わさ (WASA)/恵比寿

都立大学で名を馳せ、六本木ヒルズに移転したのち唐突に閉店。1年間の充電期間後、恵比寿に移転再オープンした「わさ (WASA)」。都立大時代は飲んで食べて1万円もしない気軽なお店だったのですが、現在はおまかせコース1本で2.5万円に税サが10%づつという、東京でも屈指の高級中華料理店です。
予約サイトに
※ご予約のお時間に一斉スタートとなります。万が一、遅刻・途中退店される場合、コースの一部をお出しできない可能性もございますので、時間には余裕を持ってお越しくださいますようお願い致します。
との案内があったので、予約時間の15分前に到着し店先で準備運動をしていたのですが、予約時間になっても扉が開く気配はありません。予約時間を数分過ぎてようやく1回転目のゲストがぞろぞろ退店を始める体たらくであり、結局席に着けたのは予約時間を15分を過ぎた頃。寒空の中、都合30分間、明治通りの吹きっ晒しで立たされ坊主であり、この時点でムカ着火ファイアーです。人に早く来いと呼びつけておいて遅刻とはどういった了見なのでしょう。
店内は厨房を取り囲む2人がけのテーブルが8席のみ。いわゆるカウンター主体のオープンキッチンに近い誂えです。

山下昌孝シェフは「福臨門酒家」や「Epicer」、岐阜「開化亭」などを経て2009年に都立大で「わさ」を開業。料理人役の荒川良々のような風貌であり、大遅刻のせいか終始どこか申し訳なさそうな顔をしているのが印象的でした。
飲み物を聞かれたのでドリンクメニューを求めるとその用意は無く京都のお茶屋さんスタイル。食後にレシートを確認すると、グラスビール(インドの青鬼)は1,500円、グラスシャンパーニュ(ジャクソンの何でもないやつ)は3,500円と暴騰中。ちなみにこれに税サ10%づつが乗ってきます。グラスが足りていないのか先のゲストが使ったばかりのものを慌てて洗い始める為体です。
21時5分にようやく1皿目が出てきました。ホタテと雲丹を生地で包んであげたもの。美味しいのですが、ホタテのように繊細な味覚の素材にダバダバにバターをぶっかける(しかも最初の1口で)のは少し勿体ない気がしました。
インゲンとイカ。こちらもオーソドックスな味わいで無難に美味しいですが、なんせ量が少ない。
キュウリにゴマ。見た目通りの味わいです。もちろんキュウリとゴマという組み合わせにおいてはトップクラスの美味しさなのでしょうが、キュウリとゴマはあくまでキュウリとゴマである。
ザーサイ。細く細く切って立体的にエアリーに盛り付けます。また葉っぱかよ。いい加減お腹が減ってきました。もちろんザーサイというジャンルにおいてはトップクラスの美味しさなのでしょうが、ザーサイはザーサイである。
豆腐にジャコ、ラー油。もちろん豆腐にジャコという次元においては悪くないクオリティですが、いつまでこういうしみったれた料理が続くのかと不安になる。また、配膳時に「まだ食べないで、みんな揃ったらまとめて説明するから」といちいちお預けを喰らうのが精神衛生上よろしくない。提供方法については改善の余地が太平洋ほどあるでしょう。
よだれ鳥。ようやく料理らしいものが出てきました。王道の味わいでありベーシックに美味しい。

ところで当店は料理人やゲスト数に比してサービススタッフが大杉ですね。ゲストはたった8人しかいないのにフロアにはスタッフがうじゃうじゃと溢れており、その大半は暇を持て余しています。いずれも経験の浅い若手が殆どであり、ゲスト同士の会話を妨げる意味不明なタイミングで話しかけてきたり、まだグラスに半分以上酒が残っているのに次の飲み物を勧めてきたりと無茶苦茶。そんなにヒマしてるなら「今日は遅刻だ間に合わない」と判断した時点で2回転目の客に電話で連絡すれば良かったのに。
餃子3種食べ比べ。お連れした外国人が邪気なく「Tiny!!」とつぶやいたサイズ感です。いずれも普通に美味しいのですが、客単価が4万円を超える店で食べる料理かなあという疑問符は拭えません。
紹興酒に漬けたイクラに冷たいビーフン。これは全然美味しくないですね。イクラが安物なのか漬け込みが甘いのか繊細を超えて味気なく、ビーフンにも旨さは無し。海苔の風味が一番強いほどです。

