Blue Hill At Stone Barns/Tarrytown(NY)

NY在住の友人より「マンハッタンから少し離れるけど、話題沸騰のお店がある。もし興味あるなら鬼電しておくけど?」とのお誘い。ニューヨーカーですら予約の取りづらい人気のレストランであれば、行かないわけにはいきません。
調べてみると、The World's 50 Best Restaurantsの2018年版で12位を受賞しているミラクルなお店でした(画像は公式ウェブサイトより)。シェフの名はダン・バーバー(Dan Barber)。ネットフリックスの「シェフズテーブル」という番組でも特集が組まれており、「食材を自ら栽培、飼育することにこだわり、食品業界に革命的な提案をし続ける有名シェフ」とのこと。
シェフはタフツ大学卒業後にフランス料理の世界に入り、レストランの経営はもちろん食や農業をテーマに新聞や雑誌に寄稿するなど、アメリカのその手の世界ではかなりの有名人らしく、オバマ大統領の審議会に名を連ねていたことも。「シェフが書いた本、図書館で予約してるんだ。オーディオブックで、シェフ本人が朗読してるんだって」ほほう、ニューヨークの図書館ではオーディオブックが借りれるのだね。
ニューヨークのグランドセントラル駅で在来線(という表現で良い?)の切符を求め、乗車時間1時間という小旅行。マンハッタンから車で直で行けばドアドア小一時間でも行けるそうです。
ハドソンラインのTarrytown駅に到着。これもまたニューヨークなんだ、と逆感動するほど何も無い駅です。
駅前でたむろしているタクシーに乗り込み10分のドライブ。タクシーにメーターはなく、「このあたりではフラットレートで15ドル」とのことです。ちょっと不安なシステムですが、復路はUberで似たような料金だったので、たぶんそういうものなのでしょう。
グラセン11:00過ぎの電車に乗って12:30に到着。なんじゃこのどデカい建物とその敷地は。まるでディズニーランドに来たかのようなウキウキ感。
敷地内には我々が予約しているレストランの他、ウォークインで注文できるカフェや売店なども併設されており、ピクニックがてら車で遊びに来ている家族連れも多い。
売店ではこの地で生産している野菜や肉なども販売されています。
予約確認のメールに「予約時間の30分前には到着しておくことをオススメする」と記載されており、何それ何のための予約時間だよ意味不明、と軽く流していたのですが、なるほど併設された農場や牧場をじっくりと散策するための時間なのですね。
スタッフから手渡されるマップ。地図のあるレストランは世界広しと言えど当店ぐらいでしょう。
我々が訪れたのは3月下旬であり、気温はまだまだ10℃前後。屋外の農場は冷え冷えとしており、その代わりに温室での栽培が盛んでした。今から食べるものが地面に生えてるって凄くいい。
鶏さんや豚さん、牛さんもいます。今から食べるものが目の前で生きている。色々と考えさせられます。絶対に残したりはしないからな。そうだよな、ビニールでラッピングして冷蔵庫に陳列なんかするからみんな食べ物を残すんだ。
レストラン棟に戻ってきます。敷地内をやや駆け足で巡ってもたっぷり1時間を要しました。緑が青々と生い茂る季節であればもっと気持ち良くて、贅沢な時間も続くんだろうなあ。
お店に入りコートを預けると、まずはウェイティングスペースに通されます。セントヘレナの「Meadowood」にせよ、アメリカ人はこういう空間づくりが本当に上手い。
ウェルカムドリンク(ターメリックを用いた紅茶?)を楽しみながら、支配人より本日のコンセプトなどについての説明を受けます。「今日は記念日か何かで?」との問いに対し、連れが「いえ、彼はファーストクラスで世界を周りながらその地で一番のレストランを巡っているんです。明日はロンドンへ発つみたい」と支配人を煽り始める。たまたまその支配人がロンドン出身のイギリス人だったので、食いつき方が半端ない。
ダイニングに通されます。体育館のように屋根が高く、観賞用の木々もふんだんに配置されており見事な空間構成です。13:30に入店したのですが、あり?結構空いている?いえいえそうではなく、結論から述べるとトータルの食事時間は5時間であり、少しづつズラしながらゲストを受けているようです。我々の食事の中盤にはすっかり満席に埋まっていました。
カルト・ブランシュよろしく白紙が渡され、いよいよ食事のはじまりはじまり。
針を刺してプレゼンテーションされる生野菜。大した調味はされていないものの、とにかく野菜の味が濃い。
