クリオーゾ/広尾


女優との密会です。
文春砲の餌食にならないよう、穴蔵のような店の穴蔵のような個室を確保しました。店名のCuriosoとはイタリア語で「好奇心旺盛」という意味。名前の通り自由度の高いお店であり、コース料理からアラカルトまでイタリア郷土料理が百花繚乱。
ドラピエで乾杯。男性的な骨格と特有のふくらみのある酸が食前酒にピッタリ。

「最近、厄介なカメラマンに付きまとわれててさ」もうあの人の前じゃきちんと表情作れないわ、と伏し目がちの彼女。
アミューズはミニハンバーガー。解かり易い見た目と味わいで皆が大好きな味。ワガママを言えば、千切りにしたジャガイモのフレンチフライまで添えて欲しいところです。

「カメラマンってさ、どういう気持ちで撮ってるわけ?そこに恋愛感情はあるの?」うーん、僕はマタニティフォトとか、結婚披露宴とか、年賀状用の家族写真を付き合いで撮ることが多いから、そういう感じじゃないかなあ。もちろん純粋なポートレートは自分の好みの女の子しか撮らないから、当然に外観は大好きだ。それに、丸1日ふたりきりでデートしているようなものだから、素直に楽しくもある。
鮮魚の前菜盛り合わせ。右下から時計回りにヒラメ、アオリイカ、サバ、タイ、アジ、イサキ、中央はタコです。和食のように切って出すだけではなく、それぞれの素材に見合った一工夫が施されているのが嬉しい。特にサバは〆た後に炙りつつソースが添えられており、シェフの凝り性な一面がうかがえました。
ワインはイタリアワインを中心に5,000円代から。バランスのよい味わいで魚介中心の食事を邪魔せず安心して楽しめます。

「じゃあさ、今度あたしのこと撮ってくれない?宣材じゃなくて、作品撮り。もちろんギャラは払うから」ううむ、作品撮りか。はっきり言って苦手である。苦手な上に、キミからオファーを貰うだけで光栄だから、お金を取ることなんてできないよ、と答えると「ううん、タダほど高いものは無いって良く知ってるから、この業界にいるとね」
例えばこんな感じかな、と、彼女のスマホには古今東西の有名人の写真がギッシリ。面白いのはアニメや漫画の画像まで含まれている点。「漫画とかアニメとかのポージングってほんと魅力的。女の子の可愛い魅せ方、わかってるよね」なるほど。これまで二次元を参考にしたことはこれまで一度もなかった。今度、桂正和あたりを読み返してみよう。
魚のコロッケみたいな感じだったっけなあ。全然違っていたらごめんなさい。話に夢中で説明を聞き逃してしまいました。美味しかった記憶があることは間違いありません。

そうそう、この前の映画、すごく良かったよ。それにしても、よくあんな長ゼリフ覚えられるよね。「台詞はどんなに長くったって覚えられるものよ。きちんと台本を読み込んでおけば、文脈とか背景とかまで身体に沁み込むものだから。もちろん一言一句違わず、というわけにはいかないけれど、ポイントさえ押さえておけば大丈夫。テクニックとしては、テープに吹き込んで、ひたすら耳から覚えるってこともあるかなあ」
パスタは白身魚や青魚などの肉に種々のハーブ。トマトの風味をきかせて、味付けはカラスミです。これがもうメッタメタに美味しくて、思わずおかわりと叫びそうになりました。

そう言えばあの演出家、息継ぎまで指定するって聞いたよ、作品としては完成しているけど、役者がロボットになっちゃって、役者そのものは記憶に残らないんだって。
ハンガリー産マンガリッツァ豚のロースト。個体差なのか脂が強烈で、胸がつかえるパワフルさでした。

「息継ぎまで指定されると、ちょっと怯むなあ。でも、きちんと台本を読み込んで、脚本家の意図とかを理解したら、自然とそこで息継ぎするようになると思うけどね、優秀な役者だったら」
デザートはイタリアンにしては(失礼)きちんと手の込んだものであり、満足の行くものでした。ホワイトキュラソーを少したらして大人の味に変えることができるのがいいですね。

「このまえ共演したあのヒト、全く稽古して来なくってさ。本番でも無茶苦茶。そこは絶対だぞっていう重要フレーズまで間違えちゃうの。絶対に許さない。骨、折ってやろうかと思った」
「あたしも○○さん(私の名)の行動力、見習わないとなあ。ホラ、○○さんって、声かけるとすぐに日時まで決まるじゃん?普通、ゴハン行こうってなっても、そこからが長くて、結局自然消滅するものだから」

うーん、私に行動力があるというよりも『諦めは心の養生』という考えが支配的であるだけかもしれません。候補日時をこちらがいくつか送りつけて、そのうちのいずれかに決まれば◎、決まらなくても相手から代替案が出てくれば○、適当にはぐらかされたり、既読スルーされたりすれば、さっさと身を引くだけのこと。それは相手が悪いのではなく、『会う価値ナシ』と判断された私の実力が不足しているだけのことである。
お土産にと、お店からプリンを持たせて頂けました。卵黄が濃厚でバニラビーンズもたっぷり。町のケーキ屋とは一線を画す味わいです。自宅まで幸せが続くって嬉しい。

「コンビニ寄っていい?」パパラッチがいないことを確認してから彼女を家まで送り届ける。

「あ、これ、美味しいの、買ったげる」「わ、このお菓子、美味しそう」華やかな世界に身を置く彼女もプライベートでは普通の女の子。このままずっと仲良くいて欲しい思いと、全く手の届かない存在になって欲しい思いが交錯する。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。

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