割烹 清風/藤沢

藤沢駅から北に歩いて7~8分、遊行通りにある雑居ビル2階にあります。シェフは駅反対側の、見事な費用対効果を誇る三ツ星和食、幸庵出身。
席数は26と中々に広い。奥には小上がりがあり個室のようにも使えるので、飲み会にも使えそう。しかしながら座布団が薄いのか下の椅子(?)が硬いのか、1時間を超えたあたりでお尻が痛くなってしまいました。

ちなみに近くの席には近所のじいさんばあさんたちが、7~8人で宴会中。平均年齢は65歳といったところ。良く飲み良く食べ良く喋り実に賑やか。
まずは琥珀ヱビス。600円とこの手の料理店にしてはリーズナブル。しかしながら入店から最初の1杯まで20分近くを要するのは残念。圧倒的に人手が足りていないお店です。麦芽の味が濃く深いコクが堪らない。缶ビールとしても販売されてるのか、今度買ってみよう。

「いやあ、この前、アパホテル初めて泊まってさあ!せめぇけど、5,000円なの、安いの。で、マッサージ頼んだのよ。したら60分7,000円だぜ?宿泊費より高ぇじゃねえか!しかもジジイが来やがってよぉ!」ジジイはお前だ、と店中の人々が心の奥で静かに突っ込む。
先付けはマダコ。グニグニと噛み応えのある食感で美味。小松菜のクリアな味わいや全体を取りまとめるジュレの旨味、海苔の風味にトビコのアクセントなど、様々な味覚のハーモニーが素晴らしい。

「ねえねえ、インスタグラムやってる?あたし、最近始めてさ。1週間でフォロワーが3人から14人に増えたの!1週間で4倍以上よ!」新手のネズミ講に片足を突っ込んだ少女のように興奮する老女。
お椀は銀杏しんじょう。スープの味が良く言えば繊細であり、悪く言えばメッチャ薄く、私の好きなタイプではありません。銀杏しんじょうは初めて食べる食材。ギンナンのモチモチとした食感が加速され面白い料理でした。

それにしても料理の提供速度が遅すぎる。2皿目の料理の到着まで入店から1時間を要しました。
お刺身は太刀魚の炙りにイシダイ、寒ブリ。太刀魚の炙りが特に良いですね。ジュワっとした脂に香ばしい焼き目。つい白米が欲しくなる味覚です。全体として量も多い。これにゴハンと味噌汁でも付ければ、立派な刺身定食です。

「インスタか!やろうと思ってたんだよ。どうすんだ?あ?このアイコンをクリックすりゃいいんだろ?今すぐフォローするよ。したら15になるんだろ?ありゃ?スイッチ入んねーな?お前、ガードしてんじゃねえのか?」ところどころ何かが違う用語使いに心和む。
日本酒も安い。例えばコチラは270mlで1,000円です。というわけで、料理提供の遅さを嘆くのではなく、大勢で訪れて酒をチビリチビリやりながらのんびり過ごすのが当店の正しい使い方でしょう。

「オッケー!繋がった繋がった!LINEとかFacebookではもう繋がってんだろ?あとあれか、ツイッターもか」このシニアクラブには高齢化社会が抱える寂寥感を解決するパワーを感じます。
サワラの漬け焼き。魅力的な脂を湛えた肉厚のサワラに思い切り良く火を入れた逸品。高松の名店、中川での饗宴を思い出しました。酒粕ソースの奥深い味わいにもユーフォリアを感じます。

「でもさ、パスワード多くってやんなっちゃうよな。俺なんてもう、手帳にIDとパスワード全部書いて常に持ち歩いているもん」じいちゃん、そういうことは大声で言わないほうが良いよ。
口直しに白菜のすりながし。これが白菜かと驚くほどの品の良さ。調味の勢いも良く、そのまま高級フランス料理店に出ても問題のない完成度です。しかしながら、やはり20分のインターバルにはうんざり。手が回らないのなら、無理に多皿にする必要は無いのになあ。

「俺はエクセルに整理して、Goooleに置いてるなあ。どこからでもチェックできるから便利だぞ」「クラウドね。でもそれって、セキュリティ的にどうなの?」これが杖をついた老人の会話なのか。「俺はUSBに保存して、銀行の貸金庫に預けている」その手があったか。
地鶏とあわ麩の蕪蒸し。猛々しい地鶏の味わいがゴロゴロ。ムチムチとしたあわ麩の歯ごたえも地鶏に負けておらず、双方のコンプロミーとばかりに覆いかぶさる蕪蒸し。トロりとした餡の味付けもビビッドであり凄く好きな料理です。
八寸は左から白魚、甘海老の酒盗ソース、もずく、ワカサギ、ほうれん草のおひたしにキンカンです。ワカサギが揚げたてのアツアツであげぽよです。ホクホクとした身にかすかな苦味。これぞ大人の味覚です。しかしながら、このタイミングで八寸ってのは前例が無く不思議な気分。

「八寸!?今頃こんなものでるのかよ」「あたしこれパス。おなかいっぱーい」店員の前で何の遠慮も無く、思ったことをそのまま口にする長老たち。年寄りに怖いものはない。
〆の食事はカキの蒲焼き丼。直球勝負に解かり易い味で旨い。カキは2粒だけなのがちょっと寂しいなあ。ごはんを覆いかぶさるように、とまでは言いませんが、もう少しもう少しと欲求不満になる量でした。

夜も更け酒も回り、次第に老人会も猥談モードへと突入。「ウチの家内は嫉妬深くってさあ!40年前の浮気を未だに根に持ってやがんだよ。この前なんて、孫の前で浮気のことグチりやがって。たまんねえよな!」それはどちらかというと孫のほうがたまんないであろう。
お漬物は至ってシンプルで記憶には残らず。

「あら、でも、若い男で熟女好きってのも、それなりにいるのよ」と科をつくる最年少♀(推定61歳)。んなわけねーだろババア、と店内の誰もが心の奥で静かに突っ込む。しかし良く良く考えてみると、我々も「俺たちぐらいの歳が好きなJD、結構いるよな」とおにまるで盛り上がったりしているので、五十歩百歩といったところでしょう。
デザートは藤沢で採れたイチゴに黒ゴマアイス、アンコの最中。普通に美味しいのですが、構成要素がバラバラであり最中としての一体感がありません。酒粕とチーズのクリームなどを間に敷き詰めれば凄く良くなりそうです。
料理を一通り食べ、ビールを1杯に日本酒を1.5合飲んでひとりあたり7,000円と少し。目を剥くほどの費用対効果です。料理だけだとたったの5,000円であり、都心でカクテルを2杯飲めばその金額に達してしまうことを考えると、モノの値段って何なんだろうと頭を抱えてしまう。

一方で、皿出しのテンポはどうにかならんもんか。いくらなんでも時間がかかり過ぎです。もちろん人員の少なさは人件費の少なさであり、結果として支払い金額に反映されているのかもしれませんが、それにしても度を超えたスピード感の無さです。

したがって、先にも述べましたが、気の置けない仲間と語らいながらのんびりと酒を飲むのが当店の正しい使い方でしょう。そう、まるで隣のグループのように。


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湘南に暮らし、日々湘南の最旬情報にアンテナをはっている「湘南スタイル」編集部が隔年でお送りするレストランガイド。あまり商売っ気が無く、湘南の良いお店を純粋に載せているという印象。その他の雑誌や食べログとは一味違った観点です。

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