オー・プロヴァンソー(Aux-provençaux)/麹町

赤坂の老舗ビストロ「ボンファム」で20年腕を振るった中野寿雄シェフが麹町に開いたフランス料理店。南仏系の郷土料理を出すというわけではなく、プロヴァンスの温かな雰囲気、明るくリラックスしたムードを感じる店にしたいと思って名付けたそうです。
今夜は私のお誕生日祝い。「あなたが楽しめるよう、事前にじっくり相談しておいたから、期待してて」彼女は私のことを「あなた」と呼ぶ。枯れた夫婦のような二人称は不思議と心地よい。
飲み物はお料理に合わせて全てソムリエにお任せ。チラとワインリストを覗き見ましたが、結構お値段高めでした。
アミューズはカボチャのムース(?)に豚のリエットのコロッケ。特に後者がお気に入り。その名の通り豚のリエットをコロッケにしたものなのですが、豚の脂がほんのりと溶け美味。客の来店に合わせて温かいアミューズを出すお店はハズレが無いものである。
「ぼたん海老のタルタルとパスティスのジュレ」。なるほど、私の大好物である海老を中心に据えたコース仕立てのようです。とろりとした食感に官能的な甘さ。にぎりであれば3カン分はありそうなボリューム感も二重丸。
パンを紙袋に入れてテーブルに置くという面白いプレゼンテーション。なんでもオフィス街にある当店にはランチ時に忙しいビジネスパーソンが訪れることも多く、「パンを楽しむ時間がなかったから持って帰るね」というリクエストに対応するためとのこと。なんとも忙しい美食家である。
「車海老と帆立貝のマリネ 冬野菜 カルディナールの泡」。うほほ、また海老やねん。私が海老好きということは周知の事実ですが、実は帆立もそれに比肩するほど好きな食材であるということは意外に知られていません。「あたしは知ってたけどね、もちろん」
合わせるワインは王道のブル白。樽の香りがやや強くボリューム感のある1杯。ブルゴーニュってやっぱりいいなあと思わせてくれる造り手です。
「フォアグラのフラン仕立て ポートワインとコンソメのスープ」は特大サイズ。上から撮ったので分かりづらいかもしれませんが、ルクルーゼのラムカンLサイズほどの大きさであり、スプーンでたっぷりと心ゆくまでフォアグラとフラン(茶碗蒸し)を楽しむことができます。
「強いお酒でも大丈夫ですか?」と、ポートが登場。料理に用いられている風味に乗っかってくるチョイスはかなり好き。20%近いアルコール度数ながら結構な勢いでガブついてしまいました。
「オマール海老のポアレ 海老のロワイヤル ちぢみホウレンソウ」は、あろうことか写真を撮るのを失念してしまいました。このような失態は白金「キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ」以来3年半ぶりであり、それだけ興奮していたのだとご理解下さい。これでもかというほどのオマール海老に濃密なスープ。凝縮感のあるちぢみホウレンソウ。サービスの「オマール海老です、その他、特に説明はございません」という削ぎ落した説明がこの料理の凄味を物語っています。
唐突にキャラファージュされて注がれる白ワイン。なるほど当ててみよということですね。華やかな香りと甘味からゲヴェルツトラミネール、産地はドイツ、ヴィンテージは割と最近(←雑)と回答すると、産地がフランスであることを除いて正解。産地もアルザスとドイツ至近なので、まあ、ほぼ満点と言って良いでしょう。私は他人には厳しいが自分には甘いのだ。
「今日はイイニクの日(11月29日)だから、お肉も食べないとね」と、信州は阿智黒毛和牛サーロインの低温ロースト。赤身と脂が互いを引き立てあいながら混じり合っており、芯のある赤ワインソースも美味。王道中の王道の味わいです。
ワインも王道中の王道の味わいであり、好きなワインのセカンドでした。こちらもデキャンタージュされて出され、ボルドーと即答。左岸だと確信していたのですがそこまで言って外したらアレなので黙っていたのですが、やはり左岸。ああ、言っておけば良かった。こういう遊びの当て合いっこって、どこまで言及するかのチキンレースですよね。
まさかデザートまで海老だったりして、と冗談半分で彼女に問いかけると、笑顔だけが返ってきます。しかもその笑顔はニコニコではなくニヤニヤであり、なるほど本当にエビのバースデープレートがやってきました。これは震える。私への愛が感じられました。
主力の甘味はモンブラン。品の良い甘さに濃密なクリの風味。ナッツの食感と香りが程よいアクセントです。
小菓子も勿論お手製。ショコラの濃密な甘味に舌鼓。「このお店にして良かった」わたし以上にニコニコと幸せそうに笑う彼女。「あたしは大満足だから、あなたも大満足でしょう?あたしたち、食の好み、一緒だもんね。あたしはあなた、あなたはあたし」
「今夜は特別な夜だから、車もお願いしていたの」と、食事を終えると軒先に黒塗りの高級車が待機していました。白手袋で恭しくドアを開ける運転手。シートに身を預けると車は音もなく走り出す。「いつも素敵な時間をありがとね。感謝してる。あなたは私を、私の知らない世界に連れ出してくれるから大好きよ」彼女は小さく、しかしながらはっきりと意思を込めて囁いた。


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