ShinoiS(シノワ)/白金台

白金台は八芳園の近く目黒通りから1本折れた路地にある「ShinoiS(シノワ)」。看板などはなく窓辺に並んだワイングラスを見つけ、ここかなと検討をつけます。
カウンター7席と個室のみの小さなお店。篠原裕幸シェフは「赤坂璃宮」「ロウホウトイ」「ヘイフンテラス」など中華の名店を経て大陸へと渡り、帰国後は西麻布「香宮」にてシェフを務めました。2015年RED-U35にてRED EGGグランプリを受賞するなど、日本の中華料理の明日を担う旗手。
酒がバカみたいに高いです。グラスのシャンパーニュが2,900円~というのは、私の人生で最も高い食前酒ベスト5に入るのではなかろうか。税サを加えると4千円弱ですよ4千円弱。ここまで高いと愛飲家としては逆に飲む気が失せる。ちなみにアルコールペアリングは14,800円+税サ、ティーペアリングですら11,150円+税サです。もうビールだけでいいや。
トップバッターはフカヒレの春巻き。いきなりの揚げ物で困惑しますが、これが、旨い。キャビアの塩気とコンテの旨味が食欲を掻き立て、麺のような存在感を放つフカヒレで口を満たします。フカヒレの太さは2種あり食感にグラデーションが生まれます。
蒸し餃子的なもの。中にはナマコの煮込み(?)が入っているのですが、皮の厚さウズラの卵の大味さをカバーするにはやや力不足。もうちょっと味濃いめが良かったかも。
甘くない杏仁豆腐。なるほど風味こそ杏仁豆腐を感じますが、味の主軸は甘海老です。塩気が強く日本酒が欲しくなる味覚であり、サラりとしたお茶のジュレもオシャレな味わいです。
野菜だけの1品。種々の野菜やキノコなどで取った出汁が実に濃厚。具材のタケノコの穂先も存在感のある味覚。野菜だけでこれだけ美味しいスープを作れるのであれば、ベジタリアンになるのも悪くないなと思えます。ただしウドの泡は私のバカ舌では正直よくわからんかった。
4種の貝。火を通したホッキ貝、トリ貝、ハマグリの上にホタテのペースト(?)をトッピング。美味しいのですが、ホタテがやや上品すぎるかもしれません。先の野菜スープのパンチ力のほうが記憶に残りました。
並の中華料理店だとすぐに追加料金で北京ダックにするところですが、当店は野菜のみを巻いていきます。なんと美しいプレゼンテーション。思いのほか調味が強く野菜に味わいも濃厚であり、やはりベジタリアンになるのも悪くない。
干し鮑を戻したもの。水で戻し、その時の戻し汁のみで作ったソースが美味。戻すのに2週間、ソースを作るのに2週間と、リードタイムに1ヵ月を要する料理だそうです。
お魚はクエ。サッパリと揚げて甘酢ソースで頂きます。品の良い酸味にセンスを感じます。調理がとても良いため、果たして魚はクエである必要はあるのか。もっと安くて旨い魚で充分ではないかという逆の悩みを抱えてしまいました。
メインは青椒肉絲(チンジャオロース)の再構築。ステーキのような肉に細かく切られたピーマンをトッピング。とても美味しくアイデアも悪くないのですが、やはりここまでサシの入った上質な牛肉を用いる必要があるのかと疑問に思ってしまいました。
〆のお食事は3種あり、好きなものを選ぶことができるのですが、ゲストの9割は3つとも全部食べるそうな。まずはチャーハン。土鍋で炊いたばかりの白米を卵とネギでシンプルに。ライスの質が良く、炒飯ながらお茶漬けのような潔さを感じました。
付け合わせのキュウリの漬物とホタルイカが旨い。ホタルイカの中には色々と旨い物質が詰め込まれており、また、食べるラー油的なタレもグッドです。
続いてラーメン。シンプルで清澄なスープに花山椒の清涼感が心地よい。ただしここまでクレッシェンドで突き進んで来たのに突然に繊細な味覚へと転換するため、パンチに欠けるように感じました。ここはひとつ、担々麺のようなコッテリ系のほうが私の趣味に合致する。
続いてイノシシの肉まん。そうそう、これこれ。こういう濃厚で迫力のある旨味のほうがカーテンコールでは輝くのです。
デザートはブランド苺「やよいひめ」を用いたもの。これは美味しいですねえ。うら若いイチゴの甘味にトリュフの風味がベストマッチ。「トリュフかけてりゃいいんだろ」的な雑な店が多い中、当店のトリュフは必然性を感じさせる使い道でした。
小菓子に生の月餅。これも旨い。月餅ってバターたっぷりでヘヴィな味覚であることが多いですが、コチラは牛皮のような口当たりの良さにキンカンのコンポートという組み合わせ。こんなに軽やかな月餅は初めてです。
ありがたい烏龍茶で〆てごちそうさまでした。お会計はひとりあたり4万円弱。酒代をケチってこの支払金額。お金の心配をしなければ中華料理として満点であり、独創性や唯一無二の味わいを楽しめ記憶にも残るブラボーなお店です。

一方で、普通に飲み食いすればひとりあたり5万円であり、そこまで高いなら1度行けばいいよね、という気にもなる。アワビやクエ、牛肉など過剰品質気味な場面も多々あり、それらの食材を使いこなさなければならないという使命感からの自縄自縛を感じました。

サービスも支払金額に比べると厚みが無い。若い女子ーズたちが丁寧で好意的に接してはくれるのですが、どうもネイルサロンのおねいさんのような雰囲気であり、日系航空会社のファーストクラスで過剰に話しかけてくるCAのようでもあります。トークは連れとするから、放っておいてくれていいんだけど。
今のところはお金に糸目をつけずに美食を追及するひと向けのお店なのでしょう。高級食材を排し普通のアルコールのペアリングを付けて税サ込で3万円ならネ申で何度でも通いたいのになあ。


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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
1,300円としてはものすごい情報量のムック。中国料理を系統ごとに分類し、たっぷりの写真をベースに詳しく解説。家庭向けのレシピも豊富で、理論と実戦がリーズナブルに得られる良本です。

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