徳山鮓(とくやまずし)/湖北(滋賀)

琵琶湖の北にオマケのように存在する余呉湖。そのちょっと高台になったところに佇む食べログ4.39(2020年6月)シルバーメダル獲得の発酵系オーベルジュ「徳山鮓(とくやまずし)」。
徳山浩明シェフは京都の料亭「河しげ」で腕を磨いた後、東京農業大学の教授の指導のもと発酵料理に開眼し「徳山鮓(とくやまずし)」を旗揚げ。オーベルジュで、しかも発酵料理中心と一風変わったお店。自慢の鮒鮓に始まり、春は山菜や熊鍋、夏は鮎や天然うなぎ、秋はキノコに冬のジビエとまさにテロワールといった芸風です。
店内は全て個室。和の情緒が溢れながらも余呉湾を望む大きな窓や開放的なテラスなど、現代的な仕組みも随所に感じられます。今回はランチでの利用でしたが宿泊も可能であり、その場合は宿泊者限定の朝食も楽しむことができます。
前菜は猪・鹿・熊のテリーヌと、まるで花札でもできそうな食材です。脂が強くねっとりと濃厚な味わい。稚鮎の酢の物も添えられるのですが、ちょっと酸が強すぎるように感じました。
鯉の刺し身に鮒の卵を塗します。鯉特有の臭みは無くまるで上質なタイを食べているかのようです。他方、鮒の卵を塗すのは湖北の郷土料理らしいのですが、舌ざわりが微妙な割に味覚にはあまり貢献していないように感じました。
鯖のなれずし。なれずしとは魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品であり、シメサバがより熟したような味わいです。トマトソースやすり下ろしたカチョカバロなど舶来品との組み合わせが面白い。
余呉湖の天然鰻をバリっと焼き上げます。表面がコッテリとキャラメリゼされており、強い肉の旨味と共にわかりやすい1皿です。
「外の焼き場で鮎が焼けた」ということで、テラス席に移動します。この日のゲスト全員が部屋から出てガーデンパーティのような雰囲気のもと歓談が始まります。大将を始め徳山鮓一家全員も歓談に参加し、色々と意見交換できるのが凄くいい。3人の子供たちはそれぞれ好きなことをやりつつも、最終的にはこの地に戻りこの館を継ぐというストーリーも物語として最高。フランスの「Auberge de l'Ill(オーベルジュ・ド・リル)」や「Troisgros(トロワグロ)」のような伸びやかさを感じました。
絶景かな。そう、当店は料理の味のみをどうのこうの言うのではなく、この景色や館の美しさ、ファミリーとのふれあいを含めた総合芸術、ライフスタイルの提案なのですね。ああ、苦みのきいたビールが飲みたい。この日は運転があるので一滴も飲めませんでしたが、次回は必ず泊りでくるぞと誓った瞬間でした。
部屋に戻ると次の料理が用意されていました。鹿のロースに猪イノシシのハム。力強い肉と脂の味わいに鮒鮓のソースで酸味を与え、これは赤ワインが欲しくなる逸品。
ビワマスとその卵をたっぷりのとろろで頂きます。イクラやキャビアよりも歯ごたえのある卵の食感が面白い。
スペシャリテの鮒鮓(ふなずし)。この地方の伝統料理ですが、当館流にアップデートされたものであり、いわゆる鮒鮓のような強烈な臭みはありません。ソフトな味わいのフレッシュチーズとハチミツを合わせて食べるもよし、サンドイッチとして食べるもよし。ああ、日本酒が欲しい。やはりここは泊まりで来るべきである。
〆のお食事はすっぽん雑炊。やはり目の前の余呉湖で採れたすっぽんであり、この湖をM&Aしたら一儲けできるのではないかと思わせる食材の宝庫っぷりです。ぶつ切りのすっぽんがゴロゴロと入っており至福のひと時。
デザートは鮒鮓のアイスクリーム。先の皿でここの鮒鮓はチーズっぽいなと感じましたが、こうして出てくるとまるでレアチーズケーキのような味わいでした。
お会計はひとりあたり1万円強。この食材にこの空間、大自然を味わって1万円というのはじつにリーズナブルです。同じ発酵料理のジャンルで皿の上だけで勝負するのであれば大阪「カモシヤ クスモト(kamoshiya Kusumoto)」のほうが分がありますが、あくまで雰囲気とセットの総合芸術を楽しむという趣向であり、トータルコーディネートという意味で唯一無二の存在。次回は泊まりでお邪魔したいと思います。

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