蕎麦前 ごとう／代官山

代官山駅から歩いて5-6分、「サルイアモール」などイケてるレストランが点在するエリアに開業した「蕎麦前 ごとう」。以前は「猫も杓子も」という店名で手打ちうどん屋として営業していたそうですが、思い切りの良い業態変更です。
店内はカウンター4席にテーブルがいくつか。段差があったりするなど動線が悪く、皆、動きづらそうにしているのが気になりました。後藤勇太シェフはアルコールに目が無いそうで、蕎麦を食べる前にお酒と肴を楽しむ文化である「蕎麦前」に辿り着いたようです。
お酒につき、中瓶が1,050円とやや高め。一方で、ボリュームたっぷりのコース料理が1万円を切る価格設定なので、トータルではリーズナブルな支払金額へと落ち付きます。
まずは前菜盛り合わせ。うほほ、これぞ酒のツマミといった料理がズラリと並び左党は恵比須顔。いずれも旨いのですが、メロンの白和え（？）的な小鉢がありそうでない料理で面白かった。
トウモロコシと生ウニの茶碗蒸し。トウモロコシの甘みと生ウニの濃厚な旨みが、滑らかな茶碗蒸しの出汁と溶け合います。トウモロコシの粒々とした食感がアクセントとなり、ウニのクリーミーなコクが口に広がる。出汁の塩気が甘みを引き立て、夏らしい爽やかさと贅沢感が共存します。
軽く炙ったイサキ。強火でさっと炙られた皮目からは食欲をそそる香りが感じられ、続いて、皮と身の間にある上質な脂が熱でじゅわっと溶け出し、イサキ本来の繊細な甘みと凝縮された旨味が堪りません。    
手前はスズキ、奥は活け締めのアジ。アジが素晴らしいですねえ。身はプリプリと弾けるように引き締まり、噛みしめるとコリコリとした力強い歯ごたえが楽しめます。究極の鮮度。脂の乗った甘みとほのかな旨みも見事です。
アナゴと夏野菜の天ぷら。アナゴは外はサクッと軽く、中の身は驚くほどふっくらと柔らかく仕上がります。ほのかな甘みと脂の旨みが印象的で、淡白ながらも深い旨みがじわりと広がり、その上品な味わいは格別です。はっきり言って、ミシュラン2ツ星の「てんぷら近藤」のアナゴよりも全然美味しかった。
スペシャリテのヒレカツサンド。蕎麦屋らしく蕎麦つゆと酢味噌で味付けを試みています。こってりとした重さはなく、さっぱりとしながらも確かな旨味の余韻が残るのが特長的。
羊肉の炭火焼き。ソースには肉汁に和の調味料を加えているので、欧米系の料理とはまた違ったアプローチなのが面白い。羊肉特有のミルキーな香りに炭火のスモーキーな風味が重なり合い、その風味を一層官能的なものへと昇華させます。
〆はもちろん蕎麦。暑い日だったので、夏季限定の「冷かけ」でお願いしました。蕎麦は軽やかでつるりとした食感ながらも歯ごたえはしっかりとしており食べ応えがあります。スープはやや辛口で塩気を感じ、酒宴の締めくくりにピッタリです。
蕎麦茶を用いたクリームチーズプリン。クリームチーズならではのネットリと濃厚なコクとなめらかな舌触りをベースにしながらも、口に含んだ瞬間から後味に至るまで蕎麦茶の奥ゆかしい香りが持続するのが面白い。こちらもメロンの白和えに続くアイデア賞です。

以上のコース料理が9,300円で、質と量を考えれば実にお値打ち。フラっと訪れ蕎麦だけ食べて帰るゲストもいたので、多様な楽しみ方がありそうです。ランチ限定で蕎麦と丼のセットの用意もあるそうなので、次回はそちらを試してみたいと思います。

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