湯宿 さか本(夕食)/珠洲(石川)

「さか本はなんにもありません。申し訳ありません」公式ウェブサイトのトップページからいきなり頭を下げる奥能登の旅館「さか本」。金沢や富山の市街地から3時間近くを要する秘境、それも車1台が通り抜けるのがやっとという山道を抜けた先に位置します。それでも熱烈なファンは多く、料理部門としてミシュラン1ツ星を獲得しています。今回はその夕食についての記事を。
坂本新一郎シェフは石川県生まれ。珠洲市の「坂本旅館」を継いだのち、当館「湯宿 さか本」を開業。「奥能登の漁港は小さくて、どんな魚が揚がるのか、揚がらないのか 毎日ハラハラ、ドキドキ。食材も、季節とともに刻々と変わり、天候によってもコロコロ左右されます。そしてたいていは、朝の魚屋で献立が決まります」と、やはりパンチのある公式ウェブサイトの説明文。

ちなみに元々は食堂的な位置づけの部屋で、3組の宿泊者たちが揃って食卓を囲むというスタイルだったのですが、コロナ禍だからか部屋での食事へと変わったそうです。
宿の雰囲気からして禁酒ではあるまいかと心配したのですが、ありましたありました。加えて安い。瓶ビールは600円で日本酒も2合で千円ちょっとと、小売価格に少しのせた程度です。ウーロン茶なんて100円やで。
まずはスナップエンドウ。茹でたてのアツアツであり、キンキンに冷えたビールと共にゴクリ。至福のひととき。
お凌ぎという位置づけでしょうか、早速そばが出てきました。香り高くコシの強いタイプで実にハイレベル。いわゆる蕎麦の名店に比肩する美味しさです。
燻製したサヨリ。サヨリって淡白でクリアな味わいとして食べることが多いですが、手をかければこんなに深みのある味覚に仕上がるのかと気づきのあるひと皿です。
お椀はアイナメに小玉葱。当館の芸風を液状化させたかのような、シンプルな味わいです。
地アラは酢味噌和えにして大根おろしをたっぷりと。地アラとはこの辺りで獲れる高級魚。いわゆる「アラ」とは異なるスズキっぽい味わいのお魚です。
ヒラメの昆布締め。かなりハッキリと調味をきかせた厚切りのヒラメに酒が進む。ドシドシと気前の良いポーションなのもすごくいい。
タケノコはフライで。極限まで削ぎ落した調理および調味として接する機会の多い食材ですが、意外にもジャンジャン揚げてしまうのが面白い。それでもきめの細かい衣のつけ方などは堂に入ったものがあり、サヨリに続いて気づきのあるひと皿でした。
煮物は素朴な仕上がり。素材の味を活かした、というか素材そのままの味わいであり、野菜の風味がとても濃い。
さあこれからメインディッシュ!鍋でも来るか?と期待していたのですが、唐突に〆のお食事でフィニッシュです。ありゃ、もうちょっと食べたかったんだけど、と拍子抜け。もちろんタケノコごはんとしては美味しいのですがハシゴを外された感があり、少し、寂しい。
イチゴでお口を整えてごちそうさまでした。食事を済ませるとそのまま布団にダイブできるのはオーベルジュの美点です。
宿泊の部の記事にも記載させて頂きましたが、支払金額は1泊2食付きで1.8万円。これはめちゃんこ安いです。あと一品、バーンと肉や魚が出てくれると心は穏やかだったのですが、この価格帯ひいては宿のコンセプトを考えれば文句のひとつもありません。心の洗濯にどうぞ。

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