鮨 登喜和(ときわ)/新発田(新潟)

新発田で一番、新潟でもトップクラスの人気を誇る鮨屋「鮨 登喜和(ときわ)」。1954年創業の老舗であり、新発田の歓楽街のど真ん中に位置します。ミシュランでは1ツ星で、食べログではブロンズメダルと百名店を受賞しています。
地方の古い鮨屋ではありますが内装は現代的。L字型のフラットなカウンター席と個室カウンターという布陣です。一斉スタートのお店で予約時間ピッタリじゃないと入店できず、近くに時間を潰す施設も無いのでご注意を。私は駅前の図書館で、地元の高校生に交じってずっと雑誌を読んでいました。

小林宏輔シェフは当店の3代目であり、東京でドラムを叩く毎日を経たのちに鮨の世界に飛び込み、2010年に当店へ戻り現在に至ります。地産地消にこだわり、新潟で獲れた食材のみでツマミとにぎりのコースを完遂させます。
酒はビールやワインもあるのですが日本酒がオススメ。好みの方向性をお伝えすれば後は対象が地酒を中心に上手くやってくれます。細かな価格設定は不明で、最終支払金額から逆算するに1合2千円弱かなあ。食事代に比して酒はやや高めです。
先付にゼリー。シジミのエキスをたっぷり用いたゼリーであり、夏野菜がカラフルに配置されています。ちなみに当店はスロースターターであり、序盤はのんびりと進捗しイラチはイラつく場面もあるかもしれませんが、後半にかけてアッチェレランドしていき2時間半におさまるのでご安心を。
さっそくにぎりで春子鯛。一般的にはサッパリとした印象のタネですが、こちらはキッツケが厚く深みのある味わいであり、どっしりとした食べ応えです。
ガリは激しく甘酸っぱくパンチがあります。シャリはコシヒカリの変異種 「豊コシヒカリ」を用いているそうで、羽釜で丁寧に炊き上げます。粒が大きくワシャワシャと説得力のある食べ応えです。
写真からは見えづらいですが、器の中には毛ガニが山ほど詰まっています。その上にトロトロの白子をトッピングし、海苔を活かしたソースでコッテリ頂きます。何とも婀娜っぽい味覚に毛ガニのハッキリした旨味。お酒が進む逸品です。
南蛮えび。いわゆる甘海老ですが、その甘味の濃度は天下一品。噛みしめるほどの艶っぽい甘味が口腔内に満ちていきます。
佐渡島のマグロ。この中トロは美味しいですねえ。赤身の酸味と脂身のコクのバランスが良く、大間一辺倒の鮨業界に一石を投じる美味しさです。
こちらはメジマグロ。いわゆるマグロの幼魚であり、大人ほどのコッテリ感はありますが、大人には無いキレイな味わいが感じられ、スルスルと胃袋におさまっていきます。
アカアマダイ。1匹1匹丁寧に釣られた個体でありストレスが極小化されているからか、何ともクリアで繊細な味わいです。しっとりとした昆布締めの風味もオシャレですな。
アカイカ。全国的には剣先イカと呼ばれており、小気味よい歯ごたえに骨格のある甘味が記憶に残ります。
アワビは海洋深層水の中で昆布に挟んで畜養するという、素人にはよくわからない何だかややこしい工程を経ており絶品。そのまま食べて良し肝のソースとあえてリゾット風に楽しむも良し。
岩もずく。さっぱりとした味覚でお口直し、と思いきや、もずくそのものの風味が強く記憶に残る味わいです。
キス。にぎりで食べることは少ないタネですが、このキスはべらぼうに美味しいですねえ。単に魚が旨いだけでなく、酢だの昆布だの塩だの手の込んだ工程を経ており、思わず目を閉じてしまう深みがありました。
大鍋を用いて目の前で茹でられるクルマエビ。そうそう、当店はヘンにワラワラと小僧たちを雇うことなく、家族全員のオール登喜和で仕事に取り組んでいるのがいいですね。この海老を茹でたのは奥様であり、東京のポリコレ的にどうなのという鮨屋は見習うべき姿勢でしょう。
マグロの脳天やら何やら色んな部位をミンチにして楽しむネギトロ。トロリとしたマグロの旨さは勿論のこと、たっぷりの海苔や粒の立ったシャリなど迫力のある巻物でした。
ノドグロは塩茹でにした上で軽く炙ります。美味しいのですが、個人的にはシンプルに炙っただけのほうが好きかもしれません。しかしながら人の好き好きを凌駕する訴求力も感じられます。
バイ貝は包丁で丁寧に丁寧に叩きます。コリコリとした食感を楽しみつつバラリとシャリがほどけていき、食感の楽しいひと品です。
マハタは分厚く分厚くスライスし、軽くしゃぶしゃぶにして芽ネギを挟んで頂きます。このにぎりは抜群に美味しいですねえ。普通、終盤のにぎりはお腹が膨れ惰性になりがちですが、このタイミングで食べ手を唸らせるとは天晴れである。
ラストはアナゴ。じゅくじゅくジットリとした舌ざわりであり実に濃密。ツメか塩かを選択することができるのですが、思い切って「両方で」と言えなかったのが心残りです。
フィニッシュはギョク。お椀やデザートは無く潔い締め括りです。

以上を食べ軽く飲んでひとりあたり2.1万円。このクオリティで支払金額は銀座の半分最高か。地方でこれだけレベルの高い鮨を愉しめることを考えると、東京で鮨を食べるのが馬鹿らしくなってきます。

また大将は人懐っこい雰囲気の好人物なのですが、その場の空気を統制する意識も持ち合わせており、ダルめの常連さえ上手くあしらっていたのが印象に残りました。客と自慢話を競い合っている東京のアホな鮨屋は当店に勉強に来ると良いでしょう。オススメです。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。