羽田でフライトシミュレーター体験!

親切な人から体験系のカタログギフトのようなものを頂き、その中から「フライトシミュレーター体験」をチョイス。数週間前に予約を取り、羽田空港近く穴守稲荷駅徒歩数分にある「LUXURY FLIGHT(ラグジュアリーフライト)」を訪れました。現役のパイロットや航空系の学生も自主練に通うという、本物中の本物のお店です。
入店してすぐの待合室からして気合いが入っています。窓の向こう側は映像が投影されており、本当に機内にいるかのように景色が後ろに流れていきます。用意されている雑誌も航空系ばかり。飛行機マニアの聖地である。
ボーイングの正規代理店(?)でもあるため、ボーイング関連のグッズが並べられています。ちなみに私はボーイングエベレット工場まで見学に行ったことがあるので、ひとかどの航空ファンと言って差し支えないでしょう。
今回わたしが乗り込むのはBoeing737-800のシミュレーター。この他Boeing747-400と小型プロペラ機G58 Baronの計3台のシミュレーターが用意されていました。いずれも航空会社の訓練施設で利用されているものと同じものです。コスプレ的にパイロットの制服なども貸し出してくれます。
コックピットは思っていたよりも狭く、乗用車とそれほど変わりません。座席などエコノミークラスに毛が生えた程度であり、ここで十数時間も仕事をしないといけないことを考えると秒で病みそうになります。ある意味デスマーチを演じるSEよりも労働環境は劣悪と言えるでしょう。
それぞれに意味があるとは信じがたい程おびただしい数のスイッチ類。「これは油圧系、これはエアコン系、これはライト、用途ごとにまとまって配置されていて、慣れてくると直感的に操れるようになりますよ。ヤバい系のスイッチ、例えば酸素マスクを出すボタンとか、緊急事態を知らせる信号を発するボタンとかにはカバーがかかっています」と、インストラクター。ちなみに当店のインストラクターは元パイロットであり、そういった点でも臨場感は抜群です。
さて、「客室のベルト着用サイン」をポーンポーンと鳴らし(JALは2回、ANAは4回)、離陸に臨みます。操縦桿を左手で握り、右手でスロットルを握り、左足は左の車輪の操作、右足は右の車輪の操作と大忙し。速度や高度、目視での状況も確認しなければならず、パイロットはやることが多い。
離陸後はある程度自由に操縦させてもらえます(写真は公式ウェブサイトより)。「それじゃ、スカイツリー方面に向かってみましょう。スカイツリーの高さは2,000フィート強なので、ギリギリかすめて飛んでみてください」。操縦する感覚としては車とそう変わらないのですが、小回りがきかず、操縦桿を傾けるとその数秒後に遅れて進路が変わっていきます。クジラが空を飛んでいる感じと言えばわかり易いでしょうか。
車のナビと同様に行き先を設定すると、飛ぶべき進路などが前方の画面に表示されます。気流などの影響で時々刻々と移り変わるポジションを1ミリ2ミリ操縦桿で照準を合わせていく感覚。
自動操縦も使ってみるのですが、全然自動じゃありません。「設定した通りには動く」程度です。速度や針路、目標とする高度、1分あたりどれぐらい高度を下げるか、などは手動で設定する必要があり、そういった判断は全て人間が下す必要があります。全自動洗濯機は、全自動といいつつ自分でコースや水量、乾燥の有無を設定する必要があり、洗剤も自分で計って入れないといけない。あの感覚に似ています。
羽田を飛び立ち十数分のフライトの後、成田空港へと着陸します(写真は公式ウェブサイトより)。広い広い空と地上を前にして、空港など髪の毛1本分ほどのサイズ感であり、あそこまで狙って飛ばさないといけないのかと緊張が走ります。まともな空港であれば空港から誘導信号が発せられているため見つけやすいのですが、地方のショボイ空港だとそのような設備が無いらしく、自力で探す必要があります。

ある程度空港に近づくと、空港側が自分向けに赤白のランプを照らし始め「ちょっと高い」「いや、低すぎ」などの情報を視覚で伝えてくれます。このあたりからナビや計器類は参考情報程度に留め、目視で滑走路へと進入していきます。
接地後も逆噴射やブレーキなどやることが盛りだくさん。なるほどこれだけのマルチタスクを数秒間のうちに冷静にやってのけるのは、努力というよりも才能なのでしょう。パイロットの職業は身分こそは会社員ですが、その内容はスポーツ選手に近いものを感じました。ちなみに、私は「信じられないほど上手い。最初のお客さんとしては2019年上半期でダントツの一番」とのことでした。ある程度のリップサービスはあるとしても、褒められれば嬉しいものである。
ところで、素人目線では離陸よりも着陸の時の方が圧倒的にやるべき事が多いので難しく感じるのですが、プロ中のプロからすれば「着陸は何度でもやり直すことができるが、離陸はある程度の速度に達すると後戻りできない」という意味で、離陸のほうが重みがあるらしいです。いずれにせよ、クリティカルイレブンミニッツ(離陸後3分と着陸前8分の合計11分間にトラブルが多いこと)を身をもって体感することができました。
「いやほんと、びっくりするほど上手いので、そのセンスが本物か確認するために、ちょっとタキシング(地上走行)してみましょう」ここで問題。空港内を縦横無尽に走るために必要なハンドルはどれでしょう?前述の通りほんのちょっと車輪を曲げる程度であれば両足での操作なのですが、大きく曲がるなどの場合は左手奥の黒い半月状のレバーを用いるのです。これを左手でちょいちょい動かしながら鉄の巨体を操縦する。たった十数センチほどの大きさでありめちゃめちゃセンシティブ。

「いや、タキシングも完璧です。自信を持って良い」との評価を頂きました。「この調子だと自動車はもちろん、船の操縦とかも上手いはず」とのことだったので、一級船舶免許取得への挑戦を決意しました。
シミュレーターなので、天候や飛行時間帯も自由自在に設定できます(写真は公式ウェブサイトより)。現役のパイロットたちは悪天候の中でのややこしい飛び方を集中的に特訓することが多いそうな。勤務先の訓練用シミュレーターは利用時間が限られており、社員であってもそうそう自由に使うことができないそうです。
今回は30分で1万円のコース。普通の金銭感覚であればちょっと躊躇う価格設定ですが、その価値は充分にあります。価格の高さはシミュレーターの利用料金というよりは、インストラクターの人件費なのでしょうね。医学部の授業料が高いのは教授陣が超高級サラリーマンであることと同じ理屈なのかもしれません。

15分3千円で羽田上空を旋回するおためしプランもあるので、飛行機好きであれば一度は試してみましょう。つまらない会社の飲み会などの1,000倍有意義です。超オススメ。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。