鮨とかみ/銀座

銀座8丁目。かつて3ツ星「鮨 水谷」があった場所を居抜きでひきとった「鮨 とかみ」。運気が良いのか当店もミシュラン1ツ星を余裕で獲得しました。
若い2代目、小田将太シェフはシンガポールでの店舗立ち上げなどを経て先代の佐藤シェフ(現在は「はっこく」)と出会い、そのマグロと赤酢シャリの使用方法に魅了され当店での道を歩み始めました。
当店にもやはり飲み物メニューは無く、事前に値段を知ることができない。海外を訪れるとこういうことはまず無いのに、どうして日本の飲食店、特に和食はこうなんでしょうか。たとえ支払金額が高くても安くても、自分が納得した上で注文をしたいのだけれども。
閑話休題。まずはスペシャリテの「鮪突先の手巻き寿司」から始まります。突先(とっさき)とは、マグロの頭の付け根であり、よく動くのでマッチョとなりマグロの味わいが強くなる部分です。香り高い海苔の風味と良く合う。こういう選手宣誓は好きだ。
温菜としてアマダイ。液状化しつつある聖護院かぶらをトロりと注ぎ、タケノコ、ホウレンソウ、金時人参と共に頂きます。強めの出汁が内臓を刺激する。
ホウボウとコゴミはゴマのソースで頂きます。コゴミの大人の味わいにソースがベストマッチ。欧米系の料理人も参考にすべきテイストでしょう。
ヤリイカの印籠。シャリだけでなくレンコンが含まれておりシャクシャクとした食感。大葉の香りも良く日本酒が進みます。
ワカサギにタラの芽。やはりタラの芽の大人の苦味が心地よい。裏に豆腐の水分を取って裏ごししたものにタイの酒盗を混ぜ込んだひみつ道具があり絶品。これだけスピンアウトしてもツマミとして成立するでしょう。
メジマグロを塩漬けにし燻製した一品。塩漬けにすることにより塩気はもちろん旨味も増し、スモークの香りでバキューンと食欲を刺激します。
タチウオをシンプルに焼きました。これはまあ、タチウオですね。間違いなく美味しいのですが、これまでの手の込んだ料理に比べると印象に残り辛かった。
にぎりに入ります。まずはキンメダイ。厚切りながらもフワっとした食感であり美味。注目すべきは赤酢のシャリ。砂糖の甘さは感じられず、代わりに塩気と酸味をビンビンにきかせており個性が強い。好みは分かれそうですが、私はとても好きなタイプです。
スミイカ。素朴な甘味を提供する個体であったため、バリバリのシャリを背負うには荷が重く、シャリばかりが目立ってしまいました。
タイラガイは元々あまり好きな素材ではないので意見差し控え。
この春子鯛は美味しいですねえ。春子鯛って、序盤に味が薄くジャブな感じで出されることが多いですが、コチラは厚みがありもっちりとした歯ごたえもあって存在感抜群でした。
真打登場、マグロコーナーです。当店のマグロは築地仲卸「やま幸」の最高級国産天然本マグロであり、世界最高のマグロと言っても差し支え無いでしょう。まずは赤身のヅケ。調味ではなくマグロそのものの味がとても濃い。
中トロ。和牛のような食感と風味であり、異論は認めないほどの美味しさです。私は「高級店なんて仕入先は似たようなもんだから変わらんでしょ?」と当店のマグロについて半信半疑だったのですが、ごめんなさい、マジでマグロが旨いっす。
大トロ。脂が増して甘味がより強くなりました。中トロに比べるとちょっと下品に感じるかもしれません。
マグロのクリーンナップを堪能した後はコハダでお口を整えます。強いシャリにこれまた強いコハダ。しかし酸っぱいだけでなくきちんとコハダの美味しさも残っており、好きなタイプのコハダです。
車海老が面白い。ミキュイよりもより手前の火入れであり、甘味が頂点に達した瞬間に提供してくれます。当店はマグロだけじゃないのである。
サワラの昆布締め。コハダと同様に思いきりの良い締まり方であり、味濃いめ原理主義の私としてはちょうど良い。
イサキは少し炙っており、とにかく香りが良いですね。口に含む前からその美味しさが伝わってきます。厚切りでモシャモシャと口いっぱいに頬張る幸せ。
煮蛤も車海老と同様に見事な火入れであり、食感も香りも見事です。ツメの味わいは控えめですが、ハマグリそのものの味がとても濃いのでシャリの濃さも含め立派なツマミとして成立しています。
マサバは3枚重ねであり、銀座の三段論法である。ジトジトとした舌触りに艶っぽい味わい。
スペシャリテの「マグロコラーゲンスープ」。冒頭の突先の筋にはコラーゲンが多く含まれており、その筋をゆっくりと煮出したスープ。他の鮨屋とは一味違う演出で楽しい。ここでもう一本、最初の海苔巻きを出してくれるとテンション爆アゲなんだけどな。
バフンウニ。高さのある軍艦であり、ソフトクリームのようにウニが詰まっていて驚きました。何ともクリーミーで官能的な味わい。赤酢のシャリと共に舌先で転がして口の中でリゾットを作り上げます。
ノドグロ。ぐわー、旨い。味わいの複雑性を考えればマグロの上を行くといっても過言ではない味わい。当店はマグロマグロと騒がれていますが、他の素材も一級品じゃないですくぁ。君の水槽を食べたい。
穴子なフワッフワに仕立てられており、柚子の風味がいとをかし。タネそのものがここまでサッパリしているのであれば、ツメではなく塩で食べても良かったかもしれません。
玉子は肌理が細かくしっとりと甘く仕上がっており、表面はキャラメリゼ。まるで洋菓子のような味わいでした。
先にも述べましたが、「マグロで有名?高級店なんて仕入先は似たようなもんだから変わらんでしょ?」とほざいていた過去の私をしばきたおしたい美味しさがありました。また、マグロだけでなくノドグロ、クルマエビ、ハマグリなどマグロに比肩する味わいのタネも多々あり、病的なアタックのシャリと相俟って、相当好みの鮨屋でした。味わいに味わいを重ねる欧米的な発想で量もすこぶる多い。好みは分かれるかもしれませんが私は好き。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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