TWO ROOMS GRILL|BAR(トゥールームス)/表参道


青山の商業ビルAO(アオ)の5階、隣り合った2つのビルの同じ高さのフロアをブリッジで結んだKLのアレのようなレストランです。サンフランシスコを拠点とする、「エイト(8)」というデザイン集団が手がけた内装は開放感と温もりに溢れ、めちゃくちゃカッコイイ。
自慢は原宿駅方向を望むテラス席。意外に高層ビルが少なく見晴らしが良いですね。

グランドハイアットのオークドアのサービス隊長だった方が関与しているようであり、そのためかスタッフやゲストに外国人が目立ちます。芸能人も多く、この日だけでも私が認知した限り2人の知った顔がいました(以上、写真は公式ウェブサイトより)。
5月とは言え暑い1日だったので、まずは生ビール。ちなみに生ビールは1,000円、グラスシャンパーニュは2,400円と、超ウルトラ高級ホテルのメインダイニング級の価格設定です。

「友達が婚約したって報告してきてさ」 軽蔑の意を含んだ声色で彼女は言った。おめでたい話じゃないか、と言いながら無理やりグラスを重ね合わせる。その女の子と私との間には何の関係もない赤の他人ですが、昼間からアルコールを乾杯する口実にはなり得ます。
連れはスプリッツァー。一般的には白ワインを炭酸水で割るだけのカンタンなカクテルなのですが、当店のそれは色とりどりのフルーツが含まれておりオシャンティです。

「うーん、絶世の美女ってわけじゃあなくて、地味なOLなのに、急にインスタの羽振りが良くなってさ。心配になって直接会って話を聞いたのね。そしたら婚約相手は投資コンサルタントらしくって…」投資コンサルタント、と私はひとり繰り返す。

「突然高級ホテルとか、高級レストランとか、高級車とか、バカでかい指輪とかをアップするようになってさ。それが、『婚約者に買ってもらった』とは絶対に言わないのね。『カレは投資のパートナーなの。共同出資よ』って言い張るわけ。近々に投資用のマンションを買うんだってさ」なるほど、これは結婚詐欺の良い練習問題である。
スペシャリテ(?)のシーザーサラダ。フレッシュなロメインレタスに粉雪のようにチーズをふりかける。そのチーズの量が度を越していて、もはやサラダというよりは酒のツマミに感じてしまいました。風が吹くとチーズが飛ぶ。これはこれでありよりのあり。

婚活サイトや出会い系アプリが発達した昨今、職業や年齢からある程度の収入や住宅ローンを組める金額などが推定されやすくなったため、詐欺師たちの活動が効率的になりつつあります。ターゲットは30代の生真面目な独身OL。『あたしってまだまだイケる』感を煽るのがコツ。バリキャリであればあるほど自分に自信がありプライドも高く、人に相談するということが無いため騙し易いそうな。

詐欺集団はもっともらしい節税スキームを披露し、今後の結婚生活をイメージさせ、最初の第一歩として投資用のマンションを購入させる。もちろん投資用のマンションを販売する業者はグルであり、実際の相場よりも数倍で購入させた後は、性格の不一致なり何なりで破談に持ち込むという手口です。

ポイントは被害者女性が自ら判断を下していることですね。婚約を承諾したのは自分であり、ローンを組むのも自分自身。そのように契約させる雰囲気を醸成するのが勘どころ。ある意味詐欺というよりは、マインドコントロールに近い手法なのかもしれません。
パンのお味はまあ普通なのですが、先の粉チーズとドレッシングを塗りたくって食べると結構旨い。

連れがパスタセットを注文しようと、本日のサラダは何かと外国人店員に尋ねるのですが、「本日ノpastaハ、イカ、デス」としか答えない。私からトマト系ソースか、オイル系かソースか、しまいには何色か?などのようにベーシックな単語を用いてゆっくりと聞き取り易い発音で繰り返し聞いても「イカ、イカ」としか情報は得られません。これでサービス料10%か。要塞のように冷ややかに店員を睨みつける彼女。葉山庵Tokyoでの「コレハアマイ!コレハアマイ!コレハアマクナイ!コレハアマイ!」事件を思い出しました。
答えはバジルソースでした。バジルは英語やんけ!しかしながらサイコロ状にカットされたイカがゴロゴロと入っており結構美味しい。濃厚なバジルソースには手堅い旨さがあり、麺の茹で加減も悪く無い。なかなかレベルの高い料理であるだけに、スタッフのサービス能力の低さが悪目立ちします。

「あたしのココロが荒んでるから素直に祝福できないのかなあ。もしこれが、純粋な恋愛だったらどうしよう」うーん、詐欺に合うぐらいならまだマシで、長い目で見た場合、純粋な恋愛のほうがタチが悪くないでしょうか。もし仮に私が石油王だったとしても、心底惚れた相手に対してそのような品の無い物量作戦で口説いたりは絶対にしません。
私のメインはBBQ グリルバーガー。上質な牛肉を粗挽きにし、ミディアム・レアで仕上げたパティが実に旨い。200グラムというボリュームも嬉しい限り。タマネギ風味のソースも後を引く美味しさです。ただしサラダとコーヒーがついて3,400円は割高。

そもそも金銭感覚の不一致は価値観の不一致であり、ひいては夫婦関係の不一致に繋がるものでしょう。年収数千万の男性と年収数百万の女性が30歳を過ぎて結婚して上手くいくはずがない。親友5人の平均年収が自分の年収だ、とは良く言ったもので、金銭感覚が異なる人種との関係は、いずれ破綻をきたすものである。
付け合せのポテトが旨い。ジャガイモ丸ごとを5ミリ間隔ぐらいにスライスし、そのままワイルドに揚げるだけなのですが、イモの素朴な味わいがじんわりと響きクールです。

タイタニックではジャックが死んだから悲恋の傑作として成立することができるけれど、仮にふたりとも生き残った場合、全くの異国の発展途上国で、大金持ちのニートの女と、手しか書けない売れない画家がふたりでひとつの道を歩むことは極めて難しいと考えざるを得ないでしょう。
食後の飲み物にはアイスコーヒーをチョイス。これが冒頭の生ビールに匹敵するほどの量で、まともに味わえば1時間はもちそうな代物です。味はまあ中くらい。

僕が警察を装って、彼女に電話を1本入れようか?警察のものですが、結婚詐欺グループが捕まって、彼らのターゲットリストにあなたの名前があったんですけど大丈夫ですか?って。

ふたりでランチセットを食べ、酒を1杯づつ飲んで9,000円弱。予見していたことではありますが、費用対効果が良くないですね。繰り返しになりますが、このサービスレベルの低さでサービス料10%は納得がいきません。ただし圧倒的な割高感があるためか、客層が一定程度保たれており、空間と客層を買うという意味では悪くない選択かもしれません。

「うーん、でも、その子のプライドを傷つけたくないからなあ。だからさ、あたしに良い考えがあるの。あなたにも少しだけ協力してもらうことになるけど」彼女は悪戯を思いついた少年のような笑顔を浮かべて言った。

~つづく~


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