長谷川稔(はせがわみのる)/広尾

2~3年先まで予約で一杯の話題店「長谷川稔(はせがわみのる)」。長谷川稔シェフは電気の配電盤を作る工場で働きながら札幌の名店を食べ歩き、資金を貯めた後、2010年に江別市で「リストランテ薫」を開業。2018年4月に自身の名を冠に東京に進出。
1階席と2階席があり我々は2階へと通されました。たった2階は4名のカウンター席であり、厨房は下にあるためバーで食べているような雰囲気です。雰囲気は良いのですが食洗器がうるさいのが玉に瑕。隣のカップルに話しかけられたのですが、彼女たちはやはり2018年に予約を入れ、2年越しでの来店とのことです。
料理のコースは3万円、ワインのペアリングは2.5万円、税サを加えてひとりあたり66,550円という痺れる価格設定です。結論から述べると高杉晋作ですね。特にワイン。マリアージュのセンスは悪くないのですが、酒代だけでひとりあたり3万円超の予算であれば、ワインリストから自分の好きなワインを自由に選びたいところです。
1皿目からメインディッシュ級のサイズ感。ホロホロ鳥です。皮目はバリっと美味しいのですが、まあ、その辺のビストロのメインディッシュで出てくるものと大差ありません。これは炭鉱のカナリアかもしれないと連れと顔を見合わせる。
「鯛の出汁を取り塩だけで味付けした」と大見得を切って登場するスープなのですが、これが全然美味しくない。妙に生臭さが目立ち、もっと煮るなり焼くなりコロ助なりして味を重ねて欲しいところです。
スペシャリテの金目鯛。蒸しやら焼きやら何やらで数時間かけて火を通しているとのことですが、水分が完全に飛んでおりモソモソした食感でイマイチ。タプナードのソースやバルサミコ酢のアクセントは良かったです。
鹿肉のカツサンド。これは抜群に美味しいですねえ。これが鹿肉かと思わず唸るほどのクリアな味わいであり、タルタルソースの暴力的な味付けとの対比がグッドです。
続くパスタもお見事。ねっちょりとした独特の食感のパスタにハマグリの出汁が沁みており、トッピングの牡蠣の旨味も実に濃い。先のカツサンドに続いてこの辺り本日のハイライトです。
生のマグロ、炙ったマグロ、バターの風味をきかせたウニのリゾット。米はコシヒカリを用いており、リゾットというよりも緩い煮込みの雑炊といった体ですが、素直に美味しい味覚です。海苔や行者ニンニクのニュアンスも印象に残りました。
箸休め的にトマトと水牛のモッツァレラチーズ。これはまあ、料理というよりも材料です。器の絵柄がトライポフォビアには厳しいかもしれません。
サワラにホワイトアスパラ、パルマの生ハム。この皿は微妙。サワラの水分がカスカスに抜け切っており幕の内弁当の焼き魚のようです。ネット上の口コミでは「火入れの妙」「神業的な火入れ」と絶賛の嵐ですが、どっちかっていうと下手なほうじゃないですかね?みんな「火入れ」って言いたいだけとちゃうか。アスパラも生ハムもそれぞれ単体としては悪くないのですが、なぜこの1皿に同居させたのかの意図が見えませんでした。
メインは牛肉。タケノコやピーマンを多用しており、チンジャオロースの再構築とのこと。しかしながらつい先日に白金台「ShinoiS(シノワ)」で似たような料理を食べたばかりであり、それでいて似たもの同士の大違い。これまで積み重ねてきたキャリアの差を感じました。
チンジャオロースのお供にライスを添え、チンジャオロース定食に。カツオ出汁で炊き温玉をのせ花山椒実山椒を重ね、素朴に美味しい。
デザート1皿目は温州みかんを凍らせて削ったもの(?)にハチミツ・レモン・ヨーグルトの風味を感じるアイスクリーム。これまでの芸風と異なり直球勝負なスイーツでとても美味。もっと量を食べたかった。
デザート2皿目はティラミスにイチゴやらチョコレートケーキやらを混ぜ込んでいるのですが、これらはとても余計でした。本当の美食というものはもっと別の所にあるはずだ。色々とこねくり回す前に、純然たるティラミスとしての高みを目指すべきでしょう。
小菓子のカヌレは小さめサイズながら美味しさがギュっとつまっており、ナイスな締めくくりでした。

冒頭にも述べましたが、お会計は税サを加えてひとりあたり66,550円です。これはお話にならない費用対効果の悪さですね。料理ひとつひとつを見れば絶妙にそこそこ美味しいですが全体を貫くストーリーは無く、ビストロでメインディッシュばかりを注文したような食後感です。価格や予約の困難さだけを切り取って、10代から料理の道に入ってフランスでバリバリやってきた料理人たちと同ジャンルで語るのは違うと思う。5年後には無いだろうなというお店の典型です。
話をややこしくしているのは、キーパーソンが店の中には居ない点でしょう。シェフは地に足がついている印象で、サービスのみんなたちも真面目で感じが良い。北海道で蟷螂の斧に徹しているだけであれば、キャベツの千切りすらできない阿保なブロガーにこき下ろされることもなかったはずであり、全ては仕掛人の甘言に釣られたことが終わりの始まりだったような気がします。

料理人は成功を求めるんじゃくて一流を目指して欲しいです。一流であれば成功は自然とついてくるものです。通販でチーズケーキを売りまくるのはもう少し後。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。