すし初/湯島

「SAKE DIPLOMA」認定試験も2期目に入り、日本酒講師としての活躍が深まる店主。お店の人気もうなぎ登りであり、この日も「予約で満席」看板が掲げられていました。私は2ヵ月近く前から予約を入れていたのでカウンターの特等席をゲット。
やはり最初はビールから。この日は私を含めてオジサン2人にアラサー女子1人。ちなみにこの女の子とは前夜25時まで一緒に飲んでいたので、都合1日に2度会うことと相成りました。彼女のスマホのカメラロールには私の写真ばかり並んでいて少し気持ち悪いです。
ブロッコリーの新芽の揚げ物。大地の力を感じる元気いっぱいのブロッコリー。豊かな甘味に程よい苦味が大人の味。
少々の発泡を感じられる1杯。クリーミーな舌触りに円やかな酸味。大人の飲むヨーグルト。これは3人で1升イケる飲みやすさ。
特大のシイタケにとろろ、醤油漬けにした卵黄をトッピング。シンプルですがわかり易い美味しさ。卵黄の深い味わいをとろろが受け止め、シイタケの香りが鼻腔をくすぐります。
ファーストクラスの山田錦を畑違いで飲み比べます。品種は同じで作り手も同じ、場所そのものも近接しているのに結構な違いが感じられました。極めてブルゴーニュ的な楽しみ方であり、私は右の東条が好き。
寒い日が続くので酒炒りで参りましょう。海老は少し熱を持たせた方が甘味が強くなる。加えて仄かなお酒の香りが再び酒を呼ぶ。
ホタテもやはり甘味が強くなりますね。清澄な身質の奥行きに上品な甘味が感じられ、ホタテ好きとしては至福のひととき。
アオヤギ。やはり酒炒りにすることで成分が凝縮され、ギュっと詰まった風味が感じられます。「アオヤギに写メ送ろ~っと」とスマホを取り出す女。なんでも彼女の友人にアオヤギ氏がいるらしく、だからといって写真を送り付けられてもハラスメントなだけである。
ここで熱燗。私は燗酒を好まず、店主は毎回毎回チャレンジしては玉砕していくのですが、まあ、好みは人それぞれ。温めてもらった徳利1本丸々近くをもうひとりのオジサンが飲むこととなりました。
ホッキ貝。これは素晴らしいですねえ。大ぶりなホッキ貝をやはり酒炒りとし、味わいに円みを持たせます。ムチムチとした噛み応えが心地よく、酒が乾いて乾いてしょうがありません。
お刺身も出ます。当店の刺身は厚切り原理主義であり、ザクザクと噛みしめる歓びが堪らない。一度上質なフグをこの店スタイルのスライスで食べてみたいものです。
「この前のアムウェイの記事読んだけど、やっぱ、いるよね」眉根を寄せて静かに語る彼女。「この前よっ友に突然ホームパーティ誘われてさ。行ってみたら、鍋やら浄水器やら空気清浄機やらをトコトン売りつけてくるわけ」ちなみに『よっ友』とは、すれ違ったりたまたまあった時に「よっ」と声を掛け合うだけの友達です。果たしてそれは友達なのか。
シャケを親子で頂きます。もっと言えば、敷かれたスープもお酒でありサケ尽くしの1皿。皮目が特にいいですねえ。じっとりとした脂とバリっと焼けた皮の対比が堪らない。
バリっとした飲みごたえがあり、どっしりとした力強さが感じられる1本。米の味わいが厚く、これが日本酒だと言わんばかりの味わいです。
今が旬、超高級魚のキンキが煮付けで登場。さらっとした煮汁でシンプルに炊き上げているだけではありますが、いやはや極上の料理ですね。旨味が強く、脂も良い。「これは剛?光一?どっちかな」聞きましたか皆さん、これが正真正銘のオヤジギャグですよ。ちなみにこの人、鮎が出た時も突然SEASONSを歌いだしたあの人です。
風の森は私が最も好きな日本酒のひとつです。新鮮な果物を感じさせる甘い香りにクリーミーな口当たり。穏やかな酸も飲みやすく上品。
アンキモ。テリーヌかよとツッコミを入れたくなるような特大サイズを2切れも。プリンのようにプリンプリンと揺れる質感に、香ばしく焼き上げた表面がベストマッチ。コレステロールは旨いのだ。
「そういやマシュラン、ストーカーとかにあってない?大丈夫?」ここのところ彼女とお出かけしている際に「もしかしてタケマシュランさんですか?」と声をかけられることが続いたので、色々と心配してくれているようです。
特大の車海老を目の前で茹で上げ、黄身酢を乗せて登場です。やはり海老は旨い。そして大きければ大きいほど旨い。ブリっとした食感に始まりワシャワシャと咀嚼する楽しみ。
エンガワ。とにかく脂が強くコッテリとした作品。噛みしめる程にジューシーなエキスが溢れ出し、日本酒と共に至福のひと時。
ヒラマサ。こちらも脂が強く、表面をバっと炙ってバランスを整えています。焼き目の香ばしさと艶っぽい味わいが凄くいい。
 「あたしも昔、ストーカー被害にあってたからさ。その男、いつもあたしの家の近くをウロウロしてて、『おう、偶然だね』とかいって声かけてくるの。ああいうのは放っておくとエスカレートしてくるから気を付けなよ。あたしの場合、『今、後ろを歩いているよ』とかLINEが来るようになってきてさ」
ホタルイカ。脂から一転、旨味と苦味で攻めてきます。海苔の品質も良く、日本酒の最良の友と言うべき軍艦でした。
すじ抜き。当店のスペシャリテ(と、私は勝手に位置付けている)であり、必ず食べるべき1カンです。マグロの脂の乗った部分から丁寧にスジを取り除き、上質なネギトロをたっぷりとにぎりで食べるような逸品。
白子。ねっとりとクリーミー。何とも性的な味わいであり、やはり日本酒に良く合う。西洋料理店においても白子を食べるとが増えてきましたが、やはり和食店で日本酒と共に頂くのがいちばん。
「人間って不思議で、その男が右側にいると、右耳だけ聞こえなくなっちゃったりするの。右半身だけジンマシンが出たりして。完全無視にはできない事情もあってさ、なんとか耐えるしかないんだけど、そしたらあたし、声が出なくなっちゃって」
牡蠣には火を通し少しツメを塗っていきます。味覚の濃度がクレッシェンド。強固かつ享楽的な味覚で。
ホロホロと絶妙な炊き加減の穴子。濃厚な旨味を舌に保持しながら日本酒を口に満たす。ああおいし。
追加でトロタク。先のすじ抜きとはまた違った魅力がありますね。海苔の香り、タクアンの歯ごたえ、マグロの旨味。まさに三位一体といった味わいです。
確かに好きでもない異性から愛されることほど心苦しいことはない。私も旅行先の同じ宿泊先に滞在している女性から謎の求愛を受け、三日三晩つけ狙われ成田空港からのバスまで追いかけられ手を焼いた経験があるのですが、そのストーキング行為が日常生活にまで忍び寄って来るとなると、確かに瞬で病むかもしれません。
で、結局、そのストーカー男とはどう決着をつけたわけ?後学のためにその解決策を訊ねる。「それは、まあ、色々あるよね」嬉しそうに片目を瞑り、意味ありげな視線を投げかける彼女。「罪を憎んで人を憎まず。清らかさとは汚れを凝視する能力よ」


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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