大きいボウルにちょこんと置かれたニンジンはそのまま手でつかみます。ニンジンとしては美味しいですが、ちょっと演出は過剰気味。
ビーツジャーキー。あの赤い野菜のビーツをビーフジャーキーのように燻製しています。なるほど燻製の香りが豊かなビーツであり、ビーツとしての新たな味覚の発見でした。

ちなみに、当店では基本的にその料理を作った料理人が直接ゲストのテーブルまで持って来てくれ、これこれはかくかくしかじかで、と丁寧に説明をしてくれます。
コールラビ(キャベツとカブのあいのこ的な野菜)にナスタチウムとプラムのタレ。美味しいのですが、ひたすら手づかみの生野菜が続くのでちょっと飽きてきます。
Chufa MilkにSASSAFRASの粉。このあたり知らない食材だらけで英語にもついていけず、味も大して美味しくないのであまり興味が持てませんでした。家に帰ってググってみると、どうやらタイガーナッツという木の実(?)から抽出された植物性のミルクだそうな。
SASSAFRAS(ササフラス)とは芳香があり香料原料として用いられる樹木。だからといって枝を目の前ですりおろされるとびっくりする。連れが若干引いているのを私は見逃しませんでした。
野菜中心であろうということで、ワインはニューヨーク産のシャルドネを1本。ぜんぜん知らないワインでしたが、アメリカらしいボリュームに程よい酸味が感じられ結構おいしい。やはり地産地消というのはいいことだ。
干し草の山からニードルと呼ばれるスナック(?)を食べます。干し草はもちろん食べることはできず、ニードルそのものもプリッツのほうが美味しい。ううむ、だんだんついていけなくなってきた。
ふかしたサツマイモに発酵させた葉っぱを巻き付けます。桜餅のサツマイモ版といったところでしょう。
こちらはトウモロコシを揚げたもの?こつぶっこ的な味わいでスナックのようでした。
これはレタスと海藻かなあ?ピクルスのような酸味も感じられました。
ウィンターメロン(冬瓜)と生ハム。ウィンターメロンはじっくりと火を通し味付けしてから冷やしており、スイカっぽい味覚に寄せているのが面白い。生ハムはまあ普通の生ハムです。
キャベツの寿司。おれたちは日本人だぞ、ふざけているのか、と思いきや、旨い。悔しいが旨い。これまで殆ど調味をしていない料理が続いていたので、余計に美味しく感じたのかもしれません。
キノコを揚げたものにマスタードソース。ファストフードを模したダジャレっぽい作品。特に美味しくはありません。
フォアグラとチョコレート。突如野性味を感じるどぎつい一口。チョコレートの風味も強烈であり、これまでの仙人のような食事との対比がファンキーです。
ピクルスは昨年この農場で収穫された野菜。農場一体型のレストランと言えでもその食材を全て賄っているわけではなく、自給自足率は25%とのこと。残りは他の自家農園や契約農園、保存食化したものを用いているそうな。
カトラリーは一通りのセットが与えられ好きなものを使う仕組みです。私は真っ先に箸を利用したのですが、そのままキープするという概念が無いらしく、真っ先に下げられてしまったので、箸の見せ場は次の1皿だけでした。
再びサツマイモ。いくつかのスパイスとハーブ類を身にまとい、脇には当農場産のヨーグルトを。
こちらはマリネした白身魚。カルパッチョ的な存在なのかなあ、久しぶりにタンパク質を感じる味わいでとても美味しく感じました。
オート麦で造られたパン。一般的な小麦よりも野性味に溢れ大地を感じる味わいです。付け合わせはマメ科の植物の葉っぱでしょうか。
ドンコ・マッシュルーム。海外のレストランで「シイタケ・マッシュルーム」と聞くことは増えましたが、「ドンコ」と表現するお店は初めてです。これが、旨い。シイタケの旨味と香りの活用はもちろん、ソースの表現力も確かなもの。これは和食の料理人にとっても勉強となる1皿でしょう。
チャーサイのクラムチャウダー。チャーサイを用いるのはOKなのですが、テーブルに生のまま丸々ドンと置くのは実にシュールで笑えるプレゼンテーションです。気が散って味はよくわかりませんでした。
鶏から取った出汁に先のピクルス液を混ぜ、スープだけを味わう1品。鶏の旨味が実に濃厚であり天下一品のスープを上品にしたような味わい。ピクルス液の酸味ともバランスが良く、本日一番のお皿です。
「カトラリーをお持ちになってコチラへどうぞ」と案内されたのはキッチン。「ヘイ!らっしゃい!」的な元気いっぱいの掛け声で料理人たちに出迎えられ興奮は最高潮。
