おでこ(au deco)/広尾

代官山「Ata(アタ)」の掛川哲司シェフの新業態。ファラン・アドリアやレネ・ゼネピあたりの台頭からヘンテコになり始めたレストラン業界に反旗を翻し、どクラシックなフランス料理のお店を2019年春にオープン。立地は広尾五丁目と大人向け渋めエリア。「アラジン」や「アロマフレスカ」と同じ並びのお店です。
照明が落とされクラシックが流れる重厚な店内。大きなカウンターに10席ほど、テーブル席がいくつかという丁度良いサイズ感です。
段取り良く出されるアミューズ。今が旬のヤングコーンは味が濃く、味付けもピントがズバっと合っており私好み。手前のイノシシの煮込みの春巻き(?)も濃密な味わい。もうこの時点でこのお店は本物だと確信しました。
シャンパーニュで乾杯。泡を楽しみながらじっくりとアラカルトメニューを精査する。このあたりの流れこそフランス料理であり、昨今の少量多皿時間厳守2回転コース1本勝負なトレンドに一石を投じます。

前菜は1皿3千円前後、メインは1皿5千円前後が主力であり、1皿づつ取れば普通の人であれば満腹でしょう。われわれは2人で4皿注文し、それぞれ取り分けて出して頂くことにしました。
「鮎のガスパッチョと胡瓜のタブレ オリエンタル風」。これでハーフポーション。前菜ながら驚くべきサイズ感です。正統的なガスパッチョの味わいに鮎の苦味が鳴り響く。トッピングという域を超えて鮎そのものをしっかりと味わえる逸品でした。
パンがびっくりするほど美味しい。ややこしい味付けがなされているわけではなく、小麦の味で勝負するというスタイルなのですが、噛みしめるたびにしみじみ旨いパンでした。おかわりは持って来てくれなかったので、恐らくは仕入れ品なのでしょう。
「アナゴとリードヴォー、焼きナスのクーリ」。リードヴォー(仔牛胸腺)は私の大好きな食材のひとつであり、あれば注文するようにしているのですが、アナゴと合わせる必要は無かったかもしれません。ちょっとベタっとした食感で生臭いんですよね。それでもリードヴォーの美味しさは本物であり、ナスのクーリ(裏ごしてピューレ状にしたもの)も王道の味わい。全体として満足のいく一皿でした。
ワインリストはブルゴーニュの古酒が中心であり、希少なワインが良心的な価格で取りそろえられています。しかしいくら良心的と言えども絶対的な支払金額としては物凄まじいので、我々はおとなしくグラスワインへと歩みを進めます。
「ブイヤベース」はこのまま料理学校のテキストに載せたいほどベーシックに美しい外観です。海の幸が凝縮されたスープの味わいは申し分なし。魚の身の量もたっぷりで、まさに温故知新と言うべき記憶に残る1皿でした。
「フランスシストロン産仔羊エポールの煮込み」。提供までにかなり時間を要しちょっとサゲ。この日は半分程度の客の入りにも関わらず、全テーブルとも提供速度はかなりゆったり目でした。
仔羊は悪くはありませんが良くもありませんでした。4,700円という価格と30分近い待ち時間を考慮に入れると期待ハズレと言わざるを得ないでしょう。他方、ヒヨコ豆のホクホクとした美味しさには特筆すべきものがあり、たまたま選んだ仔羊が私に合わなかっただけなのかもしれません。鴨や鳩のほうが良かったかなあ。
飲んで食べ手お会計はひとり1.5万円弱。質実剛健なフランス料理をお腹いっぱい食べてこの価格設定はリーズナブルと言えるでしょう。一方で、古風なフランス料理であり、ある種の軽さや遊びはないので、くるくるパーなギャルをヤリ目で連れて行く感じではありません。客にはフランス料理に一家言あるうるさ型の年配者が多く、初デートで訪れれば色んな面で圧倒されることでしょう。ある程度フランス料理を食べ込んだ仲間たちでどうぞ。


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