ヴィラ・デラ・パーチェ(VILLA DELLA PACE、夕食)/七尾(石川)

七尾市(能登半島東岸の込み入った湾あたり)の市街地から更に秘境へと移転した「ヴィラ・デラ・パーチェ(VILLA DELLA PACE)」。この度は1日1組だけが宿泊可能な施設を併設し、オーベルジュとしてリニューアルオープンしました。
夕食の時間になりレストラン棟へと移動。もともとは海水浴場だったビーチに面しており、きらきらと輝く海辺の眺望を独占できます。

平田明珠シェフは東京都出身。都内のイタリア料理店(どこだろう?)を経て七尾市へ移住し当店を開業。RED U-35(若手料理人の大会)でも表彰され、Gault & Millauにも毎年掲載されています。
まずは蕎麦がきで内臓を温めます。地元の蕎麦粉を用いており、また、スープには動物性のお出汁を起用しており、蕎麦がきの新しい食べ方です。
ワインリストを確認すると中々マニアックな品揃えであり私の手には負えないのでソムリエに全てお任せ。ペアリングにつき、基本は9千円前後だと思いますが、ゲストの好みや肝臓の性能を汲みながら自由自在な提案をしてくれました。
シャンパーニュと共にアミューズを。うわーお、めちゃんこ手が込んでいます。イタリア料理店でここまで創意工夫が凝らされた突き出しは初めて。クジラのレバーペーストだなんて斬新すぎ。
イカと山菜。新鮮なアカイカにラルド(豚の脂の生ハム)ならびに昆布を薄く薄く挟み込み、くるりんちょと巻いています。ちなみに当店は山菜を多用するのですが、そのきっかけが「昔は金が無く仕入れに困って山に向かうしかなかった」というエピソードが個人的にツボ。
東京の人にはあまり知られていませんですが、このあたりは日本でも有数の牡蠣どころ。近場の生産者から手に入れた上質な牡蠣を、これまた近くで獲れた七面鳥のお出汁と共に頂きます。海の幸と山の幸が邂逅する瞬間。
ワラビを大量に用いてジェノベーゼソース風に。試みとしては悪くないのですが、ちょっとパンチが弱いかなあ。チーズやらニンニクやらもっとどぎつい調味のあるパスタのほうが私は好き。
パンは「月とピエロ」という、近所の凝りに凝ったパン屋のものを採用。これが、旨い。とりわけ全粒粉のパンなど穀物の複雑な味わいがしみじみと上手く、それだけでひと品として成立する美味しさでした。
ラザーニャには前述の七面鳥の肉がたっぷりと詰め込まれているのですが、これはべらぼうに旨いですねえ。猛々しい肉の味だけでなくシイタケの複雑な風味も強く、色んな味がする。本日一番のお皿でした。
「畑」と題した一皿は40種類ほどの野菜が詰め込まれています。野菜の美味しさはもちろんのこと、右手前の味噌をアクセントにザクザクと食べ進めていくスタイルがすごくいい。ガルグイユみたいにスープで馴らしちゃうと味が均一になってしまいがちなので。
ズッパディペッシェすなわちイタリア風お魚のごった煮です。これでもかというほど磯の風味が凝縮されており、七尾湾の海の幸と濃厚接触。あまりにも色々濃いので赤ワインが進むほど。
メインはクジラ。え!クジラ!?鯨料理専門店ならまだしも、イタリア料理店で、いや、飲食店においてクジラをメインディッシュとして食べるのは初めてです。しかもコレ、決して企画モノというわけではなく、メインディッシュとして相当に美味しく、まるで上質な馬肉を精魂込めて焼き上げたかのような味わいです。すげえなあ。大きめの店なら会議室レベルで却下されるだろうなあ。この蛮勇とも言える試みをやり切る姿勢に拍手喝采。
デザートひと皿目はフロマージュブラン。北陸のチーズ工房への特注品であり、フレッシュチーズでありながらミルクのコクが深く感じられる逸品。当店の料理は厨房で行われているのではなく、生産者とのコミュニケーションから始まっているのだ。
続いて「ボネ」。イタリアのピエモンテ州に伝わるチョコレート風味のプリンです。その濃厚な味わいの余韻を小ぶりのイチゴがスパっと切っていくのが心地よい。すげえなあ、イチゴまで採れるんかこのへんは。
挽きたて淹れたての上質なコーヒーと共に、これまた丹精込められたお茶菓子を。

以上を食べ、お料理だけだと1.3万円、ワインペアリングを付けても2万円と少し。気が遠くなるほどの費用対効果の良さです。コスパはさておき、料理や接客だけを取り上げても日本トップクラスの素晴らしさであり、そのスケールはイタリア料理という枠組みを超え、七尾とかあのへんの美味しいものを丸ごと楽しむ食体験。
なるほど「Discover Japan 2021年5月号」で10ページにわたって当店が特集された理由がよくわかりました。東京に世界の食材を集めるなんて野暮。獲れたての食材をフードマイレージゼロで個性的に仕上げていく。利賀村に移転した「レヴォ(L'evo)」にせよ、美食の未来とはこういった試みから始まるのかもしれません。

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