太平寿し(たへいずし)/野々市(石川)


食べログ4.28で石川県ランキング第1位(2018年2月)、北陸地方ではトップクラスに有名な鮨屋です。とにかくアクセスが悪く、私はJRの松任(まっとう)駅からタクシーで向かいました。
開店と同時に入店。その後も続々とお客さんが詰め始め、驚くことに全員が東京からの客でした。「『全然入れない!』って地元のお客さんに怒られちゃってます」と鮨職人。大将は体調を崩されて入院中であり、若い衆が快活にお店を取り仕切ってらっしゃいます。
まずはお通し。赤ナマコの酢漬けにスルメイカのコノワタ漬け。これはもう、酒を飲めと言うことですね。ド平日の真っ昼間だろうがなんのその。イカがすごくいい。ねっとりとした質感に旨味と塩気が大爆発。
下はアカニシガイ。このあたりでしか採れない珍しい貝のようで、コリコリとした食感が乙な味。昭和天皇の好物でありオカワリした逸話があるようで、オカワリガイとも呼ばれているそうな。

カワハギは肝を纏って期待に応えてくれる味。ビールがたっぷり残っているのに思わず日本酒を注文しそうになりました。

左はナメラ(マハタ)。白身の魚としては最高ランクに位置する味覚であり、淡白と思いきや余韻が随分と長く、このような味覚を今の流行りではツンデレと呼ぶのでしょう。
サバは棒鮨とオツマミの二刀流。ううむ、この店は酒飲みの思考回路をよくわかっている。ほのかに香る昆布の香りに逞しいサバの風味。ここで酒を一口。続けて棒鮨として凝縮した旨味と共にシャリを噛み解す。これは天国から来たサバである。
フグの白子の蒸し寿司。フグの白子に火を通し裏ごしし、クリーム状にしてから静かにシャリに流し込む。これはまさに美食のサンプルですねえ。柚子の香りも素敵なアクセント。ある意味よくできたリゾットであり、イタリア人も腰を抜かすことであろう。
ブリのにぎりなのですが、右上のものはシャリの代わりに大根おろし。脂をたっぷり纏ったブリには適切な爽快感。ブリがステーキのような食べごたえ。中央の菜の花は昆布締めと、やはり一手間入れています。
「北陸はガスエビで有名だが、甘エビのほうが絶対に旨い」と自信を持ってお届けする甘エビ。頂上にタマゴをのせ、さらには味噌までトッピングするという三段論法(違)。これを旨くないという人間は地獄に落ちることであろう。説明不要。本日一番のにぎりでした。
サヨリは細くカットされ、大葉と共に食します。ツマミかと思いきや、中にはたけのこ里のような面白い形のシャリが。温製の鮨やたけのこ里シャリなど、まだまだ知らない技法があるものである。
バイガイ。結晶の大きい塩とワサビのみで頂きます。先週も祇園で造りとして頂きましたが、2018年は私にとってバイガイの当たり年なのかもしれません。
マトウダイ。北陸地方ではメジャーな魚です。淡白ながらも旨味と甘味が感じられ、クセもない。万人受けする味わいです。ちなみにフランス料理だとサン・ピエールと呼ばれる魚であり、ムニエルなどで食べるのも良いかもしれません。
赤身とヅケで。予約時に「どちらからお越しになりますか?」と聞かれて少しビビったのですが、恐らくは東京の人間にマグロをあまり出さないようにする作戦かもしれません。やはり良いマグロは全て築地に集中し、地元で取れたとしても一度は築地を経由することが多いのです。
地元の酒を所望すると 宗玄が出てきました。鮮やかな口当たりに程よいボリューム感。後味はやや複雑でオトナの味。今後の酒のツマミが楽しみじゃ。
赤イカ。左はレモン塩、右はコノワタで。まず、炙った香りが素晴らしい。食欲をそそる香りであり胃袋が拡張するのがわかります。そして兎にも角にもコノワタ風味の素晴らしさよ。先の日本酒と共に至福のひととき。
メジマグロ。クロマグロの幼魚です。実にわんぱくな味わいで健康的。カツオのような逞しさも感じられ、和辛子で食べるにちょうどよい圧力がありました。
当店のスペシャリテ、のどぐろ蒸し寿司。ぐわーコレは筆舌に尽くし難い旨さだよ。旨すぎて思わずタメ口になってしまいました。のどぐろの濃い味覚から日本海の荒波が匂い立つ。蒸して熱くなったシャリも、この個体を受け止めるに関しては完璧なマリアージュ。1カンで高揚感に包まれてしまいました。
コハダは正統派で酸味がズバりと決まって、先の蒸し寿司の余韻をスパっと切り、平常心へと揺り戻してくれました。
ズワイガニ。実は内部に円錐形のシャリがおさまっており、れっきとしたにぎりです。どろりと首をもたげるカニミソがネクロマンサーのような存在感を放ちます。シャリとネタの比率もすし通のカニの握りに勝るとも劣らず。
あん肝はツマミとシャリつきの二刀流。高貴な野蛮人とも言うべき風味であり、日本酒を口に運ぶ手が止まりません。食べ方などは客に任せるという良い具合に不親切なプレゼンテーションもワクワクする。
穴子にも状況を創り出す存在感があり、まことに美味しい。こんなにも旨い穴子に出会えた歓びと、もうすぐこの饗宴も終わってしまうのかと感情をひとつに定めることができない。
 味噌汁は思っていたよりも標準的であり、ようやく心の整理をつけることができました。
ギョクは甘エビのすり身が入っているのですが、これはどちらかに留めておいたほうが良かったかもしれません。こねくり回す必要は決して無い。

お会計は飲んで食べて13,500円と小躍りしたくなるような費用対効果です。これでも地元の人に言わせると、昔に比べて随分値上がりしたようです。金沢の人が東京で鮨を食べると頭から湯気を出して怒るに違いない。
そうそう、これは書いておかないと。職人さんの雰囲気が実にいい。北陸ナンバーワンの鮨屋ということで肌が粟立ちながらの入店だったのですが、親しみやすい内装に人懐っこい笑顔。写真撮影ももちろんOKであり、古くからの友人の店に来たかのような錯覚。この雰囲気を醸成するのは極めて難度が高いです。客をビビらせるのは簡単だがリラックスさせるのは殊のほか難しい。雰囲気を含めて素晴らしいお鮨屋さんでした。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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