2023年4月、東京駅前の「東京ミッドタウン八重洲」の40階から45階に開業した、「ブルガリ ホテル 東京(Bulgari Hotel Tokyo)」。この日はその40階に位置するメインダイニング「イル・リストランテ ニコ・ロミート (Il Ristorante - Niko Romito)」にお邪魔しました。開業から8か月で1ツ星を獲得しています。
空間デザインはイタリアの著名な建築事務所「ACPV アーキテクツ アントニオ・チッテリオ・パトリシア・ヴィール」が手掛けており、ホテル全体のインテリアコードを引き継いでいます(以上の画像は写真は公式ウェブサイトより)。
空間を支配するのはブルガリのシグネチャーカラーであるサフランオレンジなのですが、時節柄、参政党の会合にお邪魔したような気分です。鎮西寿々歌がよく似合う。ちなみに夜だと窓ガラスに店内の照明が反射して何が何だかわからないので、写真命の方はランチタイムにお邪魔したほうが映えるでしょう。また、あくまでホテルのダイニングであり、宿泊者がTシャツでフラフラしてたりもするので、ガチガチの接待やお祝い事には向かないかもしれません。あくまで宿泊客が優先です。
ラグジュアリーホテルのダイニングなので、ワインの値付けは流石に高い。これだけ高価だと、消費税10%とサービス料15%がジワジワとボディブローのように効いてきます。我々は泡を1本注文の上、肉料理にはグラスワインを合わせて頂きました。ちなみに当店はソムリエールが素晴らしく、お店の格に合わせたキリっとした対応で、バリバリと仕事をこなしていきます。中東系のエアラインのCAにいそう。
コースは「MENU DEGUSTAZIONE」という最高値コースでお願いしました。まずはシェフからの御挨拶ということでトマトのスープ。トマトの旨味と酸味のバランスが良く、ニンニクの風味も思い切りが良い。大ジョッキで飲みたいくらいである。
ちなみに店名にあるニコ・ロミート(Niko Romito)シェフは、経済学を修めた後に料理の道へ進んだ異色の経歴で、父の店を継いだ自身のレストラン「レアーレ」でミシュラン3ツ星を獲得しており、ブルガリ ホテルズ & リゾーツの全レストランの監修を務めています。
シマエビ。新鮮なシマエビのとろけるような舌触りと繊細な甘味をイタリア料理の基本であるパセリとレモンが爽やかに引き立てます。アクセントとして加えられるピンクペッパーからはフローラルな香りが感じられ、料理全体に華やかで複雑なニュアンスを加えます。
パン類はいわゆるパンとグリッシーニ、ゴマのパリパリ煎餅(?)の3種用意されます。添えられるオリーブオイルの質が極めて高く、まるで新鮮なオリーブの果実をかじっているかのようです。ナポリの伝統料理であるズッキーニのスカペーチェ。松の実のクリームの風味の主張が強く、松の実特有のまろやかなコクと優しい甘みが印象的。調味も複雑で、酸味とその清涼感、仄かな甘味と色んな味がする。ズッキーニ料理として世界最高峰の作品と評して良いでしょう。
詰め物のパスタであるトルテッロ。中にはトロリとした食感のナスのフィリングが詰まっており、野菜の甘みと旨みが凝縮されています。そこに添えられるブッラータが、フレッシュでクリーミーな乳製品のコクを加え、全体の味わいをリッチかつまろやかにまとめ上げます。なんて手の込んだパスタ料理なんだ。
冷製のタリオリーニ。ウニそのものの美味しさは当然として、とにかく麺とソースが素晴らしいですね。全体として濃厚な味覚にパセリの爽やかな香りと僅かな苦みも感じられ、ピリッとした唐辛子の辛味がウニの甘みを一層引き立てます。
お魚料理はイシダイ。ムチムチとした弾力を感じさせる調理であり、その淡白ながらも上品な旨みを持つ身にケッパーとレモンのソースが組み合わされます。極めてフランス料理的な調理および調味であり、素材とソースのバランスが見事です。ちょっと量が少ないのが残念。
お肉料理は仔牛。仔牛の持つ繊細でクセのないピュアな旨みをトロリと口当たり良く仕上げており、香ばしくクリーミーなアーモンドのソースが肉の味わいにナッティな深みとコクを与えます。多層的な味覚で文句なしに美味しいのですが、先の魚料理と同様にポーションが小さい。
デザートはメレンゲのミルフィーユ。イタリア料理店でここまで手の込んだスーツが出て来るのは珍しく、サクサクと小気味よい食感のメレンゲと旬を迎えたイチジクのねっとりとした芳醇な味覚を楽しみます。ヨーグルトのムースとレモンの香りも洒落てます。
お茶菓子はひとくちドーナッツっぽいものであり、クリームがリッチで美味しいのですが、ミスドのDポップのようでもある。銀座の「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン(BVLGARI Il Ristorante LUCA FANTIN)」のお茶菓子のほうが印象が良かった。
以上でお会計はひとりあたり5万円強。冷製のタリオリーニまではあげぽよだったのですが、魚と肉、デザートで味は良いものの食べ応えがなく、失速した印象を抱きました。最も皿数が多いコースでこの量とは残念無念であり、恐らくロブションでの摂取カロリーの半分にも届かないのではなかろうか。スペ110程度でないとお腹いっぱいとは感じられないかもしれません。
料理についてもコンテンポラリーに寄り過ぎて郷土色は無く、パスタが出なければフランス料理と捉えられかねないスタイルです(ワインリストもシャンパーニュのラインナップが謎に充実)。
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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
- ウシマル(Ushimaru)/山武市(千葉) ←ちょっとした海外旅行に来たような満足感。
- ヴィラ・アイーダ(Villa AiDA)/岩出(和歌山) ←我が心のイタリアン第1位。
- プリズマ(PRISMA)/表参道 ←高価格帯のイタリア料理という意味では東京で一番好きなお店かもしれない。
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イタリア20州の地方料理を、その背景と共に解説したマニアックな本。日本におけるイタリア風料理本とは一線を画す本気度。各州の気候や風土、食文化、伝統料理、特産物にまで言及しているのが素晴らしい。イタリア料理好きであれば一家に一冊、辞書的にどうぞ。
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