銭屋(ぜにや)/金沢

金沢の繁華街・片町交差点から歩いてすぐの場所にある「銭屋(ぜにや)」。金沢屈指の高級料亭であり、ミシュランでは2ツ星。ゴエミヨにも掲載され、世界的なイケてるレストラン組合「ルレ・エ・シャトー」にも加盟しています。ただし「エルメネジルド・ゼニア」とは関係ありません。つまんないですかそうですか。
金沢の料亭には珍しく、個室のほかカウンター席も用意されています。カウンター席のほうがライブ感が楽しめる上、サービス料が個室に比べると安いので、接待でもない限りカウンター席を予約したほうがお得でしょう。
髙木慎一朗シェフは高校大学とアメリカに留学した国際派。京都の「吉兆」で修業したのち、実家の当店に戻り家業を継ぎ、弟の髙木二郎シェフと共に歴史を紡ぎます。ちなみにアマン京都のメインダイニング「鷹庵(たかあん)」は当店のプロデュースです。

アルコール時短営業中の折に訪れたのであまりお酒は楽しめなかったのですが、後で明細を確認するに思いのほか安かった。
季節のお花と共に開幕。まずはアカニシ貝に山菜。コリコリとした食感に食欲が弾む。私の世代ではアカニシと言えば仁なので、いえ、何でもありません、つい口が滑りました。
お椀はオコゼ。清澄なお出汁の味わいに負けず劣らずクリアなお魚の味わい。木の芽の香りの余韻が爽やか。
お造りはサヨリとマコガレイ。東京だとマグロが派手派手に盛られバーンと価格が跳ね上がる瞬間ですが、金沢の名店はそういった野暮な行為から距離を置いています。旬の食材をそのままキレイに外連味のない美味しさ。
鰻は塩焼きで。これでもかというほど脂に溢れた個体であり、まるで揚げたかのように表面がカリカリに仕上がっています。歯を差し込むとフンワリとろっと流れる鰻の身。これほどまでの鰻は専門店であっても中々出会えることはありません。爽やかなトマトの味わいは程よい口直しに。
八寸。チマキの中にはサクラマス。右上の器にはクジラの肉が盛り付けられており、馬肉のように力強く、それでいて清澄な味わいです。
炭で焼いたノドグロにボイルしたホタルイカ。ノドグロは期待通りの美味しさ。ホタルイカのボイルって、スーパーのお刺身コーナーの上段にひっそりと並べられている印象で、高級料亭で食べるものなんかいなと半信半疑でしたが、ひと口食べて絶句。羽毛のように柔らかな口当たりに濃密な味噌が口の中で爆ぜる。ホタルイカという食材のポテンシャルを感じるひと皿でした。
お鍋に向かいます。ここに地元の牛をたっぷり放り込むのですが、その前に希少な花山椒が山ほどぶち込まれており、もはやサラダの域に達しています。
肉が旨い。真っ白くしつこい脂など微塵も感じさせず、肉そのものが美味しい。量もたっぷり。加えてタケノコなどの山菜も気の抜けない美味しさです。
〆のお食事は2種。まずはノドグロ丼。〆のお食事としては大層きっぷの良いポーションであり、厚切りでリア・ディゾンのように肉感的でトロっとした舌ざわり。先の炙りとはまるで異なる食材のようです。
続いてタイと新ショウガの炊き込みご飯。タイの清らかな味わいにショウガのピリっとした爽快感が胃袋のスペースを押し広げます。
さすがに満腹になったのでオニギリにしてもらいました。が、翌朝フタを開いてびっくり、こんなに可愛らしく整然としたオニギリは初めてです。程よく水分が飛び凝縮感が生まれ、また違った愉しみです。
デザートは自家製のバニラアイスにアップルマンゴー。バニラアイスの分量は何かを間違えているのではないかと疑うほど濃密でコッテリした味わい。色などもはや緑がかっています。
さらに草もち。最後の最後でドッシリとしたヘヴィ級の甘味であり、もう満腹ですギブギブギブ。お抹茶と共にごちそうさまでした。
以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり2.5万円。わおー、なんと香ばしい費用対効果なのでしょう。東京のアホな店なら倍請求されんぞマジで。味はもちろんのことホスピタリティも素晴らしく、「金沢屈指の高級料亭」と紹介されつつも「つば甚」のように慇懃無礼ではなく温かな接客が堪らない。金沢でしっかりとした日本料理を食べたいのであれば、いの一番に検討すべきお店です。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。