとした食感が魅力的。パッションフルーツのソースは、鮮烈な酸味とトロピカルな甘みが黒糖のコクを引き立て、爽やかなアクセントを加えます。
お茶菓子と沖縄の紅茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上のコース料理が1.8万円ほどで、ワインをしっかり飲んでお会計はひとりあたり3万円強。これは派手派手に飲み食いした結果であり、安いコースとアルコールのペアリングなどで済ませれば2万円でお釣りが来るでしょう。「島キュイジーヌ あーすん」と同様、沖縄の食材を上手くフランス料理に組み込んでおり、興味の尽きないコース仕立てでした。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- オトワ レストラン(Otowa restaurant) ←本気でフランスの料理文化に取り組んでいる。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション (Joel Robuchon) ←やはり完璧。
- La couleur d'ete(ラ クルール デテ) ←選んだ孤独は良い孤独。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- elan(エラン) ←表参道のナポレオン。
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- エルヴェ(eleve) ←アラカルトでもコースでも自由自在。
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- エステール(ESTERRE) ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。