割烹 喜作/麻布十番

麻布十番の裏路地に佇むミシュラン1ツ星(写真は公式ウェブサイトより)。飲食店ばかりが入居するビルの5階にあり、ラパルタメント ディ ナオキエレネスクなど、有名どころが集結している建物です。
ビールで乾杯。小瓶が600円であり、いずれの日本酒も1合千数百円であり悪く無い値付けです。ワインの種類も結構あって、原価と変わらない値付けから4倍も取るものもあり、客の選球眼が試されるところ。
名刺代わりにシイタケのお椀が供されます。当店の屋号は、店主の祖父の名から取ったとのこと。椎茸の人工栽培を日本で初めて成功させたのが、喜作氏らしいです。

なるほどスープから木の香り森の香りが漂い、非常にパンチのあるスープです。シイタケそのものの味が濃く、身も厚く食べ応え充分。「のとてまり」とまでは言えないまでも、極めて質の高いシイタケでした。
長芋とセリをアンキモで和えた一品。その説明の通り間違いなく美味しいのですが、個人的にはもっとコッテリとアンキモが塗りたくられていたほうが好きだったかもしれません。
お椀は甘鯛。スープがいいですね。味付けが濃いというわけではないのですが、はっきりと印象に残る奥深い味覚。魚をほぐして少し味を変え、密度の高い湯葉と共に口に含む。本日一番のお皿でした。
刺身はフグの薄造り。どこが薄造りやねん、と突っ込みたくなるような身の厚さであり、モグモグと歯ごたえを感じる悦楽。文句なしに美味しいのですが、やはり造りがフグ1種だけなのは少し寂しい。せっかくの外食なのだから数種類を絵のように盛り付けて欲しいところです。
タレはくるみポン酢、もしくはノーマルポン酢。川上庵のくるみだれを彷彿とさせる濃厚な風味であり、フギの大半をくるみポン酢で頂きました。
山菜の天ぷら。こごみ、たらの芽、ふきのとう。刷毛で丁寧に粉をつけ手早く揚げるというアッサリとした仕立て。エアリーな揚げ具合であり素材の味を上手に引き出す調理です。

ここで「お次はお食事ですが~」とのご案内。え!?もう終わり?と思わず連れと顔を見合わせる。
ゴハンは滋賀のコシヒカリ。これはめちゃくちゃに旨かった。ひと粒ひと粒が小さいながらも、キラりと光る存在感。皿数が少なく胃袋がガラ空きであったため、ここぞとばかりに3杯も食べてしまいました。
ゴハンのお供に和牛モモ肉の山椒煮。聞こえは良いのですが、ボソボソとした食感で肉の旨味が抜けており、スープまで飲み切ってようやく帳尻が合うといった具合です。山椒の風味が強すぎるのも難点。先のゴハンと同様に、おかわりOKなのが救いです。
お漬物はレンコンがいいですね。旨味を感じる麹の風味に舌鼓。
ナメコのお椀は中くらい。一般的な和食店で出されるそれと同等です。
甘味はぜんざいとパンナコッタ。ぜんざいは程よい熱さで身も心も温まる美味しさです。パンナコッタはどうでしょう。それなりに美味しいのですが、西洋のデザートを食べ尽くしてきた身としては、わざわざ和食店で食べる必要が無いように感じました。
お会計は1.5万円。料理の代金は1.1万円で、それに酒代と税サが乗る計算です。うーん、ちょっとこの価格帯にしては物足りないなあ。兎にも角にも品数が少なく、八寸や焼き物すら無いので、1万円を超える料理とは認めることができません。

似たような価格帯の和食であれば、幸庵温味田がわ一献なかしま下鴨茶寮歓盃などが挙げられますが、質はさておき皿数において圧倒的に見劣りします。もちろん最後はゴハン食べ放題で胃袋の調整はできるのですが、量の少ないラーメン屋で「ライスおかわり無料」と言われたような気分で味気ない。やっぱり家賃が高いせいかなあとは思うものの、同じビルのラパルタメント ディ ナオキエレネスクなどがリーズナブルな値段で上手くやっていることを考えると、謎は深まるばかりです。

という話を当店の元常連に話すと、「5~6年ぐらい前(2012年)までは凄く良かったんだけどなあ。なんか、2回連続でイマイチに思ったことがあったんだよね。それから何年か距離を置いて、2017年に久しぶりに行ったんだけど、やっぱりイマイチだった。もう昔とは別の店と考えたほうが良いかもしれない」とのことでした。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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