焼鳥 茜/神楽坂

神楽坂から早稲田方面へ。軽く人里離れた変わった立地にある焼鳥屋。大将がソムリエと、ワインに一家言あるお店。
乾杯はビールで。グラスの質がよく、瓶ビールとは思えないほど美味しく頂けました。あのグラス欲しいなどこで売ってるんやろ。

「紹介します、僕の新しい彼女です」と、プレイボーイ。『新しい』という余計な修飾語に苦笑い。彼女はややタレ目がちな瞳が印象的。きゃりーぱみゅぱみゅの髪のトーンを落としたような外観で、平たく言うと超かわいいです。ちなみに「きゃりーぱみゅぱみゅ」の本名は「きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ」です。これ豆な。
まずはキンカンのスモーク。キンカンとはちょうちんのタマゴの部分であり、鶏の卵巣の中で卵の形になる前、すなわち殻と白身に覆われる前の卵黄です。薫香が心地よく、ちょうちんとして食べるものとはまた違った食感。先頭打者ツーベースヒットです。
左から菜の花の白和え、煮た大根に柚子胡椒、油揚げ。菜の花が春の到来を告げる味覚で美味。おでん的な大根に柚子胡椒とは新しい試みですが意外に合います。油揚げもホクホクと温かく安心する味覚。

「こいつ、いい奴で、誕生日にレフェルベソンスおごってくれたんすよ。しかも家からのタクシー送迎付き」「ああ、ボーナス出たばっかだったからさ。500万円貰えたの」俺とも付き合ってくれないか、思わず告白してしまいました。
サラダが抜群に旨い。緑色の味が濃く、実に瑞々しい。焼鳥屋で食べる野菜としては世界トップクラスでしょう。

「食事は良かったんですが、隣の客が品が無くて嫌でしたね。バカみたいに高いワインをガブガブ飲んで、『フェラーリ5回買い換えたけど全然乗って無い』って話を5回ぐらいしてて。まあ、そういう話につい聞き耳を立ててしまう自分のことも嫌になっちゃうんですけど」と、溜息をつくプレイボーイ。
ササミはレアな火加減で、生肉好きには堪らない逸品。個人的にはこの生焼け度合いを維持しながら、十番の嶋家のような特大ポーションで提供してくれるともっと好き。

確かにここ最近、都内の予約困難店の客層が物凄く荒れてきたように感じます。先日も友人が、「せっかく『鮨さいとう』に行けたというのに、隣の客が成金で、愛人に毎月いくら払ってるだの下品な話が丸聞こえでゲンナリした」とのこと。そこらへんのケアはお店側がきちんとして欲しいよなあ。
白をグラスで飲もうと、いくつかボトルを並べて頂いたのですが、連れが好きなドメーヌがあったので、値段も聞かずに1本注文。「アリゴテだと価格に安心感がありますからねぇ」いつか値段を気にせずワインを飲めるようになりたいものだと頷きあう。
ネギマ。ネギが細々としており、また、胸肉を利用しているためゴージャスさに欠ける。個人的にはどぎついモモ肉に、中からエキスがとろけ出そうな太いネギを用いたネギマのほうが好きです。
揚げたてのさつま揚げ。これは美味しいですねえ。おにまるのさつま揚げも好きですが、当店のそれはさらに魚の質に拘り、思い切り良く揚げられているという印象。外皮はザクっと、内側はふんわりと魚の香りがしてグッドです。
トマトの串は色調に変化をもたせた3種。悪く無いのですが、ややアッサリとし過ぎるきらいがあります。合間合間にベーコンでも挟んでくれると緩急あってリズミカルに食べることができたかもしれません。
モモはボテっとした個体であり極めてジューシー。勢い良く焼かれた皮目がパリっと甘い。宇宙人に焼鳥とは何かを説明する際に、この串を1本出せば理解してくれることでしょう。
さえずり。気管(食道)であり、弾力のある食感が特長的。脂も強くコッテリ。赤ワインに合わせるに最適なのですが、注文したワインのボトルがセラーの奥深くに隠れてしまっていたようで、この串には間に合わず残念。スタッフの少ないお店なので、客側は早め早めの注文を心がけましょう。
特大のシメジは非常に香り豊か。食感や味覚もさることながら、香りを楽しむ1本でした。
7,000円と、レストランで飲むにはお買い得だったので狙い撃ち。果実味と酸味のバランスが素晴らしく、適度なミネラル感。焼鳥とあわせるにはこれぐらいが丁度いい。
レバーはプリンのように柔らかくエレガント。間違いなく美味しいのですが、やや上品すぎるきらいがあり、個人的にはもっと大ぶりで迫力のあるポーションのほうが好きかも。まあそこは人それぞれでしょう。
サッパリとしたタマネギで口直し。連れはタマネギが嫌いで残していたので、すげえダサかったです。

