クラージュ(Courage)/麻布十番

「目一杯のおしゃれをしておこし下さい」着崩し化が進む現代においては挑戦的な案内文が印象的な当店。オーナーは「イル テアトリーノ ダ サローネ」「下鴨茶寮」「81」などのサービスを統べてきた相澤ジーノ氏。なるほど彼のセクシーな雰囲気からしてピッタリのコンセプトです。
リベルテ・ア・ターブル・ド・タケダ」の跡地であり、物件に魅せられてレストランづくりを決めたとのこと。今回はランチでお邪魔しましたが、なるほどこの立地この内装であれば映えるのは確実に夜でしょう。

大井健司シェフは神戸の3ツ星「カセント」で福本シェフの薫陶を受けた方。フレンチ・イタリアン・和食での経験を活かし、イノベーティブな料理を提供してくれます。
ランチのアルコールはグラスワインのみ。いずれも1,000円前後という価格設定であり、このクラスのレストランとしては良心的。
アミューズはピクルス。彩りもプレゼンテーションも見栄えが良く、漬物だってこんなにオシャレになるんだぜ、な逸品。
前菜の盛り合わせ。サワラをジェノベーゼソースでマリネしたものは期待通りの味わい。白子のフリットはスナックのような食感ながら、トロりとした旨味に柑橘の香りと、一皿の料理としても良い美味しさ。生ハムにもトロりとした一工夫が組み込まれており、中央のビンには鹿肉と薫香が閉じ込められており、4,000円のランチとしては実に手が込んでいます。
自家製のフォカッチャは水分と油分がシットリとした雰囲気を与えており私の好きなタイプ。
カラスミとアサリのパスタ。魚介類最大級の旨味が炭水化物を制御します。調味は良いのですが、麺そのものにつき、個人的には太くモチっとした生めんがタイプなので、当店のそれについては惜しいという印象。
メインは梅山豚(めいしゃんとん)。中国が原種の希少な豚であり、日本では茨城の塚原牧場でしか営利生産されていません。これは素材の勝利ですねえ。筋繊維の一筋、脂のひとかけらまで旨く、良い肉質でした。ソースも肉の旨味を邪魔することなく、肉汁とカルボナーラ風の味わいでバランス良くまとめています。
デザートは2種からのチョイス。私はピスタチオのジェラートを所望したのですがこれがまじビンゴ。ジェラートそのものの粒子が細かく実に滑らかで、そこへ濃密なピスタチオの風味が滑り込み、ここまで濃厚なピスタチオはちょっと無い。
連れは苺を用いた前衛的なティラミス。プレゼンテーションが見事でありこちらも美味しそうです。
コーヒーはエスプレッソの用意はなく、あえてコーヒーで挑戦。意思をもって豆を選別し焙煎した特別なものであり、純喫茶であれば800円近く請求できそうな完成度でした。
良いお店でした(写真は公式ウェブサイトより)。今回のランチは始まったばかりの試験的なメニューであり、シェフの本懐であるイノベーティブな料理は夜にお預け。

オーナーの雰囲気やお店の印象から思うに、やはり夜に来たいお店ですね。「予約の取れない10席2回転みたいな今風のお店じゃなくて、大切な人と大切な日にのんびりと過ごしてほしい。それがレストランとしてのあるべき姿」という彼の思想には大賛成。昨今の東京外食事情は異常極まりないので、彼の投じた一石が大きな波紋を呼ぶことに期待。今度は夜にお邪魔したいと思います。


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麻布十番はイタリア料理屋も多い。ただし、おっ、と思えるお店は少数です。個人のお店のランチが狙い目ですね。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。