オオハラ エ シーアイイー(OHARA ET CIE)/西麻布

西麻布の閑静な住宅街にあるフランス料理店「オオハラ エ シーアイイー(OHARA ET CIE)」。2000年創業と、この辺りでは中々の老舗です。地下に下っていく美術館のようなアプローチが印象的。
我々はランチにお邪魔しましたが、地階ながら吹き抜けのテラスに自然光が差し込み開放的な雰囲気(写真は一休公式ページより)。

大原正彦シェフは陸上自衛隊経たのちにフランス料理の世界へ。フランスの名店で経験を積んだ後、帰国後は「Q.E.D.CLUB」の厨房を統べました。2000年に当店を開業したのち、ミシュラン東京で1ツ星を獲得しています。
ワインはそう高くなく、お料理に合わせたセットも5杯で8千円かそこらと悪くなかったので、そちらを選択。PBのシャンパーニュに始まり、フランスの定番ものをたっぷり注いでくれ、きっちり酔えます。
アミューズは棒状の白身魚の微塵粉揚げにパニプリ。前者はサクッという快音とともに楽しむ上品な旨味が泡ものにピッタリ。後者にはらブルサンを思わせる濃厚でハーブ香るクリームチーズが溢れ出し、ディルの清涼感とエシャロットの微かな辛みが全体をキリッと引き締め、そこにトビコの弾けるような塩気がアクセントとして加わります。多層的な旨みが炸裂する鮮烈な幕開けです。
カリフラワーのムースとズワイガニのタルタル。きめ細やかでシルキーな舌触りからはカリフラワー特有の滋味深い甘さが感じられ、ズワイガニの濃厚な旨みと溶け合います。添えられたキャビアの強めの塩気が全体の輪郭をくっきりと浮き立たせており必然性がある。「追加でキャビアはいかがでしょうか?」などと提案する金満主義の阿保な店は見習って欲しいものです。
パンは自家製。穀物の深みが感じられる仕様であり、素朴な仕立てではありますが濃厚なソースと共に楽しむにはピッタリの味覚です。
続いてフォアグラ。らかな舌触りのフラン(洋風茶碗蒸し)と、表面をカリッと香ばしく焼き上げたポワレ。異なる二つのテクスチャーでフォアグラの脂の甘みを堪能できます。ここに絡むのが力強い香りのトリュフソース。フォアグラの重厚な旨みにトリュフの官能的な香りが奥行きを与え、まさにフランス料理を象徴する味わいです。「追加でトリュフはいかがでしょうか?」などと提案する金満主義の阿保な店は見習って欲しいものです。
お魚料理はしっとりと仕上げており、その土台に旨みの塊であるどんこ椎茸と、そのエキスをたっぷり吸い込んだナスのラグーを廃しています。山と海の出汁の共演が魚の淡白な味わいに深みを与える。ソースに忍ばせたイカスミの香りが仄かな潮のニュアンスとミネラル感をプラスし、料理全体にミステリアスな影とコクを添えています。
お口直しに白ワインとジンジャエールのグラニテ。白ワインの持つ上品な酸味とフルーティーな香りに、ジンジャエールのピリッとした刺激と細かな発泡感が重なります。冷たく潔い口溶けが味蕾に心地よい。
メインは黒毛和牛のザブトン。とろけるような脂の甘みと赤身の力強さが主題であり、そこに王道のフォンドヴォーソースが重厚なツヤとコクを与えます。興味深いのは付け合わせの栗のピューレで、その自然な甘みが肉の塩気と対比しています。オクラをベーコンで巻いたひと品も独特の食感とスモーキーなアクセントを加えてとても良い。
デザートはほうじ茶のクレームブリュレと黒ゴマのアイスクリーム。ほうじ茶の落ち着いた香ばしい香りと黒ゴマのビターな風味が良く合う。和のニュアンスをフレンチの技法で昇華させており、甘美でありながらどこか心落ち着く、食事の締めくくりに相応しい逸品です。
お茶菓子まで抜かりなく美味。ごちそうさまでした。以上のコース料理が1.3万円程で、ワインをたっぷり付けてもらっても2万円かそこらと大変お値打ち。見事な費用対効果です。

後から知ったことですが、大原シェフは先日急逝され、現在は共に道を歩んできた安田シェフがその跡を継いでいらっしゃるとのこと。老舗の安定感がありながら、どこかモダンで軽やかなプレゼンテーションを感じたのは、そうした背景があったからなのかと腑に落ちました。

巨星を失ったことはフランス料理界にとって大きな痛手ですが、彼が遺した料理という遺産は、今こうして確実に次の一歩へと繋がっています。個人の功績を土台に、組織や文化がまた一歩、階段を昇っていく。そんなフランス料理の前進を皿の上に見た気がします。料理は続いている。それがすべてだ。

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