est(エスト)/大手町

2020年9月にオープンした「フォーシーズンズホテル東京大手町」。既に丸の内にもあるのに改めてご近所にと、面白い出店方針です。客室数は190室と小さめであり、商業ビルの上層階にあるため通りすがりのオバサンがロビーに溜まっているということはありません。
空間はかなり広く、どこまでが座席でどこまでが装飾かわからないほど豊かな誂え。なのですが、テーブルクロスは張られておらず音楽もポップであり、客単価の割に驚くほどカジュアルです。サービス陣は美男美女揃いで鬼スタイリッシュ。外資系ホテル従業員特有の気取った感じはありますが場慣れした空気も纏っており安定した仕事ぶりです。

ギヨーム・ブラカヴァルシェフは西新宿「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」からの引き抜き。この時期に仏人シェフなんてよく来日できたなあと不思議に思っていたのですが、なるほど元々日本にいた方でしたか。
ワインの値付けは市価の3~4倍はあたりまえで、加えて15%のサービス料と10%の消費税が炸裂します。ホテルでのアルコールとはそういうものだと頭では理解しているものの、やはりひきつけを起こしてしまいそうなほど高い。
アミューズが凝っている。たっぷりのビスククリーム(?)には旨味と甘味たっぷりの海老。ズッキーニを細切りにして盛り付けた1口も面白い味覚であり、なるほどこの時点で当店の料理はS級だと理解しました。
カボチャのペーストを春巻き状にしたものにクリーミーなソースを注ぎ込みます。ソースにはキャビアがてんこもりもりであり、魚卵の塩気を上手く活用しています。大人のタピオカミルクティーである。
キノコ型のパンはシンプルな味覚ながじっくりと旨い。きな粉を塗して大豆でできたフムスを付けて食べるなど面白い試みです。
松茸登場。薄切りでなくエリンギのようなカットであり、ムニムニと食感を楽しめるのが嬉しです。付け合わせに置いた栗や塩気を付与するためにハムを用いるなど斬新な松茸料理です。
お魚料理はマナガツオ。水分を上手に残した調理でありしっとりとした噛み応え。お魚そのものは淡白な味わいなのですが、ソースに牡蠣の旨味が凝縮されています。
メインはホロホロ鳥。ベーシックな調理にベーシックなソースであり、もちろん美味しいのですが華はありません。ひとりあたり何万円もするディナーなのだから、もう少しゴージャス感が欲しかった。
私の願いが通じたのかオマケでもう一皿。先のホロホロ鳥のモモ肉をラビオリに詰め込みチキンのエキスと共に水餃子風に頂きます。当然に美味しいのですが映えることもなく、テンサゲな状態でお食事部門はフィニッシュです。
デザートに入る前にチーズ、ではなくチーズ風味の豆腐。「チーズだと重すぎるから豆腐で代用」とのことですが、これが全然美味しくない。普通にチーズで良いのだけれど。
デザート1皿目はイチヂクにヤギのミルク。名誉挽回、こちらの甘味は抜群に美味しいです。ヤギ特有の香りと酸味を上手に活かしており乙な味。藁に見立てた細長いクッキーはサント・モール・ド・トゥレーヌ(藁が入ったヤギのチーズ)に対するオマージュでしょう。
続いてカモミールをテーマとした一皿。何て愛らしい。しかも外観だけでなく味覚までキッチリとしており、本日一番のお皿です。

ところで今夜はお誕生日祝いでお邪魔しているのですが、デザートへの工夫というサービスは実施しておらず、代わりにシェフからのメッセージカードが送られます。これが友達に寄せ書きで送るバースデーカードのようなポップさであり笑える。
小菓子も雑な作り置きということは決してなく、微に入り細を穿つ、パティシエの気迫が感じられる逸品。これは2020年私が食べたミニャルディーズの中では最高峰のクオリティでした。
そんなに飲んでいないのですが、それでもお会計はひとりあたり4万円弱。くわー!高い!エクスペンシブ!これはヤバイデン!その割に雰囲気はカジュアルで接待使いするにはノリが軽すぎであり記念日使いも勿体ない。お隣のパレスホテル「エステール(ESTERRE)」であれば、より格式高くエレガントな時間を3~4割引きの価格で楽しむことができることを考えると色々ちょっとアレでした。

もちろん料理は美味しくサービス陣にも手落ちは一切ないので、これはひとえに経営サイドの問題でしょう。どこに向かいたいのか良くわからないレストランでした。

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