肉割烹 上(じょう)/西麻布

焼肉チェーンでは割と好きな「うしごろ」グループ。今回はミシュランでも1ツ星を獲得した最上級ラインである「肉割烹 上(じょう)」にお邪魔します。西麻布の交差点からちょっと入ったところにある、うしごろだらけのあのビルです。
なるほど割烹料理屋のような誂え。カウンター6~7席に個室がひとつの小体なお店ですが、従業員はかなり多く、うしごろグループとして注力している姿勢が伺えます。
最初にビールを頂いたのですが、着エロのブラのように小さく涙も枯れ果てたのでワインをボトルで頂くことに。値付けは立地を考えればかなり控えめに設定されており心が躍るのですが、従業員のワインの取り扱いが無茶苦茶で浅学菲才。このレベルの給仕にサービス料を取るとは大した了見である。賢明な読者は当店で高価なワインは注文しないように。
まずはトロたく。トロと言っても牛肉のトロっとした部分であり、なるほど沢庵とも良く合う。上質なマグロを牛肉のように感じることがありますが、その逆もあり得るのだ。
ホッキ貝に山菜。実に丁寧に下処理されており、普通に、と言っては失礼ですが割烹で食べる一皿としてかなりまともでした。この瞬間まで「西麻布の肉割烹」ということでかなり色眼鏡で見ていたことを深くお詫び申し上げします。
茶碗蒸しにはヒスイ豆のすり流しにアナゴが鎮座しています。豆の爽やかな香りにアナゴのホクホク感、出汁の旨味、どれをとっても一級品。美味しいだけにもう少し量を。
赤シャリを敷いた海鮮丼には白エビに毛ガニ、うに、モモ肉。黙って食べれば間違い探しに気付かないほど、牛肉が海鮮に寄り添い常時接続しています。素材の良さも突き詰めればフュージョン化していくのだ(誰)。
ノドグロもシンプルに焼いただけですが、さすがに炭火の取り扱いはお手の物。ピンの素材をピンのまま出す潔さ。当店は「肉割烹」というよりも「肉も出る割烹」ぐらいの心持ちで訪れると良いでしょう。そういう意味でご近所の「常(とわ)」に方向性は似てるかもしれません。
イチボのタルタルに薬味を忍ばせ、大量のカラスミとエメンタールを振りかけます。肉のしっとりとした甘味に上にカラスミの旨味が辻強盗のように突然に襲いかかる。
サーロインのすき焼き風(?)。タレのベースは甘じょっぱい醤油味なのですが、フワフワにした卵と肉が良く絡まり、ため息が出るほどの美味しさです。いま流行りの、油断するとすぐに「ホニャララの再構築です」と大見得を切った上でウニとトリュフをぶっかけるアホな料理とは一線を画し、当店のコチラはすき焼きの再構築と胸を張って良いクオリティです。
メインは肉塊。この調理のために特注した窯で焼いているそうで、聞いたことの無い部位が2種用意されたのですがなるほど流石に旨かった。いわゆる和牛的にバカみたいな脂に溢れているわけではなく、しっかりと赤身そのものの美味しさが感じられる仕様です。アメリカ人に食べさせて感想を聞きたい。
ちなみに肉にはお食事セットも用意され、この白米がすこぶる旨い。「お好きなだけおかわりしてください!」と従業員の威勢も良くダイエットは明日から。お椀には海老の出汁がたっぷりと詰まっており、その身は一体どこに行ってしまったのかと心配になりました。
お蕎麦も出ます。牛の肉ならびにそのエキスが詰まったネオンジェネシスなつけ汁であり、かなりハッキリとした味わい。当然に美味しいのですが、繊細な日本蕎麦の風味はどこかへ吹っ飛んでしまっており、この麺に限ってはつけ麺的な小麦粉ヌードルで良かったかもしれません。
もしお腹に余裕があればということで、先の白米に牛のしぐれ煮をのっけてもらえました。本日の集大成とも言うべき肉の旨味が詰まったものであり、私は大変満足した。
デザートはシンプルに塩のアイスに凄そうなミリン。そういや一時期ミリンを使い分ける店が雨後の筍の如く現れたけど皆いなくなっちゃったな。

お食事が1.5万円に2万円のワインとビールをふたりで飲んで、お会計はひとりあたり3万円。立地や質ならびに量を考えれば悪くない価格設定です。夜になると肉の部位が良くなったりするのでしょうが、ランチでも十二分に旨く腹も一杯になるので、万円防止のためにもまずはランチで好みを判断するのが良いでしょう。ビールの極小サイズ感とワインの取り扱いの酷さについては既に述べたので、飲むなら日本酒がええんとちゃうかな。

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