寿司 中川/片原町(高松)


高松在住のグルメ夫妻。彼らはなんだかんだいって食事だけで毎月東京に来ているので、まあ、普通ではありません。「高松で鮨だったら、ココか、鮨舳。あともうひとつ田舎寿司で人気なお店もある。でも、鮨舳はそもそもタケマシュランに教えてもらったんだもんね。東京に住んでるのに、普通じゃないよね」
まずはフグをドッサリと。フグは会食の大皿で互いを牽制しながら薄く薄く食べたことしかなかったので、このように各人にコンモリと盛ってくれるのは嬉しい限り。コリコリと歯ごたえが良く奥深くに白身の旨味。先頭打者ホームラン!
ズワイガニ。シーズンもシーズンで、タマゴがパンパンです。フグに引き続きポーションが大きく、日本酒が止まらない止まらない。
そうそう、この日は連れならびに大将が気を使ってくれたのか、香川の地酒で一揃えして下さいました。同じ銘柄で米違いヴィンテージ違いを飲み比べる至福のひととき。
ナマコにコノワタ。これは私の知りうる限り地球上において最も日本酒を飲ませる最強タッグです。そしてというべきか、やはりと言うべきか、いちいちポーションが大きく、大食漢の大酒飲みには堪らない演出。
お造り。イカがネトネトと舌先にへばりつき心から甘い。ヒラメにズムズムと肝を乗っけていくのも酒飲みならではの演出。このお店は下戸と左党の間で評価に開きがあるかもしれません。
ブリ。兎にも角にも脂が強い。「ちょっと脂がノリすぎているので、ワサビをたっぷりつけて下さい!」と大将より指導が入るほどのメタボ体質です。
マグロもブリと同様に見事な脂です。ちなみに2018年の初セリは、都内の仲卸業者「やま幸」が大間の405キロを3,645万円で落札したそうな。
海で採れた天然モノの鰻。ぐわああああ!旨い!天然モノというバイアスがかかっていることを抜きにしても、腰を抜かしそうなほどの美味しさです。バリンバリンと火で炙り、表面は香ばしく、食感は弾けるようなワガママボディ。デロンデロンのタレなどは一切不要であり、塩のみで素材そのものの才能を楽しむ。本日一番のお皿でした。
にぎりはイカより。妖艶かつ清澄という矛盾した味わいであり、今後の展開に期待を持たせる1カンでした。ちなみに当店のシャリは全体的に温度が高く、人によっては好き嫌いに分かれる部分もあるでしょう。
ヒラメ。極めて筋肉質な個体であり、その味も白身とは思えないほど濃い。東京で一般的に流通しているそれとは一線を画す味覚です。
フグ。冒頭の美味しさの集大成と言ったところ。いわゆるフグ料理屋のフグ刺しとはベクトルの異なる食感であり、やはり魚は厚切りであればあるほど旨いのではないか、と再考を求められるにぎりでした。
サヨリのにぎりなんて初めて食べました。魚介類はダイバーシティに富んでいる。東京で普通に生活しているだけでは今夜のような饗宴に遭遇することは無いでしょう。グルメの道に必要なのは、1にも2にもフットワークなのかもしれません。
赤貝には内側にキモを忍ばせて。ううむ、赤貝のキモについても口にするのは初めてだ。このように、日本酒を飲ませる工夫は大将の得意科目なのである。
サワラのヅケ。我々を県外客とみたのか、次々に近海物で攻めてきます。それにしてもサワラを鮨で食べるだなんて、これまた数年前に岡山を訪れて以来です。当店は鮨屋にしては珍しく、強くテロワールを感じさせてくれます。
サワラの焼き霜の握り。ちょうど「サワラは焼き霜で食べるのが一番だ」という会話を繰り広げていた最中に、大将がスっと横から出して下さいました。ちなみに焼き霜とは炙ったあと冷水に取る行為。皮を焼くことで生臭みが抜けて香りが出、さらには脂をたたえた一番のごちそうである皮目を一緒に食べることができるのです。
エビ。目の前で調理されたばかりのエビが丁寧に剥かれていく。素材に真っ直ぐ。実に良い色である。やはり鮨とはこうである。
ギョクは東京で流行りのフワフワケーキ仕立てではなく、いわゆる伝統的な玉子焼きそのものでした。
お椀が興味深い。酒粕のお椀なのかなあ。七草粥的な優しい味わいに仕立てられており、赤だしやすまし汁とはまた違った可能性を提示する一杯でした。
近海物じゃないですけど、もしよければ、と、ノドグロの炙りを頂きました。大変申し訳ありませんが、ものすごく美味しい。これまで近海物だのテロワールだのと盛り上がっていたくせに、ノドグロそのもののポテンシャルにはひれ伏さざるを得ない。
もう少し食べようということでネギトロ巻きを追加。ゴハン少なめタネ多め、海苔は極限までノリノリと、満腹ながらも美味しいところだけを楽しむという蠱惑的な一本。
デザートは黒豆のアイス。そのままでももちろん美味しいのですが、
酒をタプタプと注いで〆る道楽フィニッシュ。ごちそうさまでした。

お会計は飲んで食べてひとりあたり1.9万円。いいですねえ。写真を見返すと、あれ?これだけしか食べてないっけ?という、打率よりも打っている印象を受けたにぎりでした。

東京の鮨屋であれば確実に3万円は超える内容です。もちろん費用対効果だけでなく、テロワールを強く意識するコース仕立てなのも素晴らしい。テロワールとは決してテロワールという名の料理ではなく、それを実践することにある。鮨とは何もウニやマグロだけではないよと問題提起してくれるお店。高松にいらした際に是非どうぞ。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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