更にはしばらくここに滞在し、調理風景を見ながら食事を続けてもらうとのこと。これまで食後にキッチンを案内されたことは何度かありますが、キッチン内で食べるのは初めてかもしれません。花瓶の中のバラはラディッキオ(チコリ)で作られており、サクサクとオツマミとして食べることができます。
こちらのファームで造られたソーセージとジャガイモを、、、
大きな皿(?)にペイントされたソースと共に頂きます。味わいとしては日進ワールドデリカテッセンで調達するシャルキュトリーと大差ありませんが、やはり食べる空間や勢いというものは、食事をする上で重要なファクターなのだ。
ソーセージを食べ終わった後は、レストラン内の様々な設備へと案内してくださいます。
屋外にある燻製マッシーン。ここで生産された食材をここで燻製し、そのまま料理として出すだなんて、料理人として最高の環境だろうなあ。
こちらはベーカリー。レストランで出すものはもちろんのこと、併設のカフェや売店で販売しているものはコチラで焼かれています。
テーブルに戻るとコース料理が再開されます。こちらは牛の脊髄のサラダ。
語幹としてはグロいですが、味の濃いコラーゲンをスパイスと共に当農場で生産した緑の葉っぱと合わせて食べるのは乙な味。ロンドンの肉料理の名店「St.John(セント・ジョン)」のスペシャリテによく似た料理でした。
先のベーカリーで焼かれた全粒粉のパン。白眉は備え付けのバター。もちろん当牧場で生産されたものであり、衝撃的と評すべき新鮮さと濃厚さでした。バターだけでなく、バターミルクも味わうことができます。
ようやくメインディッシュに到達。皿数が多くていい加減書くのに疲れてきました。こちらのお肉も当牧場で生産されたものであり、シンプルに焼いて塩で食べる素朴な味わい。美味しいのですが、まあ、普通です。皿が冷たく肉の温度を奪っていき、プレゼンテーションに気を取られすぎたきらいがあります。
グラスでワインを頂きます。ローカルなものが出てくると思いきや、めっちゃフランスのワインでちょっと笑ってしまいました。このあたりの拘りはあまりないようです。
ステーキに合わせて(?)供されたポテトチップス。これはまあ、普通のポテトチップである。どうしてここにきてこれを出したのか意図がわかりかねる。
〆の野菜は私と連れで違うものが用意されました。私はパースニップというニンジンに似た根菜。ニンジンとお芋の中間の食感ならびに甘味であり、結構な量に腹が膨れます。連れはニンジン。それにしてもどうして異なる料理を持ってくるのか。たまにこういうことをするレストランがありますが、誰得なのでしょう。
メープルシロップは50%、70%、100%などの精製度合い(?)別に用意され、
カキ氷のタレとして入っています。これは面白い試みですね。%によって味わいが全く異なり、同じ素材でこうも印象が変わるものかと感心しました。
こちらはオートミール(?)と日本酒のムース。うーん、最後の最後で企画倒れ感があります。不味くはないのですがノッペリとプレーンな味わいであり、それでいて量が多く飽きがきます。ヘーゼルナッツの風味は良かった。
夏の果物を保存食化し、天然のたっぷりのハチミツと共に頂きます。フルーツの凝縮感が凄まじく、やはり素材の力は偉大であると感心。

最後に冒頭の支配人が挨拶に訪れます。今後ロンドンではどの店に行くつもりかと訊ねられたので、「St.John(セント・ジョン)」と伝えると、なんだか妙にツボったらしく「あれは良い店だ、グッドチョイスだ」と5回ぐらい言ってました。こういうの、何だか嬉しいな。
冒頭の白いメニューは厨房内の指図書に用いられていたようで、皿出しの順序などの符牒が記されていました。ちなみにキッチン内で気づいたのですが、各テーブルはカメラによって監視されいたのです。なんと、客の食べるスピードをライブ映像で読み取りながら提供タイミングを合わせていたのです。あな恐ろしや。
店を出たころにはすっかり日が暮れていました。それもそのはず、一通り食べきるまでに5時間も要していました。マンハッタンから往復で3時間、農場などの見学で1時間、食事で5時間と、まさに1日がかりの食体験。ある種エンターテインメントを軸に据えた企画モノレストランであり、純粋に美味しい料理かと問われるとちょっと違いますが、このコンセプトはありよりのあり。「なんだか今日はニューヨークでの食生活の集大成ってカンジだなあ。タケマシュランと来れて良かった」とは波乱に満ちた華やかな20代をおくる連れの談である。


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