「タケマシュラン、よく読んでますよ!小笠原伯爵邸のくだりは本当に同感!あたしなんて頭きて、3皿目で帰っちゃったもん」ミシュラン星付き店を3皿目で帰るとは。私は余程のことが無い限りはコースの途中で帰ったりはしないのですが、そういえばあの時も「もう帰ろう」と言い出したのは女だったか。女とは見切りの早い生物である。
つくねは挽き方が細かく緻密な食感。卵黄の品質も上々であり、つくね好きには堪らない一皿。無理に串に刺して食べる必要は無く、皿の上で自由にミックスできるのもいいですね。
砂肝を揚げた一皿。ありそうで無い料理であり、ありよりのあり。このフライっぷりにはビールだと、慌てて一番絞りを投入。うむ、ぴったりじゃ。
このあたり酔っ払って参りまして、記憶が曖昧です。手羽中だったっけなあ。手羽のどこかの部位だったような気がします。
これはハツだっけなあ。野趣溢れる味覚が舌を支配し、先のサントネーにぴったりです。

「こいつ、ほんといい奴で、デートしてても基本的にワリカンなんですよ」なるほどそれはいい奴だ。「自分が食べた分は払うの、当たり前でしょ?親から『自分が食べる分は自分で稼ぎなさい』って言われて育ったし」なんとシンプルかつ強力な教育方針。素晴らしい親御さんである。
〆にもう1本と勢いづく我々。こちらも確か7,000円程度であり、ワインの値付けは全般的に良心的です。

「だいたい、男の人がご馳走してばっかだと心理的に負担じゃない?すると、会う回数も自然と減ってくる。そんなことなら自分の分は自分でちゃんと払って、そのぶん色んなお店に一緒に沢山いきたいな」いい女である。こじらせ男子の皆さん!結婚するならこういう女の子ですよ!
せせり。私の大好物であり、さっぱりとした塩味と先の白がベスト・マッチ。互いの程よいボリューム感もちょうど良かった。
シイタケの内側に挽肉(?)を詰めた一品。結論から述べると本日一番のお皿です。シイタケの香りと旨味がザラっとした食感の肉の隙間に入り込み絶妙なハーモニー。追加注文して本当に良かったと思えたものでした。
そり。骨盤の内側にあるピンポン玉大の筋肉です。独特の弾力と風味が香ばしく、銀座レカンで食べたヴェッシー包みとはまた違った趣がありました。
〆の1本。内部に生の黒胡椒を仕込むという面白い試みに、
「ここは是非コチラと!」と満を持してグラスでお出し頂いた、シラー先輩。エマニュエル・ダルノーのクローズ・エルミタージュ・レ・トロワ・シェーヌ。圧倒的な凝縮感と品の良いスパイスの香り。本日のベスト・マリアージュ賞。
〆のお食事は親子丼かお茶漬けを選ぶことができ、私は親子丼を所望。これがまた旨くって、満腹一歩手前の胃袋にもスルスルと落ちていきます。濃い目の出汁にストップウォッチで測ったかのような玉子な火の通り。高品質な鶏肉。パーフェクトな親子丼でした。
連れはお茶漬け。お茶漬けと言っても鶏スープが流し込まれており、徐々に火が通っていくササミ肉が実に旨そう。次回はこれにしてみよう、というのは嘘で、親子丼とお茶漬けの両方を注文しようと思います。
鶏のスープで〆てごちそうさまでした。このスープにも救いようの無い美味しさがあり、これに中華麺を放り込めばラーメン屋としても大成することでしょう。

お会計は3人で5.2万円。焼鳥屋としてはギョっとする価格であり、もう少し安くあがると嬉しいのですが、そもそもワインとは高い飲み物であるし、山ほど追加注文して20皿近く食べたので、ある意味リーズナブルで納得感のある支払い金額です。

追加注文はせず、ビールなどの安い酒でやり過ごせば6~8千円に落ち着くかもしれませんが、やはり当店の真骨頂はワインとのマリアージュ。加えて最近妙に威圧的な高級焼鳥屋が多い中、店主の柔和な態度やマダムが醸し出す居心地の良さには何事にも変えられない価値がある。焼鳥屋としてはある意味異色の存在であり、ワイン好きであれば一度は訪れたいお店です。


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麻布十番と同様、小さな街ながら魅力的なレストランが数多ある神楽坂。この街で生活を送れば充実した食生活になること間違いなし。一度住んでみたいです。
神楽坂に特化したグルメ本は以外と少ない。本書はモテたい人向けの飲食店情報が中心。高級店やバーなどの紹介が多く、神楽坂らしさが凝縮されています。グラビアの田中みな実の雰囲気が妙にマッチしてる。