シルー (SHIROUX)/恩納村(沖縄)

ハレクラニ沖縄のメインダイニング「シルー(SHIROUX)」。ミシュラン2ツ星の外苑前「フロリレージュ(Florilege)」の川手寛康シェフが監修を務めるイノベーティブ系レストラン。
リゾートホテルのレストランとは万人受けするべきものなので、イノベーティブを出すなんて勇気あるなあ。テーブルにはサンゴプレート的な台に、イノベーティブ系おなじみ素材のみ記載されたメニュー表が置かれます。
料理に合わせたドリンクのペアリングをお願いしたのですが、まずはアルコールかノンアルコールの分岐があり、続いてアルコールのペアリングの中でもワインで通すかカクテルを混ぜるかの選択があります。ワインラヴァーの我々は当然にワインのペアリングを注文。乾杯はシャンパーニュなのですが、段取りが悪く最初の一品が出るまでかなりの時間を要したためすっかり飲み干してしまいました。
「ウェルカムドリンクにサトウキビのジュレとさんぴん茶です」とのことでしたが、青山一丁目「ナリサワ」の森の水クラスに意図のわからないものでした。これが青山スタイルか。
左はゴーヤのフリットにトリュフを重ねたもの。アイデアは悪くありませんがゴーヤの苦みがややきつい。右の牛肉のタルタルはベーシックに美味しかった。
ジーマミー豆腐にスモークチーズ。これは新しい発想ですねえ。甘く切ないジーマーミ豆腐の味覚にコクの強いスモークチーズの風味がベストマッチ。
焼き芋に見立てた紫芋(?)。悪くないのですが甘味が強すぎるきらいがあり、序盤で食べるにはやや重い。
伊勢海老にバターソース。伊勢海老は悪くないのですが、バターソース(?)の出来が雑であり、とてもバラバラに感じました。
合わせるワインは山梨の白。当店はペアリングのワインをたっぷりは注いでくれるのですが、これがどういうワインで何故この料理と合わせるかの解説がないためとても事務的に感じます。
パンは蒸しパン(?)。コンパクトな味わいで、肉まんの生地のような風味です。
「島だこ」とのことであり、素材そのものは悪くないのですが、やはりソースとの一体感がありません。
雑穀のリゾット。これ単体ではまあまあですが、やはりなぜ島だこと合わせて出すかの必然性が感じられません。
合わせるワインは甲州のオレンジワイン。ワインに罪はありませんが、やはり島だこに合わせる理由がわからない。ワインのチョイスに見切りをつけた妻は「やっぱりここからカクテルのペアリングに変えてもらって良いかしら?」と死刑判決を下す。感じの悪い女である。
グルクンのから揚げにブランダード(タラのペースト)。グルクンは淡泊ながらも凝縮感があり、高温でガリっと揚がって酒のツマミに最適です。
他方、付け合わせ(?)として別皿で出されたものはゴールが全く見えない味覚でした。何がしたいのかサッパリわからん。
続くワインはコチラ。料理に合うか合わないかはさておき、もともと好きなワインではあるので恵比須顔。
メインは「島豚 分かち合い」という表記だったのですが、何が何とどう分かち合いなのかの説明が全くなされず、これでは単なる不思議ちゃんではないか。肉としては普通に美味しいですが、やはり主旨の見えない料理です。
やはり別皿で出される一品。豚足でありなるほど豚足の味がするのですが、だから何といった味覚です。
ワインはボルドーのメルロ主体。先の淡泊な豚肉に合わせるにはヘヴィすぎるでしょう。合わせるのであればもう少し軽やかな赤を。
デザートに入ります。ヨモギのチップスにシークワサーのタレ。不味くはありませんが、今あなたが想像しているような味わいです。
2皿目はカカオバターに酒粕、黒糖。やはり悪くはないのですが、妙にドロドロとしており何を食べているのかの素材が全く伝わってこない1皿です。
さんぴん茶などを用いた小菓子。沖縄の食材を使えば良いってもんじゃないと思うのだけれど。

ちょっとこのお店はやばたにえんですね。「イノベーティブ」というコンセプトがかなり屈折した形で伝わっており、川手寛康シェフは本気で監修しているのかと小一時間問い詰めたい。それぞれの料理が美食の核心に触れたことは一度もなく全てが軽佻浮薄。ラグジュアリーホテルのメインダイニングで酒をたっぷり飲んで2.5万円におさまる点は評価できますが、それでもこの味覚のレベルであればその辺の居酒屋で同じ金額を飲み食いしたほうが満足度は高いでしょう。
もちろん監修という立場からは関与できる範囲は限られているため、どうしようもない点が多々あることはわからなくもないですが、いちフロリレージュのファンとしては言いたいことが山ほどある。彼のこの店への関与は黒歴史として刻まれ、早晩後悔することになるでしょう。
徹頭徹尾、意図の見えないレストランでした。ハワイのホテルを沖縄に出しておきながら、なぜ東京のイノベーティブ系料理をメインダイニングに据えるのか。これならハワイの適当なレストランで働く日系3世のトーマス・ニシムラ(仮名)あたりをシェフに置き、それっぽいハワイ・リージョナル・キュイジーヌを提供したほうがまだスタンスがはっきりするというもの。現場の料理人やサービスの巧拙はさておき、会議室の企画レベルで齟齬のあるレストランでした。


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