常(とわ)/西麻布

西麻布の裏路地にある肉割烹「常(とわ)」。看板が無くグーグルマップ経由であっても迷うこと必至。このコンクリートのビルの2階を目指して来ましょう。ミシュラン1ツ星です。
店内はカウンター席と個室。日本屈指の左官職人が手掛けた壁がスタイリッシュです。常安孝明シェフは赤坂「菊乃井」でそのキャリアをスタートし、直近は元麻布「かんだ」で過ごすなどバリキャリです。
かなり風格のある和食店ではありますが、アルコールの価格設定はビールや日本酒が1,000円前後と標準的。ワインも色々あり、グラスのシャンパーニュなどは割安なほうではなかろうか。
まずはハマグリ。特大のハマグリの食感の素晴らしさはもちろんのこと、そのエキスがたっぷりと出たスープが最高です。海藻の磯の香りも心地よい。
アワビ。旨い。香りも歯ごたえもサイズ感も味覚も完璧。しみじみ美味しいアワビはもちろんのこと、付け合わせやジェルも完成度高し。
琵琶湖の鮎。まだまだちびっこサイズでそれほど印象には残りませんでした。
トリガイ。小倉「照寿司(てるずし)」でも思いましたが。上質な、生で食べる向きのトリガイは本当に美味しい。個人的にそれほど好きな食材ではないのですが、このトリガイは別格です。
お刺身はオコゼ。フグのような造りではあるのですが、身に凝縮感がありムキっとした食感。味わいも強く、淡泊な見た目以上に旨味が強い。皮の部分などまた違った味覚を楽しむことができ、魅力的な一皿でした。
タマゴの部分も出てきました。うーん、魚一匹でこれだけ多種多様に楽しみにできる人種は日本人以外にいないのではなかろうか。
お椀は海老と空豆のしんじょう。海老のしんじょうは山ほど食べてきましたが、空豆がバンドルされているのは初めてです。これが、旨い。海老の味覚はもちろんのこと、空豆の青い味も実に良く合う。新庄のサヨナラ敬遠打に近い興奮を覚えました。
牛テールの春巻き。高級フレンチの美味しい部分だけを切り取って生地に詰めたかのような絶品。これは赤ワインが欲しくなる。それにしても、肉割烹と聞いてきたのに、ここにきてようやく、です。真打が登場する前にここまで客を満足させる手練手管に舌を巻く。
黒毛和牛のタン。目の前の七輪で丁寧に焼かれ、シンプルに供されます。ザクっとした食感に奥行きのある味わい。いわゆる焼肉屋の牛タンや、フレンチの煮込みとはまた違った印象であり、気づきの多いカットでした。
店主が惚れ込んだ神戸・川岸牧場の極上和牛。お出汁にスっとくぐらせたシンプルな料理なのですが、美味しいという言葉はこの料理のためにあるのではないかという美味しさがあります。どうやら花山椒が謎の複雑性を演出しているようで、これまで花山椒って高いだけで別にという印象が払しょくされました。
メインは牛ヒレカツ。細かく薄い衣を纏ったヘレ肉はぬる燗のような温かさを兼ねそろえたレアレア感であり、後のヘレニズム文明である。これはちょっともう、言葉にならない美味しさですね。「もと村」などとは次元の異なる料理です。
〆のお食事も豪華。これで主役を張れるほどの立派なアナゴの量です。アナゴのふわりとした美味しさはもちろんのこと、周りを彩るグリーンやライスに沁みたエキスなど、どれをとっても一級品。
お椀と共にガツガツ頂きます。普段であれば3分の2ほど食べた時点でお持ち帰りをお願いするのですが、今夜はあまりに旨かったので、そのまま鍋をまるごと完食してしまいました。
おこげの部分は削り取って海苔に挟んでパスしてくれます。こういう演出も心憎いなあ。
デザートはショウガのアイスクリーム。空気をたっぷりと含んだエアリーな食感であり、胃袋にスルスルと落ちていきました。
美味しかった。本当に美味しかった。まさにクレッシェンド。食べ進めるほどにテンションが上がっていく構成。お見事です。西麻布で肉割烹ということでチャラついた印象から少し構えてお邪魔しましたが、文句のつけどころがないマーベラスなお店でした。


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