浅田屋(夕食)/金沢

金沢随一の観光スポット「近江町市場」すぐ近くにある「浅田屋」。1659年には加賀藩の加賀薄中荷物御用として、1867年には旅籠「淺田」として、そして現代では金沢を代表する料亭旅館となり、ミシュランの星も獲得しています(写真は公式ウェブサイトより)。
宿泊施設そのものについての説明は別稿に譲るとして、当記事では夕食をご紹介。我々が滞在している部屋とは別に椅子とテーブルをご用意して下さり、晩餐会のはじまりはじまり。
酒が高い。どの瓶ビールも千円超えであり、吟醸酒など1合で数千円もします。ここのお店はあんまりお酒が好きじゃないのかなあ。左党であれば胸が痛んでこういう値付けはできないと思うのだけれど。
先付は色々あるのですが、タコポン酢(?)に白海老このわたがけ、ドジョウの蒲焼がハイライト。むむむ、結構酒が進む味付けじゃないか。となると先の値付けとのギャップに混乱してしまう。
ハモの葛打ち。単に茹でるのとは違って、いったん葛粉をまとわせることでなめらかな食感を持たせるそうな。ツルっとしたジュンサイの舌ざわりも相まって食感を楽しむ一杯です。
ヒラメの薄造りにアラの昆布締め、マグロ、車エビの洗い。アラの昆布締めがかなり気合の入ったビビッドな調味であり、造りというよりも別の次元の新たな料理のように感じます。
万十貝(まんじゅうがい)やボタンエビをチンチンに熱した石の上でサラっと焼きます。生で食べるよりも甘味が増し、食感にもリズムが生まれた。
胡麻豆腐と甘鯛の揚げ出し。胡麻豆腐のトロっとした食感に衣のジュワっとした舌ざわり。甘鯛の旨味の凝縮感。濃いめの味付け。直線的に美味しい一品でした。
ノドグロの塩焼きに鮎の風干し焼き。素材なのか調理なのか、このノドグロは全然美味しくなく、鮎のほうがレベルが上に感じました。
赤茄子に太刀魚のソテー、そしてかなりしっかりとした量のホタテ。盛り付けや味覚の重ね方がフランス料理的であり、個人的には好きですが唐突感のあるお皿でした。
加賀の郷土料理である合鴨の治部煮。これは強烈な味付けでストレートに美味しいですねえ。加えてギザギザの麩の新鮮さや逞しい合鴨の味覚など、手元でもう少しホップする江川卓のようなストレート味でした。
お食事は鰻の白焼きゴハン。美味しいのですが迫力に欠ける。味噌汁も漬物も平板なものであり、鰻を食べているはずなのに質素に感じてしまうフィナーレでした。
水菓子で〆てごちそうさまでした。

今回は1泊2食付きでひとりあたり6万円ほどなので、この夕食に係る配分は3万円ほどでしょうか。だとすると支払金額の割に点数の伸びないディナーです。決して不味いわけではありませんが全てが無難な料理であり安全牌。記憶に残る味覚に乏しい。
部屋に戻ると既に布団が敷かれており、風呂には既に入っているしあとは歯磨きをするだけ。どれだけ泥酔しても布団にさえダイブすれば何とかなる。料亭旅館の美点とはそういうところなのかもしれません。旅館は皿の上だけで評価するものではないのだ。

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