オルグイユ(L'orgueil)/外苑前

外苑前と乃木坂から共に徒歩10分ほど。普通の地理感覚を持った方であればまず迷うであろう立地のフランス料理店。オープンして1年も経たずにミシュラン1ツ星を獲得し話題沸騰。加えてシャンパーニュ地方のワインしか置いていないという徹底した拘りが耳目を集めました。
「今夜、キミは僕だけのものだ」とも言うべきシェフズテーブルがひとつにホールに数卓。物理的には十数人は入りそうですが「料理のクオリティが落ちるので満席にはしない」と言い切る加瀬史也シェフ。大学を中退して料理の道へと入り、フランスの3ツ星「ミッシェル・ゲラール」、2ツ星「レ・クレイエール」、帰国後は3ツ星「カンテサンス」で研鑽を重ね、2016年冬に当店をオープンしました。
お酒はシャンパーニュとコトー・シャンプノワ、ロゼ・デ・リセのみという潔いラインナップ。当然にペアリングでお願いしました。小さなメゾンのものが多く、私にとってほとんどが初体験のものばかりです。
タルトフランベ。ほんわかと温かく、サクっとした食感とねっとりとした舌ざわりの対比を楽しみます。アミューズから実に手が込んでおり、この時点で当店はきちんとした店であるとの確信を得ました。
ピノ主体で骨格があり飲みごたえ抜群の1杯。ブリオッシュの香りがプンと漂い、ふくよかな味わいです。
カリフラワーにホタテ。ホタテはホールケーキをカットするように包丁を入れることが多いですが、この料理については横に薄切り。酒炒りよろしく40度の日本酒でのんびりと火を入れ独特の食感と凝縮感。カリフラワーの大地の風味もホタテにピタリと寄り添います。
こちらはムニエ主体。桃のような白系果実の香りが支配的であり酸味も豊か。余韻には柑橘系の風味も感じられ、複雑かつ爽快。
アンコウをこのような形で食べるのは初めてです。皮や肝などを余すことなくテリーヌとして押し固め、プルンとしたゼラチン質、セクシーなフォア、皮の弾力、アンコウの魅力全てが詰まったスライスです。手前は身をシンプルに焼いたものでありスポーティな味わい。
みんな大好きドラピエちゃん。ピノ100%のドサージュ・ゼロであり、元気いっぱいの赤系果実を感じさせるアロマ。しかしながら口当たりは実にドライであり、スパイシーと評しても良いかもしれません。
トップにアカザエビ、ボディにトントロ。海の幸と山の幸を掛け合わせる変幻自在の芸風。もうこれは食べる前から美味しいと知っています。エビがキラリと「オレは旨いぞ」と語り掛けてくるような輝きを放っています。

正直わたしはこれまでトントロを牛角でしか食べたことがなかったのですが、当店のそれはまるで別の素材ですね。野性味に溢れ重厚な味わい。全体として味覚の解像度が緻密であり、重層的な味わいが感じられます。本日一番のお皿です。
ロゼ、続く。ピノ主体でイチゴやチェリーのようなチャーミングな香りで満たされます。味覚もやはり赤系果実が支配的であり、若干スパイシー。
立派なサワラ。バリっとした表面に、中心に近づくにつれて変わりゆく食感のグラデーションが堪らない。「こういった素晴らしい素材を出せるのは小さなお店ならではなんですよ。大箱の店で数十食も用意することはできないので」と素材を愛でるシェフ。このひと本当に美味しいものが好きなんだろうな。
お次の肉にはコトー・シャンプノワ。ビオなワインであり、ややフラットながらも逞しさを感じられる味わい。なんとも健康的な1杯です。
メインは仔羊特集。純真無垢な肉に結構な思いきりの良さで火を入れ旨味を凝縮しています。写真上にあるポロネギのツルンとした甘さとロニョン(腎臓)の深みのある味わいが実に美味。付け合わせのジャガイモも素朴ながら存在感のある一口です。
〆シャンが出るのが嬉しいですねえ。熟した果実のようなピノの力強さを感じつつも、全体としてのバランスが良い。コクがありつつも酸がフレッシュです。
デザート1皿目はイチゴにギモーブ(マシュマロ)。凍らせたイチゴに温かいギモーブなどの対比が面白い。パクパクと軽く食べることのできる、何ともセンスの良い1皿です。
最後に追加でもう1杯、ラタフィアをお願いしました。シャンパーニュ地方で造られる、甘みを残した酒精強化ワインです。気品あふれるアタックに、心が和むトロンとした甘味。ポジティブなため息がたっぷりと出る、そんな1杯です。
デザート2皿目の主役は「あんぽ柿(あんぽがき)」渋柿を硫黄で燻蒸したドライフルーツの一種であり、柿の美点がギュっと詰まった逸品です。脇を固めるショコラの風味も抜群の取り合わせ。シェフは料理人としてだけでなく、菓子職人としても大成しそうです。
プティフールはスコーン。ありそうでない一口ですね。最後まで一切妥協のない心意気。ごちそうさまでした。結構飲んで、ひとりあたり2.5万円。これを良心的と言わずして何と表現しようか。聞くと、サービス料は取らず、ミネラルウォーターチャージが1人あたり600円のみとのこと。この支払金額でこのクオリティの食材、多種多様多量なシャンパーニュが楽しめるのは世界のフランス料理屋を探しても当店ぐらいでしょう。
ごく少人数でお店を回しているにも関わらず、忙中閑ありと、シェフやソムリエがおしゃべりにやって来てくれるのが良いですね。その姿勢は実に自然体であり、新進気鋭の料理人にありがちな暑苦しく押しつけがましい雰囲気は一切ない。店名(フランス語で「傲慢」の意)からしてどんな半グレがやっているのかと思いきや、良い意味で適当な、アドリブのきくバイトリーダーのようなあんちゃんであり、なんとも居心地の良い食事でした。私は愛想が良いほうではなく、特に理由が無ければ笑顔など見せないタイプであり店とは距離を置きたい主義なのですが、この日は珍しく良く喋ったような気がします。それは楽しかったから。

「最近の飲食業界は荒れてますよねえ。だから僕は自分が行きたいと思えるお店を作った。何か月も前から予約とかすんの、かったるいじゃないっすか」このようなヴェルキンゲトリクスのような芸風はオーナーシェフならでは。

最近は「オーナーシェフ」と称しつつ実はパトロンがいる場合が殆どですが、当店は正真正銘のオーナーシェフであり、その気持ちの余裕が料理や酒の自由奔放さにあらわれているような気がします。箱の小ささと食材の質、客への請求金額を考えれば絶対に大儲けはできないお店だと思うのですが、後世になっても後ろ指をさされない大義名分がここにはある。


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