トラットリア・ヒロ(TRATTORIA HIRO)/銀座

表参道「リストランテ・ヒロ」や「テストキッチンエイチ(TEST KITCHEN H)」でおなじみ山田宏巳シェフのカジュアルライン。「ワインと串カツ GINZA 六覺燈 Vin」と同じビルにあり、この建物のエレベーターは銀座で一番並ぶので、時間に余裕をもって訪れましょう。
カジュアルラインと言えども夜はきちんとクロスが張られるようです(写真は公式ウェブサイトより)。我々はランチでの訪問だったので、テーブルにランチョンマットという簡素なコーディネートでした。
前菜盛り合わせ。生ハムとサラミのスライスにカプレーゼ。揚げ物は左からゼッポリーネ(ピッツァ生地に海藻を入れて揚げたもの)、ズッキーニ、メカジキ。今あなたが想像している通りの基本に忠実な味わいであり、素直に美味しい。

「例の不倫相手といい加減、手を切ろうと思ってさ」宥和政策を信条とする彼女が何かを決意したように言う。だがしかし、彼女は3年前も同じことを言っていた。
ヤリイカとタケノコ、カラスミのスパゲッティーニ。タケノコのスライスならびにヤリイカのカット、麺の太さがピッタリの取り合わせ。シンプルなオイルベースの調理に仕上げのカラスミがベストマッチ。先の料理と同様に、抜群の安定感を誇ります。

「あたしは子供が欲しいんだよね。あたしはそれなりに稼ぎがあるし、実家も近くて親も子育てには協力してくれるっていうから、この際シングルマザーでもいいんだけど、肝心のカレ(不倫相手)が『認知は絶対にしない』って言うんだよね」彼女はワイングラスを軽くつまむ。指先は、彼女の意志や記憶とは別の人格を持ったようだった。
フォカッチャは水分が飛んでおりモソモソとした食感であまり好きなタイプではありません。もちろんすべては好みの問題です。

色々とツッコミどころは多いですが、まずは男が認知したがらない理由を問う。「認知すると現行の家庭にバレちゃうんだって。今の生活は絶対に壊したくないから、金は出しても認知だけはしないって言ってる」そのへんの法律(?)は改善すべきですね。認知したことがバレない仕組みが整っていれば、認知数は飛躍的に増加し世のシングルマザーのためになるのではないか。日本男児は世間体を気にする生き物だから。
メインは「富士鶏のロースト、春キャベツを添えて」。こちらも見た目通りの素朴な味わいなのですが、ヒタヒタと水分を湛えた鶏肉が実にジューシー。春キャベツの優しい甘味も格別であり、こういう料理なら毎日でも食べたいと思わせる、心温まる味わいです。

でも、認知認知って、それって何か重要なこと?論点は養育費?そんなの総額で1,000万円とか2,000万円程度なんじゃないの?もちろん決して安くはない金額だけど、本当に子どもが欲しいなら、それが決め手になるってのも腑に落ちないんだけど。
デザートは抹茶のジェラート。これまでの皿運びに比べると急に投げやりな感じがあり、美味しくはあるのですがもう少し凝ったプレゼンテーションにして欲しいところ。されど去年の雪はどこに。

「確かにお金の問題じゃないわね。どちらかというと、覚悟の問題。カレが自分の意志で作った子供だって、きちんと認めさせたいの。『お前が欲しいって言って、勝手に産んだんだろ?』って言われるのが一番嫌だ」じゃあ、認知して養育費は年100万円と、認知しないで養育費は年1,000万円、どっちがいい?

「認知して、年1,000万円ね」お疲れ様でした。お会計お願いします。
コーヒーも全然美味しくなく、自宅マンションのロビーで出されるそれと同等かそれ以下です。うーん、これならエスプレッソにすれば良かったな。

デザートとコーヒーはさておき、やはり料理についてはシンプルに美味しい。昨今の見え透いた口先だけの追従とは異なり、ピントのしっかり合った、万人受けする料理でした。窓も大きく採光も健康的なので、プラトニックなデイトにちょうど良いでしょう。


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十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。