炎水(えんすい)/中目黒

アジアでトップクラスに有名な日本料理店「龍吟」で10年近く腕を磨き、副料理長まで務めた伊藤龍亮シェフが中目黒に「炎水(えんすい)」を開業。中目黒駅から徒歩5分ほどの住宅街、目黒学院の向かいという地味目な立地です。
店内はカウンターが8席に6席の個室。ゆとりのある設計であり厨房も広々。なのですが、シェフがあまり表に立たずキッチンにこもりがちなのが気になりました。せっかくスペースに余裕があるのに勿体ない。
酒は高い。グラスのシャンパーニュは税サ込で3千円であり、日本酒も1合2千円台のものがほとんど。前夜の「すし良月(あきら)」は酒が安くシュワッチできたことを考えるとテンサゲです。
まずは旬のハマグリの吸い物に炭火焼き。おおー、初っ端から旨味抜群歯ごたえ抜群。印象的な幕開けです。
続いて明石のイイダコ。丁寧に優しく炊かれ箱入り娘的に繊細な味わい。酒は進むのですが、前述の通りすげえ高いから気持ちよく飲めないのが悔やまれる。
煎りたて擂りたてのゴマをたっぷりに身にまとったフキとウド。香り良く美味しいのですがゴマはゴマであり、これだけで感動できるほど鋭敏な感性を私は持ち合わせていなかった。
指宿の鰹節に利尻昆布で取ったお出汁。タネはアイナメにウルイにミョウガ。アクセントに木の芽。やはり繊細な味わいでインパクトに欠ける面はありますが、アイナメがすげえ旨かったのでオッケイです。
お造りはトラフグ。伝統的な盛り付けも良いですが、当店の丸っこいプレゼンテーションも可愛らしいですね。中々の厚みで食べ応えもグッド。上質なアンキモを自家製のポン酢に溶いてフグを浸したその時、私は絶頂に達してしまったのです。
焼きの白子でトドメを刺されました。バリっと炙って外皮がムチりと固まり、対して中身はトロトロと魅力的な舌ざわり。
焼きふぐは2種の部位。ヒレ近くはマッチョで食べ応えがあり噛みしめるほどに旨味が流れ続けます。他方、後頭部のあたりはゼラチン質で官能的な味わい。
お口直しにたっぷりの大根と香草。まさにジャパニーズ・サラダといったあしらいであり、口元がスッキリします。
銚子のキンメダイはバリっと炭火で焼きましょう。何でも当店の名前の前半部は炭火を表しているらしく、店主は「龍吟」で焼き場を長く担当しただけあって屈指の出来栄え。紅芯大根もバリバリに焼いてしまうのも面白い。本日いちばんのお皿でした。
炊き合わせは筒状の器に串に刺さって出てきます。タネはウズラの卵にスジ(?)にアワビ。いうなれば史上最強のおでんであり、チビ太に感想を求めたいレベルです。
トラフグ再登板。今度はじっくりと揚げられ旨味が凝縮。黒七味を塗せば大人のケンタッキー・フライド・チキンであり、濃厚なクラフトビールあたりがばっちり合いそうです。
おや、もうライスが出てきました。フグにキンメダイにと見事な魚が続きましたが、やっぱり肉も食べたかったかな。ちなみに中央上の小皿は和牛のホホ肉の煮込みであり、きちんと美味しかっただけに主役級として食べられなかったことが悔やまれます。
炭水化物はもう一品、ふぐ雑炊です。これまでのフグ料理の集大成とも言うべき味わいであり、心温まるフィニッシュでした。
デザートのプリンは謎にキャビアの瓶に入って出てくるのですが、中身はどこにいったと問い詰めたい気分です。
デザート2品目はイチゴぜんざい。プレゼンテーションとしては面白いですが味わいは地味。見た目通りの味覚でした。
ケチって飲んでお会計は3.4万円。気前よく飲めば4~5万は余裕ということを考えると、銀座でもあるまいしちょっと高ぇよなあという印象。文句なしに美味しいですが、文句なしに高い。特に酒が高い。酒類にここまで残酷な価格設定ができるとは、恐らく店主はアルコールにあまり興味がないのかもしれません。

また化粧っ気たっぷりの「龍吟」の芸風とはまるで異なり、涙袋にヒアルだけといった地味目な調理も気になるところ。今夜は妙にフグ尽くしだったので、季節を変えて食材にバリエーションがあればまた印象は違うのかもしれません。しばらく様子見です。

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