L'ombra(ロンブラ)/六本木

六本木の交差点からすぐ。イタリア全20州の料理とワインを出すと鼻息の荒い「L'ombra(ロンブラ)」。店名は直訳すると「木陰」ですが「ワイン1杯」の意味でも使われるそうな。
店内はコの字型のカウンター席が10に6席の個室がひとつ。我々は贅沢にも2人で1部屋使わせて頂きました。上路勇シェフはイタリア本国で腕を磨き、銀座「アロマフレスカ」、広尾「インカント」などで活躍。
料理に合わせたフルのペアリングでお願いすると、「それじゃ、お体が許す限りいくらでも飲んでいって下さい!」と、実質飲み放題という大盤振る舞い。そんなことを言われてしまうと始まる前からこのお店のことを好きになってしまいます。人間が飲める量なんて限られているのだから、これぐらい言い切ってゲストに気持ちよく飲み食いしてもらうのもひとつの戦略かもしれません。
ピクルスの酸味で食欲を呼び起こす。この時点で先の1杯目は空いてしまいました。個室ながら目ざとく空のグラスを見つけ出し注ぎ足すソムリエ。良いお店である。
生ハム、サラミ、フォアグラ。いずれも高品質で基本に忠実な味わい。塩気がワインを誘います。
「泡ばかりじゃ芸がないから」と、さっそく白をお持ちいただきました。D.O.C.G.のフィアーノ。南方らしく豊かな風味と強烈なアロマが印象的。
パンはセモリナ粉で。ザラりとした舌触りにローズマリーの爽やかな香りが心地よい。

「ねえねえ、次の料理の『リッボリータ』って何?」好奇心旺盛な連れは身を乗り出してヒソヒソ声で聞く。たぶん、トスカーナ州の郷土料理で、白インゲン豆と野菜とパンを煮込んだスープだと思う。動物性のものは一切使ってないけど、コクがあって美味しい料理だよ。
「お次は『リッボリータ』です。トスカーナ州の郷土料理で、白インゲン豆と野菜とパンを煮込んだスープです。動物性のものは一切使ってないでしが、しっかりとコクがあるお料理です」と、ソムリエ。彼と私の説明が丸被りでありクスクスと笑う彼女。心の歩調が合った瞬間である。
おや、新酒のメルロ。先の料理に赤を合わせるだけで攻めているのに、さらにノヴェッロとはやりますなあ。なるほどワイン単体で飲む場合と料理と合わせる場合とで大きく印象が異なり、興味深いペアリングでした。
当店のパスタはすべて手打ち。南の地方ではセモリナ粉、北の地方ではファリーナ粉を軸としているそうです。こちらはオレキエッテ。外観も食感も耳たぶののようにプニプニしており、小麦の風味もしっかりと感じられる見事な味わいです。サワラの旨味もちょうど良い。
またまた赤。しかも「Pelaverga」という聞いたことのないブドウ品種です。検索しても英語とイタリア語しか出てこない赤ワインを魚のパスタに合わせるというタッキースタイル。それでも不思議とフィットしているのが面白い。
マファルディーネというフリル状のパスタ。水分量が少ないのか、見た目以上にワシワシと食べ応えのある麺です。自家製サルシッチャの旨味だけで全体をまとめ上げる手腕にも脱帽。
Zidarichという、またまた知らないブドウです。イタリア語っぽくないですが、なるほど地域はフリウリと、オーストリアとスロヴェニアに面した州のものでした。

どうしてこんなわけのわからないワインを料理に上手く合わせられるのかをソムリエに問い質すと、彼は料理人でもあり仕込みも担っているとのこと。他方、シェフはソムリエでもあるとのことで、やっぱり料理人がワイン選びにまで踏み込むのって大切なんだなあ。なぜこの料理にこのワインを合わせるのかの説得力が増す。
白トリュフのリゾット。8,800円のコース料理に白トリュフが登場するのは日本広しと言えど当店ぐらいでしょう。そして白トリュフはさておきリゾットとしてとても美味しいのがポイントです。青山「テール・ド・トリュフ」は反省するように。
同志だと認めてくれたのか、2種のワインをお持ちいただけました。
それぞれをリゾットに合わせてみるのですが、なるほど口に含むものによって全体としての表情が変わるのが面白い。畢竟、ワインとはサイエンスである。
メインは仔羊の炭火焼き。甘味と旨味たっぷりの脂をまとった肉塊の表面をガガっと焼き上げており香ばしい味わい。マルサラのソースも奇をてらわずストレートに美味。
ヴァッレ・ダオスタのフミン。もちろん初めて飲むワインです。紫色が強い外観にスミレのような香り。はっきりとした酸。思ったよりもタンニンは軽く、心地の良い余韻。オーラスを飾るに相応しい1杯でした。
アルコールは終わった、と思いきや、ティラミスにガンガン酒がきいています。大人のスイーツで火照った身体をクールダウン。
小菓子も当然に手造りであり、素朴な味わいにホッコリします。

お会計はひとりあたり1.5万円。六本木でこれだけ飲み食いしてこの価格というのは素晴らしい費用対効果です。ワインは掘り出し物を提案するスタイルであり、ワインは血統が全てと信じ込んでいる人にとってはアレかもしれませんが、私のように美味しくてたっぷり飲めるなら銘柄は問わない族にとっては堪らないお店。サービス料は取らず会計は明瞭でアクセスも抜群。ワインバーとしてもデートでも接待もいける、およそ弱点の無いお店です。オススメ!


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