ラトリエ・ドゥ・ノト (L'Atelier de NOTO)/輪島

輪島塗や朝市で有名な輪島の街の中心地にあるフランス料理店「ラトリエ・ドゥ・ノト (L'Atelier de NOTO)」。金沢や富山の市街地から車で2~3時間を要する僻地ですが、素材の良さは折り紙付き。当店はその「能登の食材を紹介する媒体」としてその存在を主張しており、食べログ百名店に選出されています。
輪島塗の塗師屋の工房であった古民家を改装した店内。中庭をぐるりと取り囲むテーブルセッティングがロマンティック。サービス陣はホスピタリティたっぷりで居心地の良い時間を演出してくれます。

池端隼也シェフは石川県輪島市生まれ。大阪の「カランドリエ」で腕を磨いた後、フランスの名店で数年を過ごし、帰国後に当店を開業。「料理人として故郷である能登の素晴らしさを世界に発信する」が彼が自らに課した使命です。
酒が安い。私は運転があるので炭酸水一本勝負ですが、グラスのシャンパーニュなど1,200円であり、連れは実に気前よく飲み始めました。「遠慮がない」という表現がピッタリの飲みっぷり。あー、やっぱ輪島で1泊すれば良かったな。
アミューズはタラの芽フリットにサヨリ。揚げたての山菜の大人の苦みが食欲に着火します。サヨリは想像以上に熟した味わいであり、官能的とも言える濃密な味わい。ああ、ワインを飲みたい。
いわゆるオイスターシューター的なもの。しかしながら熱を加えており仄かに温かく、絹もずくの磯の風味オレンジのオイルのアクセントが印象的。七面鳥の出汁とも見事なコラボレーションを奏でています。
新タマネギのババロア。品の良い甘さにウドのエキスが上手く差し込みます。具材にガスエビを用いとしており、その濃厚な味わいに、暫し会話が途切れてしまいます。
パンは素朴な味わいなのですが、おー、これこれ、フランスのフランス料理店で出てくるパン!と妙に納得してしまう説得力のある味わいです。やっぱりフランスに長くいた料理人は出すパンのクオリティが格段に上がる気がする。技術が上がるというより、下限が上がりいい加減なものは許せなくという印象。
能登の名物であるフグ。そのを正面に置き、フランにはそのエキスと白子を忍ばせます。差し色のビリジアンは春菊のソース。ワカメを登用するのも面白く、フグにこんな食べ方があったんだと気づきを与えてくれるひと皿でした。
フグのすり身で作ったブーダンブラン。付け合わせにアワビの身を用いており、またソースにはアワビの肝を。仕上げの泡はカメノテの出汁を採り入れています。海の幸がたっぷりであり、肝のソースでバレイヤージュしたかのような躍動感が感じられました。
サワラはレア感を残しつつビリっと皮目を炙っており、味覚にグラデーションが生まれます。濃厚な魚介のソースもパンチ力抜群。白眉はリゾット。魚介の出汁で炊いており、日本人であれば誰もが納得の味覚でしょう。
お口直しはフキノトウのグラニテ。氷菓というよりはパウダー状に仕上がっており、フキノトウよりもフキノトウらしい苦みがきいて、瞬く間に口腔内がリセットされました。
メインは地元の牛肉のカツレツ。これが牛肉かと驚く滑らかな舌ざわり。肉の味がとても濃いため、カツのようなクドめな調理がちょうどよく感じます。付け合わせの山菜も地元感があって心憎い。
デザートはクレームブリュレにヨーグルトのアイス、イチゴのソース。いずれも誰もが食べたことのあるベーシックなお菓子ですが、これぞ最上とも言えるクオリティ。当たり前のものが当たり前に美味しい。自称イノベーティブ系のヘンテコなスイーツを出すシェフは当店に学びに来るように。
焼きたてのフィナンシェにハーブティで〆。ごちそうさまでした。以上のお料理がコースで9千円。ワインが安いので、そこそこ飲んでもランチで1.5万円を超えることはまず無いでしょう。都心で同じものを食べたとすると3~4万円は覚悟しなければならないクオリティです。
何より能登の食材に拘り、それらを自身の技術とセンスで個性的に仕上げるというコンセプトが素晴らしい。まさに「能登の食材を紹介する媒体」。「若者よ故郷へ帰れ。その町の市場へ行き、その故郷の人のために料理を作りなさい。」という言葉が改めて身に沁みたランチでした。

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