KUFUKU±(暮富食)/末広町

2019年5月にオープンしたばかりの古民家を改装したビストロ。紹介されるメディアによって「築70年の」「築80年の」「築90年の」「築100年の」と幅があるのが気になるところですが、いずれにせよフレンチと和食のフュージョン料理だそうです。
竹中誠治シェフはクルーズ船「飛鳥Ⅱ」で長年腕を振るったベテランなのですが、当船で少数の日本人従業員を頂点とする超えられない人種の壁が感じられたので私的にはマイナスイメージ。加えて『「スガラボ」須賀シェフ、ミシュラン三ツ星「モリエール」中道・今シェフをはじめ、国内の有名シェフのみならず海外のシェフのもとゲストシェフディナーを取り仕切り、経験を積んだ竹中誠治シェフならではのをご堪能下さい。』というオフィシャルの紹介文も日本語が良くわからない。スタジオミュージシャン的な仕事が多かったってこと?
6,480円のコース料理に3,500円のワインペアリングを注文。すると店員が私に「普段はどのようなワインを飲まれていますか?」と問いかけ始め、余計な私怨が浮かんでしまう。「だからさ、こういう風にお客様とコミュニケーション取りなさいって、どこぞのワインスクールで教えられてるんじゃないの?若いソムリエたちには罪は無いよ」連れは腹を抱えて笑っています。
左は「酒粕のレバーペーストと紫芋のムースの最中」。味は悪くないのですが、ちょっと構成要素が多すぎてアミューズとしては理解が追い付きませんでした。右の「里芋と西京フォアグラのパテドカンパーニュ」もそれなりに美味しいのですが、説明文の長さに比べて味覚がは凡庸に感じました。
「ハマグリのグラチネ 発酵たまごのモルネーソース、発酵海苔のソースと泡」はわかりやすい味わい。左のチーズたっぷり味の美味しさは言うに及ばず。右の磯の風味が強い和っぽい味付けはハマグリという食材にマッチします。
甲州をオレンジワインっぽく造ったもの。これが甲州かと驚くほど複雑な味わいであり、先の「発酵海苔のソース」に良く合います。それにしても、ペアリングが5杯で3,500円と安く、単品注文でも500円台~と、アルコールの価格設定はかなり控えめです。
パンは生地をセイロで蒸した(?)とか言ってたっけな。所謂パンの食感とは異なり、モチモチとした水分を感じて面白かった。バターにはヘシコ(青魚に塩を振って塩漬けにし、さらに糠漬けにした郷土料理)が練り込まれており塩気が強い。
「特選和牛とバルサミコ寿司 葡萄ポン酢ソース」も分かり易く美味しいのですが、どうにもコンセプトありきに思えてしまい、なぜこのストーリーのこの部分でコレを出さなければならないのかの必然性は感じられませんでした。
「カンパチのカルパッチョ」は当店の芸風の際たる料理であり、ややこしい調理や素材を多用はしているのですが全体としての整合性は見えず、どうにも皿にのっただけの材料という印象を受けてしまう。
値段はさることながら、ワインは結構頑張って料理に寄り添っていると思います。MBAらしい酸味と甘味がカンパチのソースに見合ってました。
「濃縮マッシュルームのヴルーテ 新潟産マイタケのソテーと春菊スプラウト パルメザンチーズのかつおぶし仕立て」恐らく私の人生で最も長い料理名ですが、平たく言うとキノコのペーストです。味も中くらいなので、なおのこと印象が良くありません。何でも事実を連ねれば良いという単純な話ではなく、場面の中心になる事柄を強調して他は省略すべきなのに。議事録作成とか苦手なんだろうな。
おや、和製のタナが出てきました。なぜキノコのペーストとシシャモのフリット(後述)に合わせてこれが出てきたのでしょうか。これまでワイン選びは悪くないなと感じていたのですが考えを改めます。
「シシャモのフリット」。「東京で一般的に流通しているシシャモは大半がロシア産の偽物であり、このシシャモは北海道のある地域でしか獲れないホンモノ」とサービスが他店をディスり始めるのですが、私はジェネリックも美味しけりゃアリなタイプなのでその説明は響きません。いるよなあ、ワインは血統が全てと信仰し、松茸は丹波産しか認めない人たち。
自家製燻製サーモンのミキュイ。見ての通りの味覚であり決して不味くはないのですが、この段階で堂々と魚料理として出されるには辛い格の料理です。もっと前半で食べたほうが良さそう。
メインディッシュは3つからの選択であり「丸ごと調理するため、おふたりで料理を揃えて欲しい」とのことだったので、「熟成鴨肉の香草ロースト」をチョイス。なるほどM字開脚された丸々一羽の鴨は存在感抜群。
取り分けられると思った以上に量が少ない。思わず他の部分の行方を店員に尋ねると、「えっと、スープとか、、、」とのことでした。本当に2人で料理を揃える必要があったのかなあ。満腹を告げるご飯物もなく、多皿であったものの胃袋のスペースに余白が残ったままフィニッシュです。
メインに合わせるワインは3種類からの選択制だったので、ドイツのピノにしました。ピノ特有の豊かな香りにかなり強い樽のニュアンス。複雑な味わいでありハイレベルな1杯です。それにしてもワインが安いなあ。以上5種飲んで3,500円というのは小躍りしたくなる費用対効果でした。
デザートも数種類からの選択制。私はクレームダンジュ(ふわふわチーズケーキ)をチョイスしたのですがコンビニスイーツレベルです。コースに含まれていたから良かったものの、単品注文であれば980円というのは、いずれその値付けを後悔することになるような気がします。
連れは雪見大福的なもの。今あなたが想像している味と大差ないでしょう。
お会計はひとりあたり1万円強でした。難しいお店です。これだけ込み入った事にチャレンジしているのにも関わらず、料理人の顔は見えず作者不詳の立脚点の無い料理が続きました。『古民家×和×フレンチ=ドヤ!』みたいなコンセプトが強すぎるのかなあ。やはりカナヅチを持っていれば全てのものがクギに見えてしまうのかもしれません。
一方で、当該コンセプトと長ったらしい料理名でハッタリをかまし、それでいてアルコールは高くなくトータルで1万円に落ち着くという仕様は、特定の客層に向けては使い勝手は良く映るかもしれません。神田「JB日本橋」的な食後感。カウンターでグラスワインにちょいちょいツマんで小一時間で帰る、みたいな使い方をすれば、また違った印象を受けるような気もします。


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