サエキ飯店/目黒

2019年に開業して瞬く間に予約困難となった「サエキ飯店」。目黒駅から恵比寿方面へ10分ほど歩いた住宅街にあります。コロナ禍で営業時間は短くなり、予約の難しさは増すばかりなのですが、私は再びお声がけ頂くことができ、数カ月ぶりにお邪魔します。
カウンター6~7席にテーブルが1卓と小さなお店。シンプルな誂えながらキッチンはピカピカという、ここは必ず旨いぞとゴーストが囁く雰囲気です。

佐伯悠太郎シェフは聘珍樓など中華料理の名店で腕を磨いたのち、日本と香港を行ったり来たり。広東省21市すべてのエリアを回ったり、現地で農業に従事したり鶏の卸業者で働いたりジョージアまでワインを学びに行ったりとフットワークめちゃ軽です。
まずはビールをお願いすると香港の「Lion Rock Brewery」がデンデンデンと並びます。「東京最高のレストラン 2020」でも話題にされていましたが、複数種のビールを客の好みを忖度せずに雰囲気で全て決める鋭さが心地よい。
ビールのアテにミミガー。私が一年のうちに沖縄で過ごす期間は中々のものですが、こんなに整ったミミガーを食べるのは初めてです。裏を支えるトリッパの煮込みは見た目以上に深みがあって、永遠に咀嚼し続けてしまう奥行きがあります。
骨付きの鶏肉。さっきまで吊るされていた丸鶏をバツンバツンと骨ごとぶった切って頂きます。調味は塩味だけなのでしょうが、なんとも複雑な鶏の旨味がしみじみ旨いひと皿。これぞ広東料理。
タケノコと豚肉をザザザと炒めます。和食で食べる、まさに素材といったタケノコも良いですが、私はやはりしっかりとした調理に立脚した美味しさを好みます。豚肉のコクがタケノコの素朴な風味によく合う。
スープはパパイヤ、ピーナッツ、鶏や豚のエキス。天下一品の「こってり」を突き詰めたような味わいであり、良い意味での脂臭さをベースに品の良い旨味が口腔内に広がります。
おこわが詰まった手羽先。高温で急速に揚げられており外皮の香ばしさといったらない。続くおこわのモフモフ感もアジア人であれば堪えられない美味しさです。
レタスです。ただのレタスだけなのですが謎に美味しい。こういう料理は欧米圏には中々ない。火の通りのスピード感やズバっとした調味によるものなのでしょうが、マジでただのレタスなのに妙に食わせるレタスです。
チャイロマルハタ。沖縄など温かい地方でお目にかかることの多い高級魚。こちらもガガガと揚げてビュビュビュと味付けしただけのシンプルな料理なのですが、勢いというか鋭さというか、とにかく迷いのない味わいです。酒のお供に最適。
麻婆豆腐、ではなく、それほど辛くはないスパイスを多用したカレーに近い料理。おそらく初めて食べる味わいなのですが、どこか郷愁を誘う風味であり、後を引く美味しさです。ゴハンはロングライスで実に香り高く、カレー(?)と合わせて食べて口の中で完成する味覚。
〆のそばは坦々スープか上湯スープかを選択できるのですが、迷わず両方お願いしました。こちらは担々麺。ゴマだらけでもなく山椒だらけでもなく、やや酸味を感じる気品あふれる味覚。パクチーのアクセントがとてもマッチします。
こちらは上湯スープ。澄んだ上品な味わいですが、存在感に満ちた味わいです。序盤のパパイヤとピーナッツのスープにせよ、当店の汁モノは本当に美味しい。「明道町中国菜 一星(いいしん)」のように、スピンオフしてラーメン屋も開いて欲しいところです。
あまおうのアイスクリームで〆てごちそうさまでした。

クラフトビールにワインを1本ふたりで分けて、お会計はひとりあたり1.5万円弱。今夜も見事な費用対効果です。最近の中華料理は飲んで食べて1万円を大きく切る安旨店と、バカみたいに高い超高級店とに二極化が進んでいますが、当店はその隙間を埋める独特のポジション。乙にすました近付き難いさはないもののバリバリに旨いという、ちょうど良い関係。こういうお店がコロナだろうがニアサーだろうが余裕で生き延びるのだろうと思いました。

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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
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