アッピア/広尾


彼女は私よりも10も歳が下で、10代の頃から良く知っているのですが、8月初旬に下記のメッセージを頂きました。
私の誕生日は11月。20代前半でこの準備の良さ!なんて素晴らしい子なんだ私の青田買いセンス半端ねぇ。

しかし今回は彼女のお誕生日祝いの話。20代女性からは「ここで口説かれたら落ちる!憧れのレストラン。1回は行ってみたい!」、30代からは「ここで女子会できれば一流!」と、東カレ女子から圧倒的に支持の高いアッピアを予約しました。まだまだ先の私の誕生日祝いの予定が先に決まり、前後して彼女のお祝いのレストランを探すって素敵に変な感じ。
イタリア料理店なのですが、イタリアの泡が妙に割高で、何故かシャンパーニュがリーズナブル。値付けの方針が良くわかりません。

薄いの麦わら色に繊細で持続力のある炭酸。果実の香りがしっかり強く、味わいも爽やかながらしっかり。バランスの良い泡です。
当店の真骨頂、ワゴンサービス。見目麗しい前菜の山から好きなものを好きなだけ。店員の食欲を刺激する説明は一幕の名演技。我々はパッパカ決めることができたのですが、5~6人での女子会などで利用しようものなら、全員の前菜が確定するまで20分は要することでしょう。
冷前菜のチョイスは連れと私で全く同じ。牡蠣に真鯛のエスカベッシュ、真ダコのマリネです。
牡蠣は厚岸産。軽く火を通して旨味を閉じ込めた後、細やかで色とりどりの酸味の効いた野菜をたっぷりとふりかけ、仕上げに牡蠣の出汁のジュレで埋め尽くす。牡蠣そのものの味わいはもちろん、野菜の混ぜ込み方や迫力のあるジュレに1口目からノックアウト。シモムラのアレとはまた違った喜びがここにあります。
真ダコのマリネなんてもう最高。 桂剥きもかくやと思わせる薄さにスライスされており、舌に乗せた時の海の豊かさといったらない。シンプルな味付けはタコそのものの味わいを引き出し、本日一番のお皿でございます。
真鯛のエスカベッシュ(南蛮漬け)も当然に小気味良い味わいなのですが、先の2品に比べるとややインパクトに欠ける。もっと解かり易い味付けのほうが私は好きかもしれません。
ガーリックトーストは元気の良いニンニクの香りが胃袋を拡張してくれます。手前のバゲットは普通。
連れの温前菜はハマグリの白ワイン蒸し。ヌキテパのスペシャリテに勝るとも劣らず立派な外観。
私の温前菜は手裏剣ほどの大きさがあるマッシュルーム。粗挽き肉がたっぷりと詰め込まれています。旨味の強いチーズの演出も堪らない。熱意のある調理であり、この時点でこの店は本物だと確信しました。
パスタにつき、「何でも作りますよ、自由におっしゃって下さい」というオープンな姿勢。客の注文力が試される瞬間です。連れと私でひとつづつオーダーし、半分こ。
私の選択はコチラ。カカオが練りこまれた面白い麺があったので、鳩のラグー(煮込み)ソースで頂きます。鼻腔をくすぐる香りにカカオの風味が見え隠れし面白い。ただ、変わり種ではあるものの本質的に美味しいかというとそれはまあ別問題という感じ。
「もう少し細い麺はあるかしら?タリアテッレぐらいの。無い?じゃあその麺でお願い。ソースはトマト系で爽やかに。仕上げにリコッタチーズを乗せて頂けるかしら?あ、トマトはフレッシュなものでね」 連れも周りのグルマンに負けない堂に入った注文である。立派に成長したものだとと目を細める。
メインも食材を示された上で、客が調理法を指定するスタイル。店中の全てのテーブルにおいて、客と店員との間で熱い議論が交わされるので、いきおい店員を多く要します。客席に比してここまでホールスタッフが多いお店は珍しい。
ふたりともメインは魚介をチョイスしたので、白ワインをもう1本。手頃なソアーヴェながら酸味と果実味のバランスが素晴らしく、素材を活かした海の料理にピッタリでした。
連れは真鯛に焼き目を付けた後、ホイルでふんわりと蒸した料理。鱗の香ばしさ滋味溢れる野菜の香りが渾然一体となって迫り来る。
私は一瞬の迷いも無く伊勢海老を選択。調理はグラタン仕立てを指定。「ほんとエビ好きだよね」と連れは私に呆れ顔。

圧倒的なエビの旨味に野趣溢れる食感。それに負けないコッテリとしたソース。間違いなく旨い。ただ、おそらく今あなたが想像している味の通りであり、そういう意味で驚きはなく、そりゃまあ美味しいよね、といったところでしょうか。
デザートもワゴンサービスより。後の胃袋を心配する必要は全くないので好き放題注文できます。
お誕生日プレートに仕立てて頂きました。コスモスのデコレーションにセンスが光る。
私はイチヂクのタルトにフランボワーズとピスタチオのケーキ、クリームチーズのスフレです。見た目のボリューム感は大いにあると思うのですが、思いのほか軽やかでスイスイと完食。
カボチャのパフェはふたりでひとつを分け合うことに。秋の味覚に舌鼓。
何も言わずともダブル以上はあるエスプレッソでごちそうさまでした。

間違いなく旨い店です。料理はもちろん、客層が印象的。「オシャレなんか二の次で、とにかく旨いもん食わせてよ」と言わんばかりの味にうるさい面々が集結しています。そういう意味で、世に喧伝されるほど女子ウケするお店かいうとやや疑問。流行のスタイルでもないし特にお洒落でもなく、どちらかというと古臭い料理・内装・サーヴィスです。でも間違いなく旨い。

お会計はイタリアンにしてはめちゃくちゃ高いです。全てはアラカルトであり、その価格も不明瞭であるため、最終金額がどこに落ち着くのか全く読めません。ちなみに私の伊勢海老は8,000円弱で、2かけらのパンやコーヒーにまでキッチリと個別の料金が設定されていました。

もちろん注文時にこれはいくら?これはいくら?と聞けば答えてはもらえるでしょうが、そんな野暮なことは普通できない。そのためワリカンで臨むには難しいお店であり、人によって皿の値段が何倍も違う店で女子会なんて成り立つのか?という疑問がいつまでたっても拭えません。

したがって、当店は誰が全額払うかを事前に決めて、ホストは懐具合を気にせず広い心で入店する必要があります。家長が全額を支払う家族での利用が最も適したシーンだったりして。

色々と書きましたが、それでも私は好きなお店ですね。楽しいし、美味しい。ワゴンでのプレゼンテーションはレストランで楽しく食べる歓びを再確認させてくれます。レストラン巡りで1周まわって落ち着いた人の終着点に相応しいお店です。



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十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。


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