尾崎幸隆/麻布十番


尾崎幸隆。宮崎の「尾崎牛」と築地仲卸「やま幸」の店主である山口幸隆氏から店名が取られたという、極上の和牛と本マグロを提供するという面白いコンセプトのお店。SAVOY とまととちーずの地下にあります。
予約時間に向かうと軒先にソムリエが仁王立ち。あたたかく出迎えてくれるのかと思いきや、ぼうっと魂が抜けており、我々のことは完全にアウトオブ眼中。こちらから、ちょっとよろしいですか、と声をかけるとようやく意識を取り戻し、「(上階の)ピザですか?」と聞いてくる。いや尾崎幸隆ですが、と予約名を告げると、全くピンと来ていないようで、「尾崎幸隆は2つありますが大丈夫ですか?」とまで言ってくる始末。大丈夫ですか?はお前の接客態度だ。軒先まで出て客を待っているというのに当日の予約名が頭に入っていないなど不届き千万。貴様はバケツに水を入れて廊下に立っていろ。
店内に入ると、なぜかカウンターの周囲を子供が走り回り、母親が怒鳴りまわっています(以上、写真は公式ウェブサイトより)。やれやれ、先の接客にしてこの客ありか。来る店を間違えたのは私のほうだったと得心しました。
料理はお任せコース一本です。まずはスッポンのスープ。わお、旨いじゃないか。たん熊のそれと同等に美味しく、シンプルで飽きのこない、キッパリとした味わいに食欲が増進されました。
続いてタラの白子の茶碗蒸し。タラこそ量は少なく味わいも中くらいですが、流し込まれている餡というか出汁というかの液体が面白い酸味を放っており、目の覚める美味しさでした。
本命の尾崎牛。軽くタタキにして赤ワインとトリュフソースで頂きます。なるほど旨い。赤身と脂のバランスが丁度良く、濃厚なソースも肉に寄り添う美味しさです。欲を言えばもう少し温度を上げて賞味したかった。
大間のマグロに入ります。一般にはほとんど出回らないという突先(とっさき)という部位。頭の付け根部分です。大トロのほぐし身のような迫力の円やかさがあり、文句なしに美味しい。海苔の香りもグッドです。
香箱ガニにカブのすりながし。卵がタップリで確実に寿命を縮める美味しさ。カブのすりながしも名脇役。尾崎牛と本マグロを差し置いて、本日一番のお皿でした。
お造りは北海道の水ダコと明石の鯛。いずれも疑いの余地なく旨いのですが、この日この時この場所で食べる必要があるかは疑問。私は和牛とマグロを食べに来たのである。
焼き物はカマス。こちらも先と同様に、この日この時この場所で食べる必要があるかは疑問。下に敷かれたマイタケやエビイモ、クリは季節を感じさせる美味しさです。
カニクリームコロッケ。コロッケというよりはもはやカニであり、小さなカニ缶ひとつ分ほどのズワイガニが詰まっています。もちろん美味しいですが、料理というよりもカニの美味しさです。すし通のカニの握りを思い出しました。
「お口直しにどうぞ」とカボチャのスープが出される。これがハーゲンダッツのカボチャアイスクリーム級に甘ったるく粘度の高いものであり、まるっきりお口が直されません。味は良いだけに残念。キミとはデザートで出会いたかった。
大間のにぎりが2貫。ネタは美味しいですが絶品というほどでもありません。また、シャリの米粒が異常に硬く、バランバランにバラけてしまうので、もはや寿司というより新しい料理のように感じてしまう。
メインは尾崎牛の炙り。右が赤身、左がサーロイン。こちらもソコソコ美味しいですが、記憶に残るかというとそうでもない。
〆の卵かけゴハンに用いる米を、ブラインドテイスティングした後に指定します。緊張の一瞬。連れと同じ赤い皿を指定し何となく一安心。ちなみに赤い皿がミルキークイーン、青い皿が鈴ひかりとのこと。お漬物は普通です。
しじみの味噌汁はしじみのエキスが活きておりグッド。
卵かけゴハンと聞いていたのですが、予想外にトリュフがたっぷりとかかっており嬉しくなる。かどわきのアレには及びませんが、やはり美味しい組み合わせであり納得のひと時。
デザートはリンゴにラ・フランス、紫蘇のアイスモナカです。白眉はラ・フランス。余計な手を加えずとも皮を剥くだけで完璧。

サービスは残念でしたが、料理は素材の味を充分に活かしシンプルで濃い目な味付けを行い、わかり易い味わいでした。また、飲んで食べてひとり17,000円と、ブランド素材を多用する割に安くあがったなという印象。

子連れOKでギャアギャアと騒いでいてもお店からの注意は入らないためファミレス感は拭えませんが、味はそこそこイケる。そこは発想を転換して子連れで旨いものを食べたいご家族にオススメしたいと思います。


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