末友/祇園(京都)

数々の名料亭が軒を連ねる八坂通り。建仁寺の南門すぐ近くに凛とした背格好で佇むミシュラン2ツ星レストラン。
正午一斉スタートなので、時間通り訪れても席に着くまでは少し時間がかかります。その間は待ち合いにてカボスの葛湯を頂きながらゆったりと期待を膨らませる。
「祇園丸山」を経て「祇園 花霞」の料理長であった末友シェフ。お若い方で、溌剌とした空気が厨房から漲っています。ちなみに私は場面によってはコスモポリタンな外形に映るらしく、空港や飛行機で日本人に英語で話しかけられるのは日常茶飯事ですが、ついには京都の和食屋においても英語でご挨拶頂けるようになりました。
食前酒に伏見の酒を頂いてから、鉄砲和え。鉄砲和えとは辛子酢味噌でネギと魚介を和えたもの。イカや芽キャベツが気前よく出され、パンチのきいた味付けが今後の展開を期待させてくれます。
節分が近かったので、そのコンセプトをあしらった盛り付け。豆はもちろん食べることができ、年の分だけしっかり頂きました。結構腹がふくれるのだ。
具材は大根、湯葉、イワシにそら豆。鬼が苦手なイワシを和風オイルサーディーンといった趣で調理するのは洒落がきいています。たっぷりのあんに、スケトウダラの卵巣も実に美味。
お椀は鴨のツミレ。ピンポン玉大の大きな団子に血湧き肉躍る味覚。出汁も素晴らしく非常に食べごたえのあるお椀でした。キクラゲはちょっと量が多すぎて、人によっては不気味に映るかもしれません。
お造りはバイガイ。こんなふうに単品でバイガイが出て来るのは珍しい。貝類って、造り盛り合わせの中ではどうしても脇役になりがちですが、このように頂くと素材の奥の深さを改めて理解することができました。
かぶら寿司。カブとブリを麹で発酵させたなれずしです。ブリが熟成に満たされており、ねっとりと官能的に舌先にまとわりつく。独特のコクと乳酸の香りがあり、日本酒に手が伸びる逸品。
焼き物はサワラ。店主は魚の火入れの頂点というものを知悉しており、これ以上ない完璧な焼き加減。旨味たっぷりの個体にジトジトと脂がまとわりつく。添えられたネギと山椒味噌で余韻を切る。これぞメイン・ディッシュという、素晴らしい一皿でした。
炊き合わせは聖護院大根に里芋、ニンジン、レンコン。ゴロゴロと結構なカットであり中々に腹が膨れる一皿。柚子の香りもグッドです。ただし個人的にはもう少し動物性のコクを加えたもののほうが好き。
食事はコシヒカリにお漬物、粕汁です。米の品質や炊き加減はパーフェクト。漬物も抜かりなく美味。白眉は粕汁。それほど好きな料理ではないのですが当店の粕汁については話が別。まさに日本酒とも言うべきぷうんとした酒粕の香りが堪らない。フランス人にウケそうな味覚です。
おかわりしたごはんには鰹でんぶを好きなだけ。素朴ではあるものの確実に旨い味。胃袋さえ許せば無限に食べ続けられる味覚です。
デザートはイチヂクとバナナのアイスにニンジンのババロア。バナナのアイスが上品にまとまっており、意外にも爽やかで良かったです。
お茶を点てて頂いてごちそうさまでした。

お会計で驚き。食事だけなら税サ込で6,000円程度です。同じレベルのものを東京で食べれば10,000円を超えても文句は言えません。この価格なので豪華食材が勢揃いというわけにはいきませんが、ランチであっても職人の名人芸を垣間見ることは可能。サービスも付かず離れずの良い距離感。食後は軒先まで店主がお見送りと、非の打ち所が無いお店です。次回は是非とも夜にお邪魔したいと思います。


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