そのくせホールスタッフが「これはシェフが修業した『開化亭』のスペシャリテへのオマージュで~」と意味ありげに告げて来るのですが、いや、そんな副音声どうでもいいからちゃんと美味しいもん出してちょうだいよ。私としてはかなり不愉快に感じた瞬間なのですが、ただ、周りを見渡すと、店に阿諛する客が殆どであり、このあたり私がズレているだけなのかもしれません。
松茸の春巻き。アツアツのところをかぶりつくと、松茸の香りが花開き、ネギなどを含めたその他の食材の風味との調和も心地よい。今夜ようやく美味しいと思える料理に出会えました。ただ、手で食べるように指示があるのですが、包み紙の背面に揚げ油が溜まっている状態であり、食べ終えた後は手がデロデロ。それでも替えのお手拭きは出て来る気配はなく心から気がきかない。これでサービス料10%(8千円弱!)も取られるだなんてぐやじい~。
「フカヒレのステーキ 白湯スープ」は動物系のスープと合わせた濃密な味わい。もちろん美味しいですが、これだけ高けりゃそりゃあ美味しいよねといったレベルであり驚きはありません。自由が丘「蔭山樓(かげやまろう)」であれば同じクオリティのものが(フカヒレはもっと大きい)8分の1の価格で食べることができます。
気のきかないソムリエが「ここからは当店のメインディッシュです」と朗々と声を上げ高らかに宣言し、照明が落とされ、中華鍋を振るうシェフにスポットライトが当たります。何これ超恥ずかしい。シェフが気の毒に思えるほどの公開処刑っぷりです。
メインディッシュの葱炒飯。米と葱と卵のみ(ザーサイも?)のシンプルなチャーハンであり、素朴に美味しいのですが、客単価4万円のディナーのメインディッシュとしてはどうでしょう。もちろんチャーハンというジャンルにおいてはトップクラスの美味しさなのでしょうが、チャーハンはチャーハンである。別に悪口を言うつもりはないけれど、米と卵では限界がある。
〆に担々麺。麺の量を70グラムか100グラムかをチョイスできるのですが殆どの客が100グラムを選択していました。つまりそれぐらい全体的に量が少ないお店であり、炭水化物で帳尻を合わせるという仕組みです。お味は胡麻主体のシンプルで品の良い芸風であり、ビリビリスパイシー系が好きな私としては物足りない。まあ、このあたりの好みは人それぞれでしょう。
デザートは杏仁豆腐。この杏仁豆腐は面白いですねえ。一見個体のようなのですが、口に含むと蕩ける間もなくシュパっと水のように消失します。参宮橋「ボニュ(Bon.nu)」の水チョコを想起させる特殊な食体験。

お酒はケチって2杯に留めたのに、お会計はひとりあたり4万円でした。これはお話しにならない費用対効果の悪さですね。予約困難・2回転・酒が異常に割高・料理でなくストーリーを食べさせる・帰り際に次の予約を取らせる・年末年始はおせちのご用意も、など、昨今の飲食シーンの悪い部分を煮詰めたようなスタイルであり、広尾「長谷川稔(はせがわみのる)」に比肩するイマドキなお店です。

序盤は遅刻の件もあり腹の虫がおさまらない状態だったので厳しすぎる表現が多かったかもしれませんが、途中からはシェフが気の毒に思えてきました。彼に非は無い。あったとしても、それは仕掛け人の甘言に釣られてしまったその一点のみである。目を閉じて胸に手を当てて自己分析をしてみれば、彼が本当にやりたかったのはこんな店ではないことでしょう。まだ間に合うので、早くこっちの世界に戻ってきて欲しいところです。

駆け出しのソムリエたちも可哀想。目端のきくワインラヴァーは当店でワインを注文することはまず無いでしょうから、ソムリエとして成長できる機会に乏しい。君たちのゴールはどこにあるんだ?ここに君の未来はあるか?と問うてみたい気分です。

間違っているのはメディアか、私か、あるいはその両方か。

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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
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