安参(やっさん)/祇園

牛肉文化の根強い京都において「通」と呼ばれるお店は「安参(やっさん)」をおいて他にはないでしょう。祇園の北側の飲み屋街に位置する創業1948年の老舗。3人以上のグループのみ予約を受け付けており、1-2人のゲストはフリーで訪れるのみ。入れるかどうか心配な方は、オープンの18時を目掛けてシャッターすると良いでしょう。
店内はキッチンをぐるりと取り囲むコの字型カウンター席が15席ほど。奥と2階にグループ向けの座敷があります。私は18時過ぎに訪れ9割の入りで滑り込みセーフ。1時間もすると客の出入りが激しくなりますが、なんやかんやで常に満席を維持するのが当店の凄味です。
当店にはメニュー表など洒落たものはなく価格の告知も一切ないので、一見客の度胸が試されます。とは言えお店の方々はとても親切で温かい接客。常連・観光客分け隔てなく気さくに接してくれます。「なんや最近は若いヒト増えたな」「若いヒトが増えたんとちゃう、ウチらが年とっただけや」など、お店と常連客の掛け合いが心地よいBGMです。
席に着くとサっと出されるお漬物。あっさりとした口当たりでいくらでも食べれそうです。足りなくなればジャンジャンお代わりを追加してくれます。「今日はどうします?お刺身から?」と女将さんから声をかけられ、おまかせコースのはじまりはじまり。
当店のスペシャリテはとにかく生肉なのですが、どういった事情なのか刺身の撮影のみNGです。タン、ハツ、赤身(ユッケ)、ミノの湯引きとテンポ良く刺身が供され、そのいずれもが実に綺麗な味わい。量も中々のもので、先日韓国の「ユッケ通り」を訪れたばかりの私であっても腰が引けるボリューム感です。

ちなみに「ツンゲ」「ヘルツ」「マーゲン」など耳慣れない言葉も飛び交いますが、これらはドイツ語であり、創業当時に医者の常連が多かったことからシャレでその呼び名が残っているそうです。
「この後はどうしましょか?焼きものでも煮込みでも~」と、ひと通りの刺身の後はゲストに選択肢が生まれます。まずは焼き物でレバー。これがレバーかと驚くほどの臭みのなさで、スルスルと胃袋に落ちて行きます。「どっさりつこてくださいね~」と山盛りのネギも併せて供されます。
タンは塩焼きで。厚切りの刺身からは一転、ごくごく薄切りタイプであり、刺身とはまた違った味覚を楽しむことができます。
お口直し(?)にサラダも出ます。肉専門と思いきや、冒頭の漬物と併せて結構なお野菜を摂取したことになる。
ハラミ。隣の常連客が「ハラミはタレが一番やろ」と解説していたのでそれに倣います。なるほど旨い。焼肉屋のハラミやフレンチのバベットステーキとはまた方向性の異なる、タレに深みのあるひと品でした。
〆に煮込みを頂きます。牛肉だけでなくコンニャクやジャガイモ、ゆで卵も投じられるのでかなりお腹が膨れます。バケットも添えられ和風ビーフシチューさながらに楽しみ、ついうっかり赤ワインが欲しくなる。

以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり1.5万円。これだけ上質の牛肉を山ほど食べてこの支払金額はリーズナブル。他方、私より明らかに飲み食いしている常連客のほうが安かったりすることもあり、一見客は養分的なニュアンスは否めませんが、まあそのあたりはドラッグストアのポイントシステムのようなものだと思って諦めましょう。

同じ祇園の「にくの匠 三芳(みよし)」は東京のゲストばかりで港区の同窓会的な空気がありますが、当店のゲストの半分以上は地元の常連客。料理はもちろんのこと、立地も店構えも客も客あしらいも全てが京都らしいお店でした。

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