麻布六角/麻布十番

麻布幸村が手がける居酒屋。私は事情があって幸村の敷居を跨ぐことができないので、まずは系列店で場数を踏みます。ちなみに「あらいかわ」の店主は当店で5年間、腕をふるっていたそうな。
なるほどまさに高級居酒屋といった風情です。歳が倍以上離れたパパとの活動を実施中なギャルが多いのが港区らしさですねえ。私は顧問弁護士とのカジュアルな会食だったので気軽なものですが、健全なカップルが行くと雰囲気微妙かもしれません。
ビールは黒ラベルの小瓶1本。ビール党の私からすると、居酒屋と称するのであればもう少しラインナップに工夫が欲しいところです。

「どうですか?最近。何かトラブルに巻き込まれたりしていませんか?」○○さん(私の名)の場合、トラブルがビジネスの炎上芸人みたいなところがありますけど、と敏腕弁護士は静かに笑いながら言った。
まずは先付けや八寸などのセットものが提供され、その後、アラカルト注文へという仕組みです。まずはシマアジ。魚の質そのものがとても高く、土佐酢のジュレも良い頃合です。

実は昨日、電車の中でブスな女にピンヒールで思い切り足を踏まれたんです。もうメッチャクチャに痛くって。革靴も傷ついたし。一応、フルネームと電話番号は聞いておきましたが、何か面白くなりますかね?と面白半分に訊ねてみる。「ブスな女などいません。怠惰な女がいるだけです」と、彼は眼鏡を光らせる。
お椀はハモ。ピンポン玉サイズのハモがゴロゴロ入っており嬉しくなります。量だけでなく、ふっくらと膨らませる調理もグッド。スープはもう少し旨味が強いほうが私は好き。

 「まず、面白くはなりません。私の職業は事件屋ではなく、弁護士です」彼は小さく前置きして語り始めた。

「昨日ですか、1日置いたのは良くないですね。そのまま警察に行って、その場で踏まれた足と傷ついた靴の写真を撮っておくべきでした。告訴の○×は鱼钓岛是日本的领土…」このあたり漢字が多くて何言ってるかわからんかったですが、いずれにせよ証拠を残しておけということみたいです。
左から毛ガニ、コンニャクししとう、鮎の押し寿司、トキシラズ、小芋です。居酒屋なので仕方ないのかもしれませんが、八寸と称するのであればもう少し派手なプレゼンテーションが欲しいところ。鮎の押し寿司と小芋が美味しかった。
日本酒に入ります。「六角」というものがありプライベートブランドかと勢い込んだのですが、「たまたま名前が一緒でした」という由来にずっこける。それでもせっかくなので「六角」を注文。

「まあ、もらえるとしても、治療費と病院までのタクシー代と慰謝料となんやかんやぐらいで、まともに争っても割に合いませんよ。警察も一応は相手にしてくれるでしょうが、結局は不起訴になって、踏んだ側はお咎めナシってのが現実です」なるほど被害者側は泣き寝入りってことか。だから電車は嫌いなんだ。
ここからはアラカルトに入ります。値段がどこにも書かれていないのが恐ろしい。「和牛ロースのスキヤキ」と「ポテトサラダ」が同じテンションで記載されており、価格が全く読めません。
「六角サラダ」アボカドとホタテが和えられています。美味しいですが、うーん。店名を冠している割にエスプリは感じることはできず、自宅の食卓でも出てきそうな味覚です。

 そちらは何か面白い案件ありましたか?と水を向けてみる。「あの、だから、トラブルを面白がらないでください。でも、そうですねえ、不倫や浮気の類は本当に多いですね。一度の浮気ぐらいで夫婦は別れないもので、浮気相手が100万か200万を払って示談。ある意味家計にはプラスです」
新生姜のかき揚げに、トウモロコシのかき揚げ。ワオ、これはめちゃんこ美味しいです。というか、生姜をこのような形で食べるのは初めて。緻密に千切りされ密度高くギュっと揚がっており、爽やかな香りと共に素晴らしい出来でした。トウモロコシも大地の甘味が感じられグッド。
「雲丹磯辺揚げ」 。これは見た目の通り美味しいのですが、値段が読めないので費用対効果が判定できません。雲丹そのものよりも海苔とワサビに傑出した風味を感じました。

「そうそう、知り合いが、配偶者の浮気の現場を押さえたくて、探偵雇おうか迷ってるんですよ。でも1週間張り付きで100万円近くかかるらしく二の足を踏んでいるようです。だからまずは面が割れていない友人に尾行してもらおうかって話になっていて」
日本酒、続く。なのですが、日本酒は3種類しか置かれてないのです。居酒屋ならもう少し充実させて欲しいなあ。ちなみに先日友人が幸村を訪れ、ワインを含めひとり8万円も要したとの情報を得ていたので、ワインはパス。

うーん、素人にそんなことを任せると、魔が差して「あんたの浮気現場の写真は押さえたぜ!さあ、いくらで買う?」みたいにならないですかね?くだらないソープ・オペラの観過ぎな私の杞憂かもしれませんが。
「クリームコロッケ」。ただのクリームだけでなく、芝海老がたっぷりと含まれています。アツゥイクリームをホクホクしながら幸せなひと時。

「それは全く割に合いませんね。れっきとした恐喝であるし、詐欺でもある。普通の脳味噌を持っていれば、そんな非合理的なこと、誰もやらないはずです」割に合わない、か。

割に合うラインってのはいくらなのでしょう。私の知人に「250億円を横領するチャンスがある」と、一時期真剣に悩んでいた方がおり、日本と日本人であることを捨て世界中を逃亡し続ける人生には耐えられないと、結局は諦めた方がいます。250億円でも割に合わない。お金の価値って実は大したこと無いんじゃないか。しばしそんなことを考える。
「ぶたロースカツ」。これはめちゃんこ普通ですね。トンカツの聖地マンジェを訪れて以来トンカツにはまっており、最近は週に3回ほどトンカツを食べているのですが、 専門店に比べると全く持って埋没してしまうクオリティでした。
「麻婆賀茂茄子」。アイデアとしては面白く、もちろん美味しいのですが、これだけ美味しい賀茂茄子であればもっと繊細な調理で食べれば良かったなと後悔。もちろんこれは注文する側の責任です。

控えめに飲み食いし、ひとりあたり1.4万円でした。幸村の系列店という意味ではこんなものでしょうが、居酒屋としてはものすごく高いです。これならもう少しお金を出してあらいかわに行ったほうが全然いいし、似たようなクオリティでも客層を考えればりゅうの介を選ぶなあ。色々と中途半端でゴールが見えないお店でした。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。