すし初/湯島


「もうすぐ夏だし、そろそろすし初行こうか」と大学時代の先輩よりお誘い。毎度毎度そうですが「もうすぐ夏だし」に特に意味はありません。
お通しはシイタケを炙ったもの。ロブション以来、温かいお通しがマイブーム。
ジャガイモのすり流し。和風ビシソワーズもかくや。滑らかであり、実によく練られています。貝の旨味も良いアクセント。
「そうそう、タケマシュランのことを知っている子が今夜来るかもしれない」と店主。すわ新手のストーカーかと身構える。和光同塵をモットーとしているのにまた見つかってしまったか。変な人じゃないといいのだけれど。
かき揚げは空豆と長芋、セロリ。セロリに全く臭みが無く、セロリ嫌いに食べさせてあげたい程キレイな味。長芋のホクホク感と空豆の青々しさよ。
ガラリと引き戸が開き、のれんの奥から私のことを覗き込む女の子。「やっぱり」と店主。「初めまして」と私に頭を下げる女。どういうことだ。
我々はスペシャルコースをお願いしているので、お刺身は2皿です。まずは白組。タイ、イカ、ヒラメ、甘エビ。初夏を感じさせる爽やかさであり、殊にタイが記憶に残りました。
決まりが悪そうに私に近づく彼女。「あの、去年の今頃、LAで、、、」おおー、タケマシュラン・ファン感謝祭インLAのことですね。確かにお話はよく伺っていました。急な用事で来れなくなったんだよね。
バイガイ。タコヤキ大のポーション。こんなにデカい貝があるか?濃い目に煮られたその味は日本酒を一網打尽。肝を口に含み日本酒で流し込む至福のひと時。
「初対面ですけど、気持ち的には偶然の再会が果たせた感でいっぱいです!」遅れてきた彼女の兄夫婦も含め、謎の貸し切り宴会の始まり始まり。
タイラガイを素揚げしたもの。大ぶりで歯ごたえ抜群。程よい揚げ具合がサクサク感を演出。海苔の磯の香りと共に酒を楽しむ。
5人が初めましてなのは間違いないのですが、それでも魚心あれば水心。カウンターで横一列に酒を酌み交わせばあっと言う間に10年来の飲み仲間。一視同仁などという言葉は欺瞞であり、やはり文化的背景が似通った人々と接するのが一番である。
お刺身の赤組。マグロが特に素晴らしいですね。品の良い鉄分に滑らかな脂。舌の上で流れて消え行く魚の旨み。カツオもちょうど良い季節。赤身とタタキの2種類を楽しむことができるのが嬉しい。
ちなみに私を除けば今夜の客は全てが商社マン。商事・物産・伊藤忠が出揃い、思わず住商を呼びたくなる。
太刀魚は背骨を中心に分厚く二段重ね。この迫力は猫に嫉妬されるほど。
今夜の仲間は私の友人の夫と同期であったり、週1ペースで飲んでいるご近所さんが先輩だったりと、共通の知人が多い。ちなみに私の飲み仲間の女の子は「会社で一番の美人」とのことでした。私の目の付け所はさすがである。
金目鯛はふたりで丸々一匹を食す。煮付けではなくサッパリとした調理がこの量を食べるにちょうど良い。金目鯛、好きだなあ。
而今。この酒の旨さは語るに及ばず。
私の連れは青葉台に一軒家を買ったばかり。写真を見せてもらうとウッドデッキが特に眩しく、近々のBBQを約束する。兄夫婦を見遣ると一軒家を買うべきかマンションを買うべきかで論争中。「だって、一軒家だと、24時間ゴミ出しできないじゃん!」日本は実に平和である。
シャケをワサビで食べるという試み。なるほどシャケは元来淡白な魚ですからワサビもきちんと合いますな。力強い脂を日本酒で飲み下す。ゴハンと一緒でなくオカズのみで食べ切る背徳感。贅沢は価値だ。
にぎりへ突入。怪しく輝くトリガイ。実に逞しい歯ごたえであり、お腹が空いたときのために歯茎の裏側あたりに忍ばせて置きたいレベルです。
冒頭の女の子に、ところで何処に住んでいるの?と尋ねると。恥ずかしそうに「あ、寮、なん、です、、、要町、、、」
身が締まり甘みのある白身がある。先のお刺身とはまた違った趣に溢れています。
大好物の海老。当店の海老のにぎりは特大サイズであり、一口ではおさまりません。黄味酢の誂えも見事であり、このとき私は幸せの頂点にいました。
しかし要町はNGである。平たく言うとダサい。ダサいというか、「要町の寮に住んでる」などと言われると、いつどこにどうやってデートに誘い出せば良いのかサッパリわからない。
連れは満腹でにぎりから脱落。しかも「ワリカンでいいから好きなだけ食え」と、写真を焼き増しして配る程の気前の良さ。舌で踊るホタルイカの苦味と旨味。日本酒は当然におかわりである。
ヅケはマグロの官能性を上手に引き出してあります。ほのかな酸味と甘味のバランス。
スジヌキは脂肪という名の蠱惑的な吸酒鬼。上質な乳製品を思わせる甘さ。
イクラも調子の良い漬かり具合。一粒一粒が輝いており、糸を通してブレスレットにしたいほどです。
アナゴはふっくらと炊きあがり、それでいてクドくない。ムシャムシャという表現が適切なほど肉厚です。
アカガイで磯の香りのスマッシュを決める。その外観は花びらのようでもあり、コリコリとした歯ごたえと共に幸せに入り浸る。
ところで今夜も多種多様な日本酒を楽しむことができました。やはり当店は酒を出す本人が料理を熟知しているのがいいですね。フランス料理もこういうスタイルが流行ればいいのだけれど。
密度の濃いギョクで胃袋を閉じ、ごちそうさまでした!
さて要町問題。最初は仲良くなれるかと思いましたが、やはり私の生活圏内からはかけ離れています。色々考えたけれど要町はちょっとダメだ、今夜限りにしよう、と彼女に絶交を通告。傷は浅いうちに対処する。
「あの、それならあたし、引っ越します!十番とか広尾とかならいいですよね?」こうしてまたひとつ、おにまるの座席が減っていく。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
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