ふくだ/麻布十番


食べログ4.33(2017年12月)と麻布十番で屈指の人気を誇る当店。カウンター6席と個室がひとつのみと席数が限られるため、予約を取るのが大変です。
運よく個室を押さえることができたので、町内会の飲み仲間を集めて忘年会。参加者たちはおにまるのノリをそのまま持ち込みやがるので下品極まりなく、ああ、個室にして命拾いした。
ビールで乾杯。小瓶で600円と良心的。ワインはやや割高ですが、その他のアルコールの値付けは悪くなく、また男だけの飲み会であるため気前良く注文することができます。
香箱ガニ。ここのところ毎日のようにカニを食べていますが、当店のそれは殻をプレゼンテーションせずひとつの器に盛り付けるという手法です。これは食べ易くていいぞ。
身や外子(そとこ)、内子(うちこ)をマゼマゼに混ぜて食べるのも乙な味。慌てて日本酒を注文です。
「この前ビットコイン買ったら途端に倍になりましたわ」相変わらず金の香りがする男。最近は猫も杓子もビットコインですねえ。ギャンブルのスリルを味わいたいのであれば、取引手数料が安いFXに思いっきりレバレッジをかけて取り組んだほうが色々と手っ取り早いと思うのですが、そうさせる仮想通貨の魅力は何なのでしょう。どなたか教えて下さい。
タラの白子にカブのスープ。トロりと溶ける白子にベルベットのような舌触りのカブ。基本に忠実、王道の味わいです。シイタケ嫌いからシイタケを貰えましたラッキー♪
エテの記事読みましたよ。めちゃくちゃ行きたくなりました。ところで記事をアップする時間帯がいつもと違いましたよね。加えて普段は訪問から1ヶ月ほど空いてのアップなのに、今回は数日と間が短い。きっとそれは毎年大晦日に発表されるベストレストランに間に合わせるため、事前に記事を上げておかなければならなかったんでしょうね」と、シイタケ嫌いは一息で述べた。彼は私のことを知りすぎたようだ。少し気持ち悪い。
カワハギ。このポーションの大きさは注目に値する。都合10枚近くはあったのではなかろうか。ムチムチと弾ける歯ごたえに喜色満面。
肝醤油かポン酢で賞味するのですが、全会一致で肝醤油という意見。贅沢なスープのような味わいであり、刺身が無くともこれだけで立派な一皿になり得る。
「カワハギって畢竟、肝醤油ですよね。そこらへんのスーパーで肝醤油だけ売り出してくれないかなあ」それならアンキモを買って自宅で醤油に溶けばいいじゃないか、とアドバイスすると「なるほど!」と膝を打つシイタケ嫌い。しかしながら面倒くさがりの彼は絶対にそんな手間をかけないことを私は知っている。
能登のブリ。ウホっ!旨いっ!なにこのメタボ体質!とにかく脂が甘い。軽く炙った焼き目からの香りも食欲をそそります。こちらもポーションたっぷりであり大満足。
「やっぱりこう、食材がドーンと、直線的な料理がいいですねえ」と鮨好きが語る。「ナリサワとかは全く好きじゃないですね。里山とか言われてもわけわかめだし、出来過ぎた絵のようで、何食ってんのかようわからん」なるほどひとつの哲学です。これだからレストラン談義は面白い。彼にはきた福あわびの源太うぶか入船あたりを紹介しておきました。
ホタテのあられ揚げ。よく管理された温度であり、あられのサクサクとした食感も楽しい。ブリとはまた違った甘さがあり、味蕾の興味をあっという間にゲトっていきます。

ホタテの惑星的存在であるはずのニンジンが秀逸。「京かんざし」という品種で金時にんじんを早取りしたもの。味が濃く新手のサツマイモのような味覚です。葉まで丸ごと頂きました。
「僕の店はうまくいってないなあ。ずっと赤字続きでしたけど、最近ようやくトントンというレベルです。投資金額を回収するのはもう諦めました。タケマシュランは来ないで下さいね。マジで潰されるので」やはり店舗型の飲食店は無理ゲー。儲からない構造が確定してしまっている。もし私が料理人で独立を考えているのであれば、昼間はオフィス街で弁当を売り、夜はお金持ちを対象とした出張料理人として頑張ります。
マナガツオの幽庵焼き。前衛的なオブジェのような流線型が美しい。ムシャムシャと食べ応えのあるポーションであり、旨味の強さと甘味のバランスがちょうど良かった。
エビイモを揚げたものにキノコ特集。サクっとした歯ざわりの表面に、イモそのものはホクホクとネチャネチャの中間の食感。たっぷりのキノコにトロリとした餡も食べ応えがあります。

ちなみに念のため記載しておくと、エビイモ(海老芋)とはサトイモの仲間であり、湾曲して表面には横縞がありエビのように見えることが名前の由来です。
「ええっ!大葉と紫蘇って、同じだったんですくぁ!?」頼むから大声で言わないでくれ恥ずかしい。そんな調子じゃあ、パクチーとコリアンダーも同じものを指してるって、もちろん知らないよね?「それは知っています!韓国語ですよね」お前はミートホープの肉でも食っていろ。
迫力のある外観に歓声があがる。お食事はおじゃこに青菜(カブの葉っぱ?)のゴハン。
ウニやトリュフなどの派手さはありませんが、滋養を汲み上げた確かな味わいであり、お茶碗3杯も食べてしまいました。赤だしは鋭い味わいであり、ゴハンとのコントラストが面白い。
食べきれない分は折り詰めにしてお持ち帰りできます。和食のこの仕組み、すごくいいですよね。フランス料理などで持ち帰りを求めるには中々に勇気を要するのです。
デザートはリンゴのコンポート。これはまあ美味しいですが地味であり、フランス料理愛好家としてはもう少し手の込んだものが食べたかった。

麻布十番×和食×人気店ということで、入店前は3.5万円~4万円を覚悟していたのですが、最終結果はひとりあたり2.2万円に落ち着きました。結構飲んで、税サ込みでこの金額は小躍りしたくなります。夫婦おふたりでの運営であり、余計な人件費が乗っていない結果でしょうか。

それにしてもこのご夫婦は恐ろしく感じが良い。常に柔和な笑みを湛えており、心から歓迎されている空気に浸ることができ、大変に居心地の良い食事となりました。

絶えざる創造があり和食の未来を切り拓くという料理ではなく、完成された簡素さを追求する方向性です。ただし終盤は失速気味なので、もっと値上げして高級食材に取り組んでも良いかもしれません。

いずれにせよ費用対効果が素晴らしく、改めてもう一度行きたくなるお店。来年の忘年会もここにしようかな。


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