淡 如雲(あわい じょうん)/那古野・四間道(名古屋)

那古野・四間道エリアにある肉割烹「淡 如雲(あわい じょうん)」。ミシュラン1ツ星。数か月先まで予約でいっぱいと名古屋でも屈指の人気店です。1日2回転の一斉スタートであり、遅刻者は死刑の勢いなので気合いを入れて行きましょう。軒先で店員さんがスタンバってお出迎えしてくれるので、外観を撮るタイミングがなく、誰かのインスタからの引用です。
カウンター6席にテーブル4席と僅か10席のプラチナシート。なるほど予約困難にもなるわけです。古民家(?)をリノベしたシックな内装でかっこいい。ただし1回転目はナイト系の同伴客が多め。

山内昭如シェフは嵐山の吉兆で腕を磨いたのち、岐阜県多治見市で「如雲 やま内」を開業。2017年に「淡 如雲(あわい じょうん)」として乾坤一擲の大移転。
日本酒やワインが豊富に取りそろえられていますが、あまりお酒で儲けようとしていない印象を受けました。というのも店名の「淡きこと雲の如し」の通り塩を用いず旨味や酸味で勝負するスタイルなので、ガブガブお酒をといった風にならないのかもしれません。
牛のスープで炊いたアワビにしっとりとした車海老、藁焼きにした牛サーロイン。なるほど塩気は淡いですが全体としての味わいは強く面白い味覚です。海の幸・山の幸とバランバランな組み合わせであり不思議と全体が調和する。
牛テールとサツマイモのお餅。粒状のギンナンも含まれており、モチホクな食感が楽しい。海苔で巻いて磯の香りで食欲を刺激し、調味はカラスミの旨味に信頼を置く。塩を使わずとも旨い料理は可能、お塩学ぶ瞬間である。
牛タン。ソースはかぶらに白味噌を練り込み独特の風味に。ホロっと崩れるタンの遷移にソースが食い込んでくるのがナイスです。トリュフの香りも程よいアクセント。
お椀のタネが牛サーロインと斬新。なのですが、クリーム状のゴマ豆腐と共にまったりとした食感であり、あらゆる予想を超えた美味しさです。たっぷりのマツタケが奏でる芳香もお見事。
イチヂクに上海蟹を乗せあげます。果実の品の良い甘味に上海蟹の強烈な旨味、全体を取りまとめる柔らかい酸味。おや、そういえばこの皿には肉が無い、と思いきやマッシュルームを牛のスープで炊いているそうな。
牛ヒレ肉は西京漬けとし、キノコのソースで頂きます。味わいを重ねた複雑な料理であり、ややもするとフランス料理的でもあります。大豆やピスタチオの粗目パウダーが食感に変化を与える名脇役。
〆のお食事に雑炊。リブロースとジロール茸をすき焼き状にしたものに名古屋コーチンの卵黄だけを用いて仕上げます。くわー、これは美味しくないわけがないですね。肉もキノコもたっぷりであり、誰もが美味しく感じる料理でしょう。
お腹に余裕があれば、ということでカレーもお出し頂けました。イカスミを用いたルーはブラックを通り越して緑色に迫り、たっぷりの野菜の甘味とビビッドなスパイスを感じます。白眉はライス。芋や栗がゴロゴロと混ぜ込まれており、プレーンな白米を食べるよりも数倍の食べる楽しみがありました。
デザートはレンコンもち。こちらには砂糖を用いず抹茶の甘味だけで勝負するのですが、不思議と強烈な甘味を感じ、ヒトの味覚とは何なんだろうと深く考え込むに至った次第です。

軽く飲んで税サを含めて3万円強。食事だけで3万円近くを要することを考えればむちゃんこ高いですが、高級なお肉をバンバン用いていることを考えれば妥当なところかもしれません。
全体を通して味覚が重層的であり、難解な料理かもしれません。肉割烹ということで「にくの匠 三芳(みよし)」や「おにく 花柳」を想起するかもしれませんが、これらはかなり直線的な料理。「淡 如雲(あわい じょうん)」は肉割烹というよりもサイエンスに近い独特の芸風です。「お肉大好き!キャハ」みたいなギャルとではなく、料理に真剣に向き合う大人とお邪魔したいお店